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蝋燭の火が消えていくように、恋心も冷めていく


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:都宮将太(ライティング・ゼミ6月コース)
 
 
「えっ?」
私は目の前の彼女に聞き返す。私の聞き違いではない。
その言葉が嬉しすぎて鼓動が早くなる。
「よりを戻そう」
確かに彼女はそう言った。
私がずっと願っていた、復縁の二文字。
まさか彼女の方から言ってくれるなんて思わなかった。
私の返事は決まっている。
 
だが、何故だ。その言葉が出てこない……。
 
 
「♪♪♪」
耳障りな音で目を覚ます。
カラスが騒いでいたり、真夏のセミの鳴き声のように不快な音だ。
その音がスマフォから鳴るアラーム音と脳が意識した途端、心臓を鷲掴みにされるような感覚になった。
「夢……」
いったいこれで何回目だ。
今までに怖い夢、悲しい夢、辛い夢を見てきたが、その中でも一番残酷な夢だ。
現実世界で彼女に別れを切り出されメンタルが絶望状態の中、夢の中で彼女から復縁を提案される。当然だが、目覚めれば彼女はいないのだ。
毎朝来ていた「おはよう」のラインも、電話をしながら寝落ちしたときの「ごめん」のラインも、もう私のスマフォに受信されることはない。その現実が、針になって私の体内に入ってきては、心臓を刺しまくる。
そんな感覚に陥る朝は、これが初めてではない。
あの日から何回こんな朝を迎えただろう。また、あと何回こんな朝を迎えるのだろうか……。
 
 
私が二十代前半の時、友人から彼女を紹介された。それが出会いのキッカケだった。
「ビビッときた!」
と友人に言ったとろ、
「カッコつけるな」と言われたが、本当にそんな感覚だった。
彼女とは会って一週間もしないうちに、気づけば付き合っていた。
当時は毎日楽しかった。
毎日どうでもいいラインをして、たまに電話をする。
スマフォを充電器に繋げたまま電話をするため、電話が終わるころには充電器が火傷するくらい熱い。だが、それもまたよかった。
「二人の関係のように熱い」
今こうして文章に書くのも恥ずかしい言葉を、当時は平気で口にしていた。
彼女と会える日は仕事が全く苦にならない。むしろ、いつもより集中力が増していた。
「俺はなんて幸せ者だ」と毎日調子に乗っていた。
だが、振り子が大きく振れれば、その分、逆方向に振られるように、幸せな時間というのは長くは続かない。
私は幸せな状態に胡坐をかき、日々入っていく小さな亀裂に気づかなった。いや、気づこうとしなかった。
 
 
交際開始から二ヶ月が経過した頃、毎日何十往復と続いていたラインは一日一回、一往復と、頻度が急激に減っていった。当然だが電話もない。
「電話しよう」と提案しても、
「忙しい」と一蹴されてしまう。
そんな状態が約二ヶ月続いた。
その二ヶ月は非常に辛い。付き合っているのかも分からないし、その期間会うこともなかった。
「彼女と順調?」
と聞いてくる友人に、どう答えるべきかと、いつも悩んでいた。
一日一通のラインが何とか二人を繋いでいる。蝋燭に点火された、いつ消えてもおかしくない小さな火。二人の関係はそんな感じだった。
それから数日後、恐れていた日がやってきた……。
「今日電話できる?」
彼女から突然ラインが来た。もう嫌な予感しかしなかった。
消えかかっている蝋燭の火の前に、コップ一杯の水を傾けようとしている。そんな彼女の姿を想像してしまう。
 
 
「別れよう」
何ヶ月振りかの電話の第一声は実に残酷だった。
蝋燭の前に構えた水の入ったコップ。彼女は、その水を容赦なく小さな火に浴びせた。
これで完全に火が消えてしまった。
彼女の言葉は、あれから七年以上が経つ今でも、記憶から消えてくれない。
一体なんでこうなったのか。彼女が電話越しに別れようと思った理由を淡々と説明する中、私は自問していた。
いや、その前兆はあったのだ。
「なんか彼女の様子がおかしいな」
「今日はいつもより笑ってくれないな」
「最近手を繋ぐ回数が減ったな」
このような小さな前兆はあったが、私は気づかないふりをしていた。
二人の関係に小さな亀裂が入っていくのを知っていながら、その亀裂を修復しようとしなかった。
「あの時、彼女の変化に気づいて声をかけていれば……」
と、電話で別れ話しをしながら何度も思った。小さな亀裂であれば修復できたかもしれないが、完全に関係が壊れた今、もはや修復不可能だ。
 
 
「じゃあね」
彼女との最後の電話が終わった。
もう会えない。そう思えば思うほど心臓が痛くなる。大きな手で心臓を鷲掴みにされている感じだ。
スマフォの充電が危うかったため、充電器に繋いで電話をしていたが、電話が終わって充電器を抜こうと手に取った瞬間、火傷するような熱を肌に感じた。
彼女との気持ちは冷めきっているのに、それとは対照的に熱を持った充電器。そう思うと、言葉では表現できない虚無感が、私を襲ってきた。
当時の楽しい思い出や、彼女の笑顔が急に脳裏に浮かんできた。
その日、私は一睡もできなかった。
 
 
 
彼女と別れて七年以上が経った。
私は後悔と同時に誓ったのだ。
これから別の女性と交際に発展した際、その際は相手のことを注意深く観察しようと!
「いつもと違っておかしな点はないか?」
「いつもより口数が少ないんじゃないか?」
「いつもより笑顔がすくないかな?」
等、どんない小さな亀裂も見逃さないと!
だが、あの時の教訓は残念ながら恋愛に活かされていない。
何故か? 理由は簡単だ。恋愛に発展する機会そのものがないのだ。
しかし、幸か不幸か、相手のことを注意深く観察する姿勢は職場で非情に役に立っている。
営業ではお客様から
「よく見てるね」「じつは〇〇で困っている」なんて言葉をいただき契約に発展したことが何度もある。
職場の人間関係でも、私は小さな変化を絶対に見逃さない。
営業の男性職員が、少しでも営業成績が伸びれば褒め言葉を発し、事務員の女性が髪型やネイルを変えようものなら、それに気づき褒め言葉を伝える。
いつもと違う雰囲気を感じれば、それを必ず言葉にする。
そのお陰か、職場の人間関係はとても良好だ。
一度点火した蝋燭の火を守る。これは何も恋愛だけではないと知った。
職場や家族関係でもそうだ。今いる幸せな空間というのは永久的ではない。その状態に胡坐をかけば、必ず火は消えていくし、その前兆に気づかないのだ。
その火をもっと大きくしようなんて思っていない。ただ、その火が小さくなれば元通りに戻す。そんな努力を私は絶対に怠らない。
努力を怠った結果どうなるか。それは七年前の失恋で、嫌というほど知らされているからだ。
 
 
彼女に振られた当初は絶望的に凹んだが、小さな亀裂、小さな変化を見逃さない。そういう姿勢を学ぶことができた点では、彼女に感謝しないといけない。
もちろん、当時の私がそれに気づけないダメ男だったことが一番の原因なのだが、これからはそんな自分を変えていこうとも思えた。
 
この経験を次の恋愛に活かしたいと日々思っているのだが、それはもう少し先の話しになるかもしれない。
 
 
 
 
***
 
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2023-08-02 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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