追い詰められた先に見えたもの
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:千柳(ライティング・ゼミ6月コース)
私は会社員である。与えられた業務を淡々とこなす事務職でやりがいという言葉はどこかにおいてきてしまった。たまにふと約30年の会社員生活を思い返すのだが、一番に頭をよぎるのはフルパワーで駆け抜けた3ヶ月だ。
それは20年ほど前の4月にとある部署に配属となり、その部署は2人で業務を行う部署だった。一緒に仕事をすることになったAさんは責任感が強い、違う言い方をすれば仕事を抱え込む人で私達はお互いの業務に対して干渉することはなく日々の業務をこなしていた。秋になりAさんが年内で退職すると知らされ、派遣社員のBさんが配属となった。AさんからBさんへ日々の業務の流れは引き継がれていたが、Aさんが抱え込んでいる業務が引き継がれる様子がなく私はかなり不安を感じていた。一度引き継ぎについて声をかけたら難色を示されそれ以上何も言えないままAさんの最終出社日を迎えた。Aさんからは書類を渡され特に説明もなくそれで引き継ぎは終了した。
翌日からが戦争だった。Aさんの間違いや不備、ミスが次々発覚し、取引先の担当者から叱られ、他部署からも叱られ、私は毎日訳も分からずひたすら謝っていた。たぶん今まではAさんが自分でカバーしてきたのだろうが特に引き継ぎがなかったためどのように処理すればいいのか見当もつかず謝るしかなかった。謝って済むこともあれば、損金が出て上司に報告したこともあった。状況を説明すると上司は何も言わずにその後の処理は引き取ってくれた。
また、急に業務量が増えた時期も重なり、私とBさんは残業続きの毎日でとにかく目の前の業務をこなすのに精一杯で業務フローの見直しや日々起こっていることの原因や先のことを考える時間はまったくなかった。毎日ほぼ終電まで残業し、それでも作業が追いつかないため週末は休日出勤をして遅れを取り戻していた。精神的に追い詰められて最寄りの駅から自宅への道のりで行き交う車を見ながら“あの車に跳ね飛ばされて複雑骨折で入院したい”と毎日思っていた。それでも毎日会社へ行ったのはBさんがいたからである。Bさんはいつも穏やかでニコニコしていて毎日の残業も文句も言わずこなしてくれていた。当時の私が一番恐れていたことは仕事でミスすることでも取引先や他部署の人に怒られることではなくBさんが辞めると言い出すことであった。Bさんから“面接時に残業は1時間くらいと言われていたのに初日から残業3時間”と笑いながら言われたことがあり申し訳ない気持ちでいっぱいだった。そんなBさんを残して私が辞めるとか言い出すことはできなかった。
上司や同僚はただ見守ってくれていた。それがありがたかった。あの時ねぎらいや同情の言葉をかけられていたら気持ちが折れていたと思う。ある日の夕方に一度だけ「そのままではだめだ。しばらく休憩してきなさい」と他部署の先輩から声をかけられた。その表情は真剣で張り詰めた私を心配してくれていることが伝わってきた。取引先の人の中には私の状況を心配して毎朝電話をくれた人もいた。「今日は何が問題なの?」“まだ、分かりません”この会話が毎朝の習慣となった。朝一番の時点ではその日の業務内容が把握できていなかったのである。
後から聞いた話だが、上司は取引先へ出向き、営業担当者と業務についての相談を夜中までしてくれていたそうだ。
周りの方々に支えられ3ヶ月大きなミスもなく駆け抜けることができた。
辛く苦しい3ヶ月だったが、それよりも先に思い出だされるのは周りの方々の優しさや温かさだ。一緒に走り抜けてくれたBさん、毎朝電話をくれた取引先の人、ただ見守ってくれた同僚、影から支えてくれた上司、皆優しく温かかった。業務が落ち着いてからBさんに“いつ辞めたいと言い出されるか、毎日ビクビクしていた“と伝えたら「そんなこと、Cさん(私)が可哀想すぎて言い出せなかった」といつものニコニコ顔でサラッと言われた。私は心の中で滝のように涙が流れた。
また、何でもなんとかなるものだということも身をもって経験した。“今日こそは本当に無理だ”と何度も8階の窓から飛び降りたい気持ちになったが、誰かが助け舟を出してくれたり、時が解決してくれたり、すべてなんとかなった。それは私が必死で頑張る姿をさらけ出し、困っていることやお願いしたいことを伝え続けたからではないか、と思っている。伝えなければ伝わらない、周りの人には分からないのだ。
この3ヶ月で私は多くのことを学んだ。自分で思っている以上に頑張れること、忙しすぎると気が張っているせいか風邪もひかないこと、人は優しいこと、人に頼ること、伝えなければ伝わらないこと。辛く追い詰められた3ヶ月だったが、いい経験だったと今なら思える。
あの3ヶ月は私には必要だったのだ。
最後に一言。
Bさん、本当にありがとう。
***
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