メディアグランプリ

見栄を張って買った、11,000円のユニフォーム


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記事:八幡未来(ライティング・ゼミ6月コース)
 
 
「えっ、ユニフォームってこんなに高いの?!」
 
人があふれているグッズ売り場で、私は冷や汗をかいていた。
手には、野球のユニフォーム。選手が着ている物のレプリカだ。
金額は、11,000円。私の予想としては、5,000円程度だと思っていたのだけど……。
 
 
今年の4月初め、私は大阪の球場にいた。目的は、推しの始球式を見るため。
私の推しは、野球好きキャラとしてよくテレビに出ている。写真はだいたい野球関連のポーズをしているし、ツアーで全国を回る時は、その土地の球団のユニフォームを着用してリハーサルをしているらしい。
 
大阪の球団を贔屓にしていて、その球団からホームでの開幕始球式を任されていた。
球団や所属事務所から始球式の情報が解禁された瞬間、即座にチケットを取り、大阪に行くことを決めた。
 
始球式行きを決めた瞬間から、見栄っ張りな私の中に小さいプライドが生まれた。
「始球式目当ての人だと思われたくない」
誰に? 誰も見てないよ。と思われるかもしれない。
しかし、以前SNSで見た「始球式目当てで来て、試合も見ずに帰る人がいるから、アイドルの始球式はイヤ」といった内容の投稿が頭に残っていた。
そんな行動が目立てば、推しのイメージにも繋がりかねない。
 
時間が許すまで試合を見ることはもちろん、野球を楽しむつもりで行こう。タオルやユニフォームを身にまとい、始球式も野球も楽しみに来た雰囲気を出そう。
そう決めたあと、野球好きの友人に連絡し、そのチームの事をリサーチし始めた。
 
私自身、高校時代に少し野球が好きだった。
もう15年も前の話だ。当時見ていた選手で、いまだに現役の人は数えるほどしかいない。
むしろ、コーチや監督になっていることに驚かされる。
 
当時そこそこ勉強をしたので、ルールはわかる。
しかし、現役の選手のことは何ひとつわからない。
タオルやユニフォームを買うにしても、誰を買えばいいのか。
 
野球好きの友人に相談すると、「私はこの子が好きだな」とネット記事や動画のリンクを送ってくれた。
その内容は、今年開催されたWBCに出場していた投手陣のものだった。キャンプや試合前の練習、ベンチで、チーム関係なくイジられている、ひとりの投手がいた。
優しそうな人柄。野球選手にしては小柄なその選手は、動きや表情がおもしろく、たしかに魅力的だった。
「試合になるといいピッチャーなのよ」
日本代表に選ばれる選手。よし、この人のユニフォームを買おう。
 
当日、試合の2時間前に大阪の球場についた。
グッズ売り場は長蛇の列が作られ、今並んでしまうとプレイボールに間に合わないとアナウンスされていた。
予想外だった……。グッズを身につけて始球式を見るつもりだったのに。
 
仕方なく座席につき、周りの人を観察することにした。野球ファンなのか、始球式目当ての人なのか。見てわかってしまうものなのか。
 
無事始球式を見届け、1時間ほど過ぎた頃、グッズ売り場へリベンジすることにした。開幕限定グッズも売っているらしく、まだまだ人は多かったが、売り場に入ることができた。
そこで、ユニフォームの金額を見て驚いたのだった。
 
グッズ売り場でユニフォームを手にし、私は悩んでいた。
「たった一回のためだけに買うには高すぎる。 結婚式のお呼ばれドレス並だ。」
「好きな選手も、変わるかもしれないし……」
「そもそも今日は出場しない。 出ない人のユニフォームを着てても良いものなのか?」
 
座席でみていた景色を思い出す。実際、野球ファン、始球式を見にきた人、どちらでもないような完全に私服の人……。
服装にこだわっているのは私だけなんじゃないか?今回買っても、次いつ見にこれるかわからないし。
 
そうしているうちにも、レジは列ができている。早く戻って試合を見ないと……。
私は清水の舞台から飛び降りる思いで、ユニフォームを手にしてレジへ向かった。
 
 
高いと感じて買うのを迷っていたユニフォームも、数えてみれば7回も着ていた。
 
始球式を見に行った日をきっかけに、その球団に、プロ野球にどっぷりハマっていったのだ。
私が野球を見ていた15年前に比べSNSが発展し、選手のプレー以外の姿やオフの様子を見られる場が増えた。
試合中のかっこいい姿に感動し、普段のやりとりで笑わせてもらう。あちこちに魅力が転がっているのだ。
 
交流戦で地元の球場にきた時は全て通い、リーグ優勝の最短決定日の見通しが経てば、ホームへ遠征もした。
夏のオールスターゲームは、他球団の活躍選手に目を輝かせて楽しんだ。
 
野球好きの友人に紹介してもらい野球友達も増え、一緒に新幹線に乗って観戦に行ったり、試合結果についてメッセージを送ったりするようになった。
 
見栄を張って買ったユニフォームだったが、むしろユニフォームを持っていることで、野球観戦へのハードルがぐっと下がったように思う。
形から入ることで得られる勇気があるのかもしれない。ひとりで観戦する時も、ユニフォームを着ると緊張が薄まる。私にとっても戦闘服だ。
 
推し選手が変わるのではないかと心配していたが、変わるどころか増えていき、来シーズンは首位打者をとった野手のユニフォームを買おうと決めている。
 
今年、そのチームは3年連続のリーグ優勝を果たした。まもなく、クライマックスシリーズも始まる。
私はまたそのユニフォームを着て、大阪へ応援に向かう。
 
 
 
 
***
 
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2023-10-04 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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