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アメ玉の魔法

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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:吉田哲(ライティング・ゼミ6月コース)
 
 
「お兄ちゃん、なんでそんな格好をしているの?」
 
少年が、嘲笑しているような口調で僕に話しかけてきた。
 
「君のお兄ちゃんになった覚えはないよ」
「嘘だよ。だって背格好が一緒だもん。カボチャを脱いだらお兄ちゃんなんでしょう?」
「君のお兄ちゃんはなんていう名前なの?」
「かいとだよ。自分の名前を忘れちゃったの?」
「違うよ、僕の名前はジャック・オ・ランタンだよ」
 
僕が高校生2年生の時の10月31日に、母が働いていた病院でハロウィンパーティーが開催された。「暇なら病院の子どもたちの相手をしてくれ」と、部活も勉強もろくにしていなかった僕は駆り出されたのだ。病院の一角にあるキッズスペースで、頭にカボチャの被り物をして、アメをたくさん入れたバスケットを腕にかけて立っていた。どこかの国で、ピエロの格好をして子どもを攫いまくった殺人鬼がいたのをを思い出し、「いい子は、怪しい僕に近寄って来ちゃダメなんだけどな」と思いながら、その思いとは裏腹に子どもたちはキャッキャと僕の前に列を作った。「トリックオアトリート」とうれしそうにお菓子を欲しがる子どもたちに、「ハッピーハロウィン」と言いながらアメを配った。
 
一通りみんなにお菓子をあげ終えたが、その場で被り物を脱ぐわけにもいかず、ソファに座りながら、友達と楽しそうに遊んでいる子どもたちを眺めていた。子どもの中には、疾患を抱えて入院している子がたくさんいたが、みんなこのイベントを精一杯楽しんでいる様子だった。無理矢理駆り出されて嫌々引き受けたボランティアだったが、子どもの笑顔を見て清々しかった。被り物の下でニヤニヤと気持ち悪い笑みを浮かべていたかもしれない。
 
「また、お菓子をちょうだいよ」
「合言葉は?」
「いいからそういうの」
 
先程、僕のことをお兄ちゃんと言ってきた子どもが、また話しかけてきた。ませた子どもだと思った。ハロウィンのしきたりや文化なんて知ったこっちゃないのか。「合言葉を言わない子には魔法でイタズラしちゃうよ」と、適当にあしらおうとした。ジャック・オ・ランタンがどういう設定だったかよくわかっていなかったが、魔法というワードを使えば子どもは目を輝かせて「トリックオアトリート」と言うのではないかと思い、少し投げやりに言った。
 
「うそいってる。魔法が使えるわけないじゃん」
「うそじゃないよ。ほら、あの子を見て。わんわん泣いてるでしょ。イタズラしたら泣いちゃったんだ」
「魔法が使えるなら、子どもを泣かせるんじゃなくて、もっと正しいことに使いなよ」
「もっと正しいことって?」
「ここにいるみんなの病気を治すとか」
 
急にそんなシビアなことを言わたものだから、面を食らった。ませた子どもだからと、適当にあしらおうとしたことを反省した。病院にいる子どもだけに、「死」が身近にあって年齢よりも達観しているからこそ、ませているように見えたのだと気づいた。僕のような病気とは無縁にのうのうと適当に生きている人間に比べると、ずっと大人なのかもしれない。とはいえ、何か答えなければ小さい彼の夢を壊しかねないと思い、必死で頭を回した。
 
「素晴らしいアイデアだけど、残念ながら僕はそんな魔法を持っていないんだ」
「じゃあ、何かできることがある?」
「こうやってアメをあげて、みんなをちょっとだけ元気にすることができる」
「それで病気が治るの?」
「治らないけど、病気と戦うには元気が必要でしょ?」
「ふーん。じゃあ、トリックオアトリート」
「はい、ハッピーハロウィン」
 
バスケットが空になっていたものだから、しぶしぶ魔法を使った。一般の子にはやってはいけないことなのだが、魔法を見ることができれば、少しは彼も元気になるのかもしれない。目の前で何もない手のひらを広げて見せて、一度閉じて再び開き、5個のアメを手のひらに出した。アメ玉を渡して、「これをみんなに配ってくれば、君も友達にも元気になるよ」と言った。少年は、「本当に魔法が使えるんだね」と、目を輝かせながら驚いていた。
 
「じゃあこれ、お兄ちゃんにあげるよ」
 
今渡したばかりのアメ玉をなぜか僕にくれた。その瞬間全てを悟って、「しまった……」と思った。魂を分離させて、幽体の状態で病院内を探してみると、表札に「佐藤海斗」と書かれている病室を発見した。病気だったのは、この少年だったではなくて少年のお兄ちゃんだったのか。そのまま、お兄ちゃんのふりをして「ありがとう、元気をもらえたから、これできっと病気が治るよ」と言った。その少年は、「元気になってまたいっぱい遊んでね」と、笑顔で言った。
 
後日、海斗くんの病気は回復したらしい。それを聞いて安心した。もし亡くなってしまっていたら、少年はとんでもない傷を負っていたかもしれない。魔法であろうがなかろうが、元気を与えようとした彼のホスピタリティはきっと、海斗くんを支えてくれたんだと思う。ただ、海斗くんが魔法を使えないことにがっかりしていないか心配だ。
 
 
 
 
***
 
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2023-09-07 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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