主役になれない私は、二番バッターという生き方を選ぶ
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:大谷 達也(ライティング・ゼミ6月コース)
これまでの短い人生を振り返ってみると、二番バッターのような生き方をしてきたなぁとしみじみ思う。
野球に詳しくない方にとっては、分かりづらい例えを出して申し訳ないと思う。二番バッターとは、野球におけるバッターボックスに立つ順番が二番目だということだ。
チームの方針にもよるが、通説として野球はバッターボックスに立つ順番である程度の役割が決められている。例えば一番バッターは足が早い人、四番バッターはチームで一番バッティングがうまい人、六番バッターはチャンスに強い人など、それぞれの打順に理想の打者像があり、それに当てはめる形でメンバーを決めることが多い。
そのような中で、二番バッターはチームへの献身的なプレーが求められるポジションとされている。代名詞とも言えるプレーが「送りバント」だ。自らを犠牲にしてランナーを進め、味方の得点の確率を上げる。その他にも、ランナーが次の塁に進みやすいように右方向に打球を飛ばす「右打ち」や、そもそもランナーがいない場合はファールで粘り、投手の体力を削ったり、四死球を誘ったりする。自分の結果より、チームの勝ちを優先し後続に望みを託す、主役を立てる脇役のポジジョンだ。
私は、小学校、中学校、高校と野球を経験したが、どのチームにおいても二番バッターを任せられることが多かった。理由は自分でも分かっている。主役を張れるだけの実力がなかったからだ。一発逆転のホームランを打てるほどのパワーはなかったし、ここぞという場面で試合を決める一打を放つ勝負強さもなかった。そこで試合に出るには、送りバントなどの自分を犠牲にしたプレーを、率先して、確実にできる選手になることだった。
野球を通じて、自分が主役になれない人間であることは早くから自覚していた。そのため、野球以外でも「二番バッター的思考」が染み付いてしまった。小学校の頃にやった劇では、率先してなんでもない村人の役を選んだ。運動会の対抗リレーでも、アンカーではなく2走か3走を走る。こんな人間でも人生に一度や二度は主役になる機会が訪れるものだが、そのわずかなチャンスすら、何度かふいにしてきたと思う。
マイナス思考から始まった二番バッターとしての生き方。しかし不思議なことに、時が経つにつれてその生き方に誇りを感じている自分がいる。中には、主役になれない人生なんてつまらないと感じる人もいるだろう。そこで、自分なりに感じた二番バッター的役割として生きる上での魅力を伝えたいと思う。
まず伝えたいのは、二番バッターのようなポジションは意外と狭き門であるということ。主役があってこその脇役なのだ。野球でもみんなが後ろにつなぐ意識をもったチームは、インパクトに欠けるし、相手から見ても怖くない。強いチームになればなるほど、9人いるうちの1人か2人が小技を駆使して相手を翻弄することで、その他のバッターがひときわ輝く。つまり、二番バッター的な存在の選手はそう何人もいらない。そのため、意外にもポジション争いが過酷なのだ。その争いを制して試合に出れたときは、まるで階級別のチャンピオンになったような達成感を味わうことができる。
他にもある。二番バッターの役割は、やろうとすれば誰にでもできることだが、誰にでもできるわけではない。ヒットやホームランを打つより、送りバントや右打ちでランナーを進めるほうが簡単だし、練習を詰めばある程度高い確率でできるようになる。
しかし、そこで欲を出してしまうとかえって逆効果になってしまう。自分も生きようとセーフティーバントを試みるとバントが失敗する確率を上げてしまうし、右方向に打球を飛ばすときも、必要以上に大きなあたりを狙ってしまうと力が入ってフライを打ったり、空振りにつながったりして、結果的にランナーが進められないということがある。あわよくば主役に躍り出ようとする雑念を持っていたらなかなか成功しないのだ。その分、自分を押し殺して仕事を遂行できたときにはやりがいを感じる。
そして何より、つないだ先のバッターが結果を残すのが一番うれしい。傍から見れば目立たないポジションだが、監督・チームメイトは結果を残した選手と同じくらい評価してくれるし、そのプレーがチームの勝ちにつながるものであれば、自分もヒーローであるかのような気持ちになれる。勝敗に関係ない場面で打つホームランよりも、格別にうれしいものだ。
そういうわけで、野球でも、野球以外でも、自身の結果は二の次でチームへの貢献を最優先に考える二番バッターのような生き方に誇りを持っているし、今後も変えるつもりはない。
ところが近年、野球の通説をも覆す出来事が起こった。それは「二番バッター最強打者理論」という考え方の普及だ。データ野球が進んできた昨今、二番バッターにチームで一番の強打者を置くことが統計学上最も得点能力が向上する打順であるということが証明され、アメリカの大リーグでは大谷翔平選手や、シーズンホームラン記録を塗り替えたアーロン・ジャッジ選手など、各チームを代表するバッターが二番に名を並べているのだ。
もしかして、主役になるチャンス、来ちゃってる……?
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