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私を6時間も泣かせた犯人に感謝した日


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:北本 亮太(ライティング・ゼミ6月コース)
 
 
皆さんは人生で一番泣いた日を覚えているだろうか。私ははっきりと覚えている。高校3年生の5月下旬。午後4時から10時までの計6時間。これが最長記録だ。大人の平均睡眠時間並みに泣いていたことになる。
 
では、なんでそんなに泣いたのだろうか。
 
野球部に所属していた私。少しだけ打つのが得意なだけで、足は遅いし守備も並み以下の選手だった。加えて肉離れや捻挫など、怪我をしがちだった。私のチームの監督は怪我をする選手のことが嫌いだった。だから私はとことん、槍玉に上げられた。
 
「お前みたいな怪我するやつなんか使わん」
 
その言葉通り、肉離れを起こした後の9月の2年生の秋の大会はベンチ外。春になってからは捻挫をしてしまい、監督から「春の大会は使わんからな」と吐き捨てられた。
 
高校野球の大会は2年生の9月の次は3年生の4月、そして7月の計3回ある。8月と3月に怪我をしてしまった私はよっぽど運がないのだろう。
 
そんな怪我しがちな私でも自信にしていることがあった。それは1年生の入学からずっと書き続けていた「野球ノート」である。日々のトレーニングや感想などを書き綴る。当時の野球部では毎日の提出を求められていたが、まじめに毎日書いていたのは私一人だった。
 
日々の練習の記録が綴られたノートは私の財産だった。打てない時やうまくいかない時、ノートで過去を振り返るとその理由が書かれていた。「タイミングを外されたら片手一本でも当てたら何かが起きる」、「同じ球は3球続けてこない」。他にもその日受けた助言など、振り返りのノートとして大きな効果をもたらした。
 
監督の言葉を借りれば「野球ノートは辞書」だという。確かにその通りだ。毎日1ページずつ丁寧に書き続けていくと、自分が上達していることや筋力が増えていることが目に見えてわかった。また、監督からたまに返ってくる「期待しているぞ」「お前ならできる」などの文言がうれしく、励みにもなっていた。3年生になるころには10冊がたまっていた。
 
だから怪我をした時もノートに「絶対、春の大会に間に合わせる」と書いた。監督は無視していたが、結果で見返すしかない。
 
そして大会も3週間前に迫ったある日。2軍の試合で私はスタメンで出ることとなった。相手は京都の名門・龍谷大平安高校(2軍)だった。なんとか結果を残そうと必死になると、好転するものである。私は右に左にヒットを連発。最終回には勝ち越しのタイムリーを放つなど5打数4安打と結果を残した。
 
この試合がきっかけで一気に1軍のスタメンに昇格。調子も上向いていた。監督の評価も上がっていった。
 
「これまで、頑張ってきたお前ならできる」
 
監督からそのように声をかけられ、奮起した。そこから毎試合のようにヒットを放ち、春の大会のスタメンを勝ち取った。
 
迎えた大会。7番、一塁手でスタメン出場した。初の公式戦。私は緊張していた。普段と同じプレーができていない。快音も聞こえぬまま、試合も2点負けている。
 
「なんとか流れを変えないといけない」
 
そう思った私はトリックプレーを仕掛けることにした。牽制で相手を騙してアウトにする作戦だ。練習でも何回か試したことがある。自信があった。
 
しかし、結果は無常だった。私はボールを補ることができず、ピンチは拡大。そこから試合を決定づける2点が入ってしまったのである。結果も残せず、エラーも喫した。さすがに落ち込んだ。
 
それでも気持ちを切り替え、最後の夏の大会に向けて練習をしていた矢先、監督が3年生全員と面談をしたいと言い出した。
 
「何を話すんだろう」
 
順番に名前を呼ばれ、私の番になった。監督と二人きり。正直、比較的、ラフに構えていた。夏の大会に向けて、期待の言葉でもかけられるかと呑気に構えていた。だが、結果は180度違っていた。
 
「春の大会、お前を使った俺が馬鹿だった」
 
冒頭、いきなりの発言である。そこから監督に罵られる時間が続いた。
 
「怪我するやつにロクな奴はいない」「ベンチに入れなければよかった」
 
「こいつは本当に人間か?」と思うほどの暴言のオンパレードである。それでもなんとか私は唇を噛み締めて堪えていた。しかし、それも一つの言葉で決壊することとなった。
 
「お前が書いていたあの野球ノート、あれも全く意味のなかったんや」
 
その一言を聞いた瞬間、私の涙腺ダムは決壊した。自分が一番自信にしていたことを監督から否定された—。情けなさ、悔しさ、怒り。言葉にできない感情が渦巻いた。
 
面談を終えてからもひたすら泣き続けた。自転車小屋で仲間に励まされても、家に帰って両親から労いの言葉をかけられても涙は止まらない。涙が枯れるとはよく言ったものだが、あれは嘘だ。人間、泣きたい時はいつまでも泣けるということを初めて知った。
 
それから野球ノートは書くのをやめた。夏の大会も試合に出られなかった。こうして私の高校野球は寂しく幕を閉じた。
 
 
 
 
—あれから4年後。大学4年生になった私はあの監督の家の前にいた。お礼を伝えるためと、疑問をぶつけるためである。
 
就職活動で私の野球ノートは大いに活躍した。面接官からの学生時代、頑張ったことはなんですかという質問に対し、ノートを見せて「なんでもやり続けることができます」と話すようにしていた。実例を見せると、面接官の手応えも良い。おかげで第一希望の就職先から内定をもらった。4年越しに野球ノートを書いてきてよかったと心の底から思った。
 
一方で、少しだけモヤモヤしていた。やり続けたと自負しているくせに、実際は3年生の6月以降は空白なのである。そこで、監督に直接、あの時、どうして「野球ノートなんて、意味なかったんや」などと暴言を吐いたのか。その真意を尋ねようと思ったわけだ。
 
「お久しぶりです」
「よく来たな。まあ座れよ」
 
卒業して以来、4年ぶりの再会だ。言葉は優しくなっても、監督と話すときは謎の緊張感に包まれる。私の天敵のような相手だからこそ、なおさらである。そんな監督は私に向かってこう言った。
 
「お前なら、就職活動、きっとうまくいっただろう。お前みたいな努力家はおらんからな」
 
その時、私はハッとなった。そういえば、私はなぜ、あの時、書くのをやめてしまったのだ。監督から否定されても、最後まで続けたらよかったのに。監督は私のことを努力家と認めてくれていたのに。なぜ私はあの一言で挫折してしまったのか。
 
野暮だった。監督は私に最後の不屈の闘志となるものを見せて欲しかったのだろう。怪我をしても這い上がってきた私。コツコツとノートを書き続けてきた私。一番、私を見ていたのはこの監督だったのに。期待に応えられなかったのは私だったのか。そんなことに今さら気づくなんてなあ。心にグッとくるものがあった。
 
「監督のおかげです。この野球ノートが僕の就職活動を支えてくれました。よかったら受け取ってください。本当にありがとうございました」
「よし、預かっておく」
 
監督に真意を聞くのは、やめておくこととした。代わりに感謝の気持ちとノートをプレゼントし、家を後にした。野球ノートは今でも保管されているのだろうか。たまに見たくなる。青春の汗と涙が染み込んだノートは僕にとっての人生の教科書である。今度、久しぶりに見に行こうかなあ。
 
 
 
 
***
 
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2023-09-06 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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