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マタニティーブルーからの救い方


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記事:中村 愛(ライティング・ゼミ6月コース)
 
 
「ウチの奥さん、マタニティーブルーなんですよ」
職場が一緒のKさんに10日前に初めてのお子さんが産まれた。奥さんは退院して、自宅から車で1時間ほど離れている実家にいるそうだ。週末はもちろん、平日でも可能であれば会いに行けるように車で出勤している、と言う。
以前は幼稚園の先生をやっていた位、こどもが大好きなKさんは、産まれたての我が子の写真をたくさん撮って職場でみんなに見せてくれた。産まれる前から奥さんと散々悩んだ名前も無事に決まり、毎日会えないのは寂しいだろうけど、幸せな時期だろうな、と思っていた。
仕事の合間に何気なく、「どんな感じ?」と聞いたら返ってきた答えが「マタニティーブルー」だったのだ。
 
「夜中に泣きながら電話がかかってくるんですよ」
「三姉妹で姉にも妹にも既にこどもがいるから、いろいろなことを聞けば聞くほど混乱しちゃうみたいで」
「誰にも関わってほしくない、とか言っています」
 
「Kさんはそれをただただ聞いてあげてるの?」と聞くと、「まあそうですね」と返ってきた。
それでいいんだよ、そうしてあげてね、とにかく一番の味方でいてあげてね、と言いながら私は自身の苦い経験を思い出していた。
 
もう19年前になる。初めての出産の後、私も、幸せなのにどん底、という感情を散々味わった。今思い返しても少し苦しくなる。
こどもに関わる仕事をしていた私は育児やこどもについての知識をかなり多く持っていたし、積極的に集めてもいた。こどもの扱いにも慣れていた方だと思う。
ところで、育児の常識は時代によってかなり変わる。
私自身は、母の母乳があまり出なかったこともあり、粉ミルクで育った。粉ミルクは栄養バランスがよい、ともてはやされていたそうだ。しかし、私が妊娠した頃は「母乳礼賛」時代で、母乳で育てることが赤ちゃんの健やかな育ちに必要なこと、とされており、産院も母乳育児を積極的に指導していた。
確かに初乳には免疫物質を含め赤ちゃんに必要な栄養分が豊富に含まれている。直接母乳をあげることはスキンシップにもなり、母子の愛着形成には効果的でもある。
 
母は私に「私の子だから、母乳は出ないと思うよ」と言ったが、適切なケアをすれば母乳は出る、と信じ、私は絶対に母乳育児をする、と決めていた。
また、ほとんど記憶はないが、私は父が仕事で海外赴任していた為、1~2歳の時期はアメリカで過ごした。日本よりも空間が広く、ベビーベッドを別の部屋に置ける住宅事情もあったとは思うが、「こどもは早い時期から自立させるべき」という当時のアメリカの価値観からか、私はベビーベッドに一人で寝かされていた。
産後、赤ちゃんとのスキンシップがどれほど重要か、が強調されていたし、母乳は添い寝であげられる、という利点もあって、私はベビーベッドを用意せず、自分のベッドで赤ちゃんと一緒に寝ることにした。
私は産まれてくる自分の赤ちゃんに対して出来るだけよい子育てをしたい、と思うがあまり、母が私にしてくれた育児方法を否定していた。
 
時間が経って冷静に考えてみれば、私は粉ミルクで育ったが、免疫が不十分で困ったことはないし、母に添い寝をしてもらえなくて、寂しかった記憶もない。
 
私は実家の隣に住んでいたので、毎日のように母とは顔を合わせていた。母は基本的には私のやり方を見守ってはくれたが、人にはそれぞれ価値観があるので、時に私がやっていることを「そんなことやらなくてもいいのに」と言うことはあった。私が頑なに「こうでなければ」と頑張っている育児を「時代によっていろいろあるわね」とも言っていた。
 
夫はこの時期かなり多忙だった。夜中に帰ってくるし、出張も多い。
完璧ないい母、出来る母を無意識に目指していた私は、夫にも頼ることが出来ずに、孤独感を強めていった。
赤ちゃんとの生活は嬉しいこと、幸せなことはたくさんあった。母や夫、祖母や友人とそれを分かち合う幸せな時間も確かにたくさんあった。
 
しかし、その裏で私は苦しんでいた。当たり前だが赤ちゃんは思い通りにはいかない。
日々のルーティンは自分のタイミングでは出来ず、まとまった睡眠時間も取れず、幸せであるはずの私は徐々に孤独感をつのらせていった。
用意したご飯を食べようとした瞬間、赤ちゃんが目を覚ます。台所で赤ちゃんをあやしながら立ったままご飯を食べる日々が続いた。
もし母に赤ちゃんを見てくれるよう頼んだら、喜んで見てくれたと思う。しかしそれは自分一人で育児を出来ないと認めるようで、当時の私には出来なかった。
 
今ならあの時、助けてほしい、分からない、困っている、と言えれば、あんなに辛くはならなかった、と思える。
だけど、そのように開き直れないのがマタニティーブルーなのだ。ホルモンバランスの影響もあるだろう。赤ちゃんを守ろうという本能が外部からの刺激を避けようとしているのかもしれない。でもそのままだとお母さんはどんどん孤独になっていく。
 
大丈夫だよ、そのままでいいよ。こだわってもいいし、さぼってもいい、こどもはちゃんと育つから、少しずつお母さんになっていけばいいんだよ。
あの頃の私に言ってあげたい。最初から完璧なお母さんなんていないし、そもそもそうなる必要もない。育児は一人で頑張るものではない。
 
だからKさん、奥さんにそう言ってあげて。
素直に受け取らずに反発してくるかもしれないけど、そのままでいいよ、頑張ってるね、大丈夫だよって全面的に受け止めてあげて。
そうすればきっと奥さんは深い沼から出てこられるから。
 
 
 
 
***
 
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2023-09-14 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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