私と親友が知らぬ間に、私が親友をいじめていた件
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記事：庄司華（ライティング・ゼミ6月コース）
担任「庄司、何で呼ばれたか分かるよな？」
私「分かりません」
担任「尾崎、庄司とのことで先生に相談したいことあるだろう？」
親友「ありません」
担任「……今日は、庄司が尾崎をいじめている件について話したくて呼び出したんだ」
私＆親友「？？」
これは中学3年生の頃、空き教室にて担任からされた会話の一部だ。
皆さん、冤罪被害に遭ったことはあるだろうか。
私はある。
親友をいじめた罪で呼び出され、あわや乱闘の大事件を経験したことがある。
今回は「持つべきものは友」と「思い込みで、火のないところにも煙は立つ」を感じた出来事をご紹介しよう。
ことの発端は「校外学習」だ。
ド級ヤンキーグループに属する私と生徒会役員の尾崎ちゃんは、学内ではあまりつるまないが、放課後一緒に帰ったり休日にイオンに遊びに行ったりする事実上の“親友”。
校外学習の班分けくじ引きで奇跡的に同じ班に決まり、2人とも有頂天だった。
なお、他の班員6人も系統は違うが陽気なメンバーばかりだったので、当日は全員大笑いで過呼吸になりかける瞬間もちらほらあった。
夕方、「今日は楽しかったね〜」なんて語りつつ、班員みんなで学校へ戻る。
班員８人が横並びに歩ける広さの道などなく、帰路は横２列になって、横の子と話しながら歩いていた。そして、だんだんと歩くペースの違いが露わになり、2：6に分裂していった。
競歩ばりの速さで先を行くのは、「2」の尾崎ちゃんと優等生のA子ちゃんペア。
残る「6」は私とヤンキー、ギャル、運動部の面々。
非常に純粋な６人だったので、道端に咲いたオオイヌノフグリの名の由来に爆笑したり、軒先に寝そべる猫に気を取られたりしていた。なお、尾崎ちゃんの「遅いぞ〜」の声には、６人全員が「は〜い！」と元気な返事を返し、ときどきダッシュして追いついたりもしていた。だから、終始校外学習は和やかだった。
そして、翌日の朝突然呼び出され、冒頭の会話である。
担任の鬼の形相に、私も尾崎ちゃんも困惑していた。
否、私は「尾崎ちゃんは私のことを友達と思っていなかった説」を疑い、傷つけたかもしれないと疑心暗鬼になり、ちょっと泣きそうだった。
親友「私が、庄司にいじめられているんですか？」
口を開いたのは尾崎ちゃんだ。
思えばおかしな質問である。
担任「そうだ。先生は昨日見たぞ。尾崎が班員から仲間はずれになっているところを」
親友「いつですか？」
担任「帰り道、尾崎とA子だけハブられていただろう」
親友「私とA子が先に歩いていたと思うんですけど、A子もいたのに私がいじめられているんですか？」
この辺りから、自分が尾崎ちゃんをいじめていなかった安堵とあまりに冷静すぎる彼女のツッコミに、ちょっと笑いそうになった。それが良くなかったのだと思う。多分。
担任「おい！ ニヤニヤするな！ 証拠はあるんだぞ！ 写真も撮った！」
担任、怒りに唇を震わせながら、2：6で歩く私たちの写真を提示。
車で我々を追い抜いた際に撮ったのだと言う。
担任「みんなで陰口を叩くなんて卑劣極まりない！」
親友「なんで私の陰口を言っていたって分かるんですか？」
尾崎ちゃん強い……！ さすが、生徒会選挙でぶっちぎりの得票数を得ただけある。
担任の目に若干の動揺が浮かぶ。もしかしたら自分のとんでもない勘違いや思い込みに気がついたのかもしれない。とはいえ、今さら引けないと思ったのだろう。
引いてくれれば良かったのだが……。
