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モラハラ上司に認められたから転職を決めた


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北本 亮太(ライティング・ゼミ6月コース)
 
 
「こんなことも知らないのか。新聞社から来たくせに使えないな」
 
ぶっきらぼうに吐き捨て、呆れた顔を見せる目の前の肉豚野郎。私はなんとも言えない心境になった。ああ。この会社もそうなのか。人生初の転職。パワハラ上司から逃れ、ウキウキ気分の私を待っていたのは残酷なお知らせであった。この会社はモラハラ(モラル・ハラスメント)上司が君臨している会社だったのである。
 
今から2 年半前、27歳のとき、私は新卒で入った新聞社を辞めた。記事を書くのは楽しかったが、相次ぐ上司からのパワハラに心を病んでしまったのである。転職で新しく選んだ会社は金属部品加工の営業職だった。畑違いの職種で戸惑う私の前に現れたのが、営業課長の竹山(通称:タケちゃん)だった。身長170センチ、体重100キロ(いずれも推定)。この男、仕事はできるが、口が悪い。その見た目と態度から陰では「肉豚野郎」と呼ばれていた。
 
タケちゃんは毎日のように誰かを叱責していた。報告、連絡、相談の報連相ができていない課員に対してはみんなの前で説教し、罵声を浴びたり、根拠のない見積は確実にやり直しさせたりした。営業課で決まったルールを破ろうものなら、ミーティングで長々と説教が続いた。それもいつも全力である。私も報連相ができていないと何度も説教を喰らった。
 
私自身、営業職は初めてなので、見積書を書くのも人生初めてだ。いろいろと苦戦して書き上げた見積書を見てタケちゃんは「ふん」と一笑いし、「相変わらず何も考えてないんだね」とため息をつきながらやり直しを求めてくる。
この肉豚野郎、何が言いたいんだ。
毎日叱責を喰らっていた私はとうとうキレた。
 
北本:あの、ちゃんと言ってくれないと、わかりません。課長みたいに頭良くないんで
タケちゃん:前に言ったこともできないくせに、偉そうに言うな
北本:何がですか。いつもキレてばっかり、意味がわかりません
タケちゃん:なぜ、原価の明細をつけない! 前にも言っただろう!
 
……。確かにできていない俺が悪いが、もう少し言い方ってのがあるだろう。ああ! むかつく。こうなったらとことんまでバトルしてやろう!
 
北本VSタケちゃんの始まりである。
 
まず、タケちゃんの苦手な部分を探してみた。すると、腰巾着のように、タケちゃんに忠誠を誓う1人の部下を除いて、社内に味方がいないことに気付く。
「なるほど、ここがやつの弱点だ」
私は社内で味方を増やすことに専念した。ところが、問題があった。工場内では現場と事務所の人間が喋ってはいけないというルールがあったからだ。タケちゃんが「現場で製造部員と話して勝手に決めるやつがいる」という理由から生まれた変なルールである。
 
意味不明なルールを作りやがって。くそ〜。どこか仲良くなれる場所はないものか……。あった! 喫煙所である。喫煙所なら工場内ではないし、話すことは許されるだろう。しかもタケちゃんは大のタバコ嫌いだ。ここまでは立ち入れない。私は禁煙していたタバコを復活させ、現場の人との距離を縮めていくことにした。
話していると、少しずつ現場の人も営業課の惨状に同情を示してくれる。そして、いろいろと話せる間柄になると加工技術についても教えてもらえるようになり、営業トークに役立った。
 
タケちゃん:この見積の根拠は何? よくわからないんだけど
北本:ああ、加工時間が大体これぐらいでできると聞いたもので
タケちゃん:そんな簡単にできるの?
北本:はい。できます。課長にはできないでしょうけど
タケちゃん:うるさい。これで出しなさい
 
タケちゃんとのバトルも「報連相ができていない」という低レベルな話から、加工のことや、仕事の中身へと徐々にレベルが上がっていった。ある日、喫煙所で納品の際の連絡が行き届いていないという話を聞いた。納品を担当する部署とタケちゃんが鉢合わせし、二度手間になったようだ。
あれだけ報連相について口うるさく言っていたのに、自分ができていないなんて! タケちゃんにその点を「おかしいでしょ」と指摘すると、タケちゃんは「営業課は納品係ではない。商談に行った。連絡する必要はない」という。
「それならばやり方を決めませんか? 建設的な話をしましょう」と言えば、タケちゃんも「社長に言えば?」と突き放してくる。ああ、いいだろう。私はわかりやすい資料を作って、社長に提案し、改善する方向に向かった。
元々文章を書く仕事に就いていたのだ。説明力なら負けないぞ。バチバチしながら少しずつ、仕事をこなせるようになっていった。
 
そうこうしているうちに、営業活動でも自分から能動的に提案できるようになっていった。見積書も根拠のある書面になり、タケちゃんからの文句も減っていく。タケちゃんの対応も徐々に「使えない扱い」から「できるやつ扱い」へと変わっていった。そして、こう言われた。
 
「さすがだね。頼りになるよ」
 
……。タケちゃんが俺を褒めるなんて、何か悪いものでも食べたのだろうか。今まで口うるさい上司だったタケちゃんからの賛辞は何か気持ち悪い。さらに、飲みに誘われた。まあいいか……。乗り気ではなかったが、とりあえず行くことにした。
 
居酒屋で酒を煽るタケちゃん。酒が進むうちに、身の上話をしてくれた。転職で自分の良さを認めてくれた社長に恩返ししたいこと、ものづくりが好きであることなど。その目には熱さが宿っている。
 
「一緒にこの会社の将来をつくっていこう」
 
タケちゃんから熱いメッセージを受けた。だが、私はその時に思った。
 
「私は、この会社で何がやりたいのだろうか?」
 
ものづくりに興味はあったが、元々手先が器用でもない。これは、本当にやりたいことだったのだろうか? タケちゃんのように、将来、ものづくりのことについて、私はこれだけ熱く語れるだろうか? そう。気付けば、自分の仕事のモチベーションは「タケちゃんを見返すこと」になっていたのである。だが、それは決して純粋な理由ではない。そして、タケちゃんに認められた今、これ以上僕の成長はないだろう。
 
私のしたいことは、何だ? そう、文章を書くことである。記者時代、純粋に物書きを楽しんでいたあの頃を思い出した。ライティングと別の業種でも頑張ったし、また自分のやりたいことをしても良いのではないか。
 
「すみません。転職します」
 
ライターへの転職が決まり、退職を告げた時のタケちゃんの顔は驚きの反面、少し納得していたような感じだった。なんとなく、私が辞める匂いを察していたのかもしれない。最近は私に怒ることはなくなっていた。報連相ができていないベテランへの当たりは相変わらず強かったが。
 
「そうか、お疲れさんやったな」
 
当初は大嫌いだったタケちゃん。たくさんの言い合いを経て、最後は認め合う存在になった。迎えた最終出社日、私はタケちゃんに向かって、深々と頭を下げた。
 
北本:今まで、ありがとうございました
タケちゃん:お疲れさん。キミの嫌味が聞けなくなるの、寂しいよ
北本:課長もお元気で。あ、課長は毎日、怒るパワーがあるから、ずっと元気ですね!(笑)
タケちゃん:うるさい! 最後まで可愛くないな
北本:それぐらい怒鳴れるなら、やっぱり永遠に元気ですね!
 
隣の部署から失笑が漏れ、タケちゃんは小っ恥ずかしそうな表情を浮かべていた。口撃は最後、私の大勝利で幕を閉じた。
 
 
 
 
***
 
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2023-08-02 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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