深夜のリビングに木を打つ音が響いていた時、母は誓った
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:むぅのすけ(ライティング・ゼミ6月コース)
深夜のリビングで、木を打つ音が響いている。
コツッ、コツン、コツッ……『ほっ!』コツン、『フン!』コツッ、コツン……
ところどころで、掛け声が出たり鼻息を荒くしたりしながら、時にリズミカルに、懐かしい木の音が鳴っている。
息子が、けん玉でいろんな技を決めようとしているのだ。
公立高校3年生の息子は、目下、受験勉強中の身である。
予備校には行かず、模試を指標に過去問を解きまくり、YouTubeで必要と思われる講義動画や対策動画を観ているようだ。
合間に、各大学の試験の傾向や、入学後にどんなことが学べるかの調査も怠らない。
とにかく、我流で突き進んでいるのである。
私立の推薦は受けないと言い張り、担任の先生から心配されまくっている。
私は、そんなアウトロー気味の息子を、心から応援している。
彼は、夏休みに本格的に家で勉強することにしたらしく、ある夜、もくもくと部屋の片づけを始めていた。
その途中で見つけたけん玉に、すっかり夢中になっているのだった。
時刻は深夜0時を回っていたが、週末だったこともあり、私は息子の『けん玉ショー』に付き合っていた。
『あとラスト一回! これで決める……うがー! アカン! あとラスト三回!』
『ん、それはもうラストちゃうよね。違う技にしたら……お! 決まったースゴイ!』
『次はヨーロッパ一周ね。世界一周よりムズイねんな~。見ててや』
『えー、まだやるんかいな……ほい頑張れ』
2人とも懐かしさを感じながら、彼はけん玉に取り組み、私は、成功したり失敗したりの一つずつに、大きく反応していた。
息子がけん玉に出会ったのは、小学1年生の、学童でのことだった。
彼が通う小学校には、3年生までの預かり保育制度があり、学校が終わると校内のプレハブ校舎へ行く。
『ただいまー!』とドアを開けると、祖父母の年齢に近い先生方が、『おかえりー!』と迎えてくださり、オヤツを食べたり宿題をしたりして過ごすのだ。
その学童保育では、全員が、駒回しと、けん玉に打ち込んでいた。
どちらも技が沢山あり、難度によって検定が用意されている。
皆、検定合格を目指して、一生懸命に練習していた。
思えば、中には興味の持てない子もいたことだろう。
令和の現代では自由参加型になっているかもしれないが、なにしろ10年以上前のことだ。
問答無用、当時は全員参加の取り組みであった。
当時、息子はすぐにハマって、学童でも家でも、とにかく練習しまくっていた。
次々に技を習得していき、かなり早段階で検定を全て取り終えていた。
息子はあの頃、小さな体で、放っておけば一時間でも二時間でも、駒を回したりけん玉をしたりしていた。
あの集中力はどこからくるのか、と感嘆したものだった。
だから、なんとかしてメカニズムを知りたいと思っていた。
当時は幼いので、何故そんなに頑張れるか聞いてみても
『面白いから!』
『楽しいから!』
返ってくるのは、男子児童の答えにありがちな言葉ばかりだった。
これでは、母の知りたいことは、わからない。
ちょっと深堀りして、どんなところが面白いかと聞こうものなら
『ん-……わからん! きゃはははー』
こんな感じで走って逃げてしまう。
言語化できず、またする気もなく、ただ考えるのが面倒くさいのだろう。
だから私は
『面白いのねー、楽しいならそれでいいか』
と、理解することを諦め、受け入れていた。
『男の子は宇宙人みたいで、女親に理解することは難しい』
と巷で言われていたことを、肌で感じていた頃だった。
いつしか息子も大きくなり、けん玉への興味もすっかり卒業していた。
あれから10年近く経った今、高校3年生になった息子が、気まぐれにしろ当時のように、必死でけん玉に取り組んでいる。
技の成功に向けて、角度やタイミングを少しずつ違えながらやっているうちに、必ず成功させているのだ。
10年前のあの頃にできた技だから、と
時に時間がかかりながらも、成功するまでやり続けている。
その姿を見ていたら、私にもわかったことがある気がしてきた。
彼があんなに集中して取り組み続けるのは、成功するまで諦めないからなのだろう。
そして、ただ闇雲にトライしているのではないのだ。
脳内で確実に計算して、角度やタイミング等をはかっている。
そのトライアンドエラーを繰り返すことを厭わず、成功するまでやり続ける。
このことを、息子に確認してみると、けん玉をしながら答えてくれた。
『当たり前やん。だから(技が)決まるまで辞めへんねん……数学の、問題、を、解くんと、一緒、や……よっしゃ、振り剣5回連続できたー!』
『あぁ、キミはそうやって受験勉強にも取り組んできたんだね……』
拍手をしてそう呟きながら、私は昔のことを思い出していた。
彼が幼かった頃には、まともに答えてくれなかったことしか記憶していなかった。
けれど、あの頃も、一生懸命考えながらできるまで取り組んでいたのだ。
それはとても、とても素晴らしいことだった。
そんな当たり前のことも軽く見過ごして、目の前の出来てないことばかり叱ってしまっていたな……
当時は、子育ての全てに、とにかく必死だった。
気づけないことも多く、無駄に叱ることも、ままあった。
自覚はしていたけど、改めて実感した。
ふいに申し訳なさが募った。
だがしかし、である。
けん玉を成功させて、底抜けの笑顔の息子を見て、今、謝るのは違う気がした。
共にいられるのもあと少しかもしれないからこそ、こんな時間を大切に過ごしていきたい。
大丈夫
進路も、受験勉強の方法も、キミは思うとおりにやってみればいい。
母はこの先、どんなことがあってもキミの味方でいよう。
***
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