担任「だいたい、お前たちみたいなのが仲良くできるわけないだろ!!!!!!!!」
ここで私の脳内に、試合開始のゴング音が鳴り響いた。
私「は？ めっちゃ仲良いですけど」
担任「お前がそう思っているだけで尾崎は迷惑してるんだ！」
親友「迷惑してません。誰から聞いたんですか？」
担任「見ていれば分かる！ じゃあ班員全員呼んでこい！ 証言してくれるはずだ！」
私「ふざけんな！ テメエが呼んでこいよハゲ！」
親友「庄司、ハゲは関係ない」
担任「オイコラ上等だコラ‼︎」
私「いいから行けって言ってんだよ！ 証言させてみろや‼︎」
親友「庄司、怒鳴らない。十分聞こえるから」
文字起こしすると愉快だが、当時はそれなりに緊迫した雰囲気だった。
尾崎ちゃんから冷静に諭され、正気に戻ったのと同時に、担任が残る６人を連れて戻る。
怒鳴り合いを聞きつけた他クラスの教師も、いつの間にか廊下に集まっていた。
担任「昨日庄司が何をしたか言ってみろ！」
響く怒号に「は？？」という表情を浮かべる5人。
「オオイヌノフグリの話をした……？」と答えるギャル。
突如開幕する、笑ってはいけない〜福岡某所中学校編〜。
だが、担任だけは未だブチギレモードで、手に持っていたバインダーを床に投げつけた。
刹那、廊下から飛び込んでくる人影――教頭。
ビビって叫ぶギャル。お前もう帰れ。
教頭「一体何をしているんだ！」
担任「俺はいじめを絶対許しません！」
教頭「誰が誰をいじめたんだ！」
親友「庄司が私をいじめたそうですが、私はいじめられていません」
担任「じゃあ誰が尾崎をいじめたんだ！ お前か⁉︎（ヤンキーを指さす）」
ヤンキー「●すぞ（近くの机キック）」
親友「先生は私をいじめられっ子にしないと気が済まないんですか？」
カオスってこういうことだな〜と、しみじみ感じたのを今でも覚えている。
私より火力の強いヤンキーが5・6個の机を蹴り飛ばし、野次馬していた体育教師に取り押さえられ、その迫力にギャルが泣き、優等生のA子が貧血で倒れ、運動部連中はしれっと空き教室から逃げ出していた。
教頭に「何があったのか」をガン詰めされる担任。突然大号泣。
大人が泣く姿なんて初めて見たので、私も尾崎ちゃんもちょっと気まずくなる。
教頭「謝りなさい」
担任「俺が悪かった。庄司、尾崎、許してくれるな」
私「はい」
尾崎「普通に嫌ですね」
尾崎ちゃん！！！！！
紆余曲折あったが、担任がクビになることも、ヤンキーが停学になることも、何より私が「尾崎ちゃんをいじめたクソ野郎」のレッテルを貼られることもなく、一件はぬるりと収束した。
いっさいの口外を禁ずるというアナウンスが流れた時には流石に「大人って汚ね〜」と引いたが、これを貸しにしておけば今学期の内申点は期待できるだろうという尾崎ちゃんの助言に則り、文句は言わなかった。
いじめられっ子のタマではないのだ、尾崎ちゃんは。マジで。
結局、なぜ担任が私をいじめっ子だと断定したのかも、尾崎ちゃんをいじめられっ子だと勘違いしたのかも分からない。ただ分かったのは親友の大切さと、あまり関わりのない相手でも話してみると存外楽しい場合があるということだ。
その後、本当にいじめられていた子を私とヤンキーで助けたり、尾崎ちゃんがギャルメイクにハマったりした。運動部の面々とも細く長くではあるが交流が続いた。楽しい中学生活だったと思う。もはや担任に恨みはない。誰にだって間違いはある。
ただ一つ残念だったこととすれば、私の内申点が大して底上げされなかったこと。そのくらいだ。
＊＊＊
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