メディアグランプリ

スタジアムのビールの売り子が野球の試合より気になったのである仮説を立ててみた、っていう話


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:桜井なな(ライティング・ゼミ6月コース)
 
 
スタジアムは試合以外にも見ものがある。
 
ベイスターズファンの彼氏と付き合っていたころ、横浜スタジアムにナイトゲームを観に行った。
 
リリーフピッチャーが登場する時の音楽が、選手それぞれで違っていて面白いとか、いい場面でベイスターズカラーのブルーの風船をファンが飛ばすとか、山崎投手が登場する時の掛け声が耳に残るとか、わたし的に初めてのスタジアム観戦は興味深いことがたくさんあったのだが。
 
スタジアムではビールを売って歩いている女性(たまに男性もいる)がいるのをご存じかと思う。実は途中から、試合よりもあの子たちが気になって仕方なくなったのだ。
 
私が特に気になったのは、
・ビールを売る子とその他のお酒やおつまみを売る子はどう違うのか?(値段が違うので売上も違うはず)
・あの子たちは一晩でどれくらい稼ぐのだろう?
・顔がかわいい方が稼げるだろうか?
 
ということだった。
 
おそらく、スタジアムに通いつめて実際にビールを買って会話したり、試合中ずっと見ていたらある程度予測は立てられる話だと思う。初めてのスタジアムでそれが気になった私は、試合を観戦しながらも彼女たちを目で追い、もちろん注文もし、近くに来たら会話に耳を澄ませたりしていた。
 
まずビールとサワーは値段が違う。ちなみにおつまみを売っている子もいるが、当然おつまみもビールに比べたら安い。
 
売上を考えたら、当然高いものを売りたいはずだ。背中に背負う重さとしてはビールもサワーもそう変わらないだろうから、それならば少しでも単価の高い方を売りたいだろう。自分は何を売る、というのは、自分で決められるものなのか、上司に決められるものなのか、それともバイト歴や実績で決まるものなのか。となりの彼氏に聞いてみたけど、彼はそこまでそのことに興味がないようで、わからないとのことだった。そりゃそうだよね。
 
その時の私の仮説は、やはり実績がものをいう世界なのではないだろうか、ということだった。実績を上げてる人から順に、単価の高いものを売れるのではないかと。ビールの中でもエビスビールは確かほかのビールより高かった記憶がある。なので、エビスビールを売っている子が、あの中では一番稼ぎ頭なのではないだろうか、というのが私の推測だった。
売上=単価×客数
 
この公式の中で、彼女たちが「その日の言動」で変えられるのはリピートを含む客数だ。単価は決まっているわけだから、何人のお客さんに売るか、何人に繰り返し買ってもらうか、で売上が決まる。リピートの中には、その日以前に買ってもらったなじみの客もいるかもしれない。
 
仮に一晩で、750円のビールをのべ50人の客に売ったとすると
750×50=37,500
 
37,500円だ。仮に歩合率が3割だとして11,250円
 
若い子たちの数時間のバイトの稼ぎとしては悪くない、のだろうか。
 
試合に勝っていればファンは気前もよくなるだろうし、暑い日は飛ぶように売れるだろうから、そんな日は50どころではないだろう。
そして、正直なところ私だったら可愛い子から買いたい。もっというと、イケメンから買いたい(笑)
ビールが飲みたい時に近くを通った売り子さんならだれでもいい、という人もいると思うが、複数人が近くにいて多少選ぶ余裕があるのなら、可愛い方がいいと思う人もいるのではないだろうか。
 
しかし見ていると必ずしも可愛い子が売れているわけではないようだ。(当然と言えば当然だが)
 
それについても隣の彼氏に「やっぱり可愛い子の方が売れるの?」と聞いてみた。
 
そもそも彼氏は、私と付き合っているくらいなので面食いではない(笑)
それもあって、彼自身は可愛い方がいいとは特に思っていないようだった。「そんなことないよ。ちなみにあのお姉さんは10年以上前から見るから30歳は超えてると思うけど、人気者だよ。確かに顔が可愛くてここからデビューした子もいるけどね」と教えてくれた。
 
いろいろびっくり。
 
私たちのエリアではなかったので少し遠かったが、明らかに20代前半の子が多い中で一人だけ年上な感じの女性がいた。10年以上もいるって、バイトなのか社員なのか知らないが(おそらくバイトだとは思うが)、この仕事が大好きでハマってしまったのかな、と思った。
 
体力的にはきついかもしれないが、ハマる人にはハマりそうではあるもんな。
 
売り子さんたちを見ていると、やはり選ばれるために小さな努力をしているなあと感じた。もちろん一方で「ただ売っている」という子もいる。つまり、小さな努力の差が売り上げの差を生んでいるのではないかと感じた。
 
例えば、大きな花のコサージュを耳に付けている子がいた。目立つように、ということと「そのお花付けてる子」と呼ばれやすくするためになのかなと思った。
例えば、ただ歩いているだけの時も、ひたすらニコニコしている子もいた。ニコニコしている方が話しかけられやすいと知っているのか学んだのだろう。
例えば、ビールを注ぎながら、お釣りを返しながら、なにかしらお客さんとコミュニケーションをとる子もいる。そんな短時間でいいコミュニケーションが取れたら最強だ。
 
そんなわけで、私の推測。
そりゃ可愛いにこしたことはないかもしれないが、それよりもビールを飲みたいお客さんの欲求に素早く明るく反応し、おいしそうにビールを注いで気持ちの良いコミュニケーションをとれる子が売れるだろうなということ。
 
しょっちゅうスタジアムに通う人は、自分のご贔屓さんを見つけたいとも思うものではないだろうか。顔見知りになって、名前で呼んで、時には突っ込んだ質問もしたりなんかして、頑張っている若い子を応援してあげたいおじさまもいるだろう。
 
そうやってハートを掴んだ売り子さんは、当然稼ぐだろうし、仕事も楽しいだろう。30過ぎてもやっていたい、と思うのかもしれない。
 
単純な仕事のようで奥が深いなあと思った。自分が当時フルコミッションの営業マンだったこともあり、彼女たちの仕事ぶりにとても興味が湧いたし、彼女たちから学べることも多かった。
 
高い売上を作っている子は、自分の見せ方から話し方、試合の状況とお客さんの状況の関係性や短時間でのコミュニケーションの取り方など、様々なことを研究しているのだろうなと思ったし、私ならそうする。
 
間違いなく、もし私が若かったらやってみたいバイトだ。ナンバーワンホステスは無理でも、ナンバーワンのビールの売り子さんなら私でもなれたかもしれない。
 
結局私は、初めてのその日を含め、2回しか、横浜スタジアムには行っていない。
 
そう、彼と別れたから。
 
でもその2回は、「彼氏とハマスタで野球観戦した」という思い出よりも、「売り子さんが気になった」思い出として、私にとって貴重なものになった気がする。
 
さて、次はどんな彼氏とどこのスタジアムに行くことになるだろうか。
 
きっと私は、試合よりもまた、ビールの売り子さんたちが気になっちゃうんだろうな。それもまたよし、だよね。
 
 
 
 
***
 
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2023-09-06 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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