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ランチタイムに泣いてしまい、ババアになるのも悪くないと思った話


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:パナ子(ライティング実践教室)
 
 
それは、誘われた友人宅でのランチを頂いている最中に起きた。
彼女の過去の話を聞くうちに、気づいたら私の目からは涙が溢れ出していたのだ。
リュックサックから慌ててハンカチを取り出す私に、彼女は言った。
「あ、ごめんごめん! 泣かせるつもりは全然なくて」と少し笑う彼女の目にもまたきらりと光るものがあった。
 
泣きながら、ふと思う。
同じ話をもし20代の頃に聞いていたら、こんなにも解像度高く彼女の話が聴けただろうか、と。
 
彼女のお母さんは、駆け落ち同然で結婚したのちシングルマザーとなった。住まいは古くて安い団地だったそうだが、彼女のお母さんは一生懸命働き、美味しいものを食べさせたい一心で彼女を高級なレストランなどにたびたび連れて行った。それを思い出しながら彼女は言う。
「本当に母に愛されていたし、何不自由ない暮らしをさせてもらった」
 
しかし、約40年前の事となると、シングルマザーというだけで世間の風当たりはきつかったようだ。特にお母さんの親族が由緒正しき家柄ということもあり、彼女は親族からあからさまな差別を受けた。容姿のことを揶揄されたり、自分だけお年玉を用意されていなかったり。子供の頃、それをどんな気持ちでやり過ごしていたのかと思うといたたまれない気持ちになった。
 
肩身が狭かった彼女の人生の風向きが少し変わったのは、彼女のお母さんがある会社の社長と出会い再婚した時だった。今までの差別が嘘のように、親族の態度が一変したという。周囲が玉の輿に沸き立つなか彼女は一人喜べずにいた。
 
一緒に大学時代を過ごした私たちだったが、その頃の彼女がどんな様子だったかはぼんやりとしか思い出せない。
ずっと母娘ふたりでやってきたところに新しい父を迎え入れるというのは、彼女にとってはかなり勇気のいることだっただろう。そんな複雑な事情を、それまで苦労をしていない二十歳そこそこの私が慮ることなど出来なかった。すごく残酷な事を言えば、私は結局他人事としてしか捉えられないでいたのだ。
 
そんな彼女にはメンターとなる人がいた。通っていた保育園の先生だ。
卒園後も彼女は時折保育園に顔を出した。人生の岐路に立つ時、彼女は必ず先生に助言を仰いだ。
「それは○○が悪いよ」と正してくれる時もあったらしく、彼女は先生を尊敬していた。
 
彼女が素晴らしき良縁に恵まれ結婚をすることになった時、夫となる人を連れて先生を訪ねた。彼女の過去をどこまで夫が知っているかわからなかった為、最初当たり障りのない会話に終始していた先生だったが、彼女が
「先生、大丈夫です。彼には全部話していますので」と言った途端、先生は泣いてお願いした。
「彼女のこと、よろしくお願いします」
 
ここまで話を聞いていた私は、もう我慢できなくなり顔をしかめて泣き出した。今、目の前で太陽のように明るく笑う彼女が辛い過去を乗り越えてきたことの重みを感じた。幸せになって本当によかった。まるで自分の事のようにそう感じた。
 
それはただ単に年齢を重ねてきたからというだけでなく、私の過去も確かに影響しているように思えた。
 
27才の頃、三年間闘病してきた母が亡くなった。
母を亡くした喪失感は今まで感じたことがないほどに大きく、その波に大きく飲み込まれた私はしばらく打ちひしがれた。
初めて味わう絶望は私のパレットに黒い絵の具を付け足した。人生生きていればこういうこともあると母の死に教わったのだ。
 
黒という絶望を知ると、今度は人の誕生という世界で一番明るいとも思えるニュースがより光に見えた。
入院していた病棟が婦人科だったこともあり、母が亡くなる間際、ママに抱かれたホヤホヤの赤ん坊が廊下を通った瞬間、何とも言えない不思議な気持ちになった。もうじき死期を迎える者と、いまこの世に生を受けたばかりの者。その強いコントラストは忘れられない程強烈に私の胸に刻み込まれた。
 
世の中には受け入れがたい悲しい事実があると共に、胸が沸き立つような喜びや楽しさがある。
小学生の頃に仲違いがきっかけで友人に無視されたことや、会社員になってからはお局にきつく当たられたこと、または第一子が生まれる前に流産を経験したこと。
逆に一生懸命頑張っていた部活動で入賞したこと、学生時代に気の合う仲間と時間を忘れて笑い合ったこと、好きな人と一緒になり新しい家庭を築いたこと、2人の子供が生まれてきてくれたこと。
これまで経験してきたことが全部一つ一つ色となり、私のパレットにたくさんの色彩を与えてくれた。
 
40年かけて醸成された色とりどりのパレットは私だけのオリジナルであることは間違いないが、このパレットがあるおかげで人の話をまるで自分事のように感じることが劇的に増えたように思う。
 
彼女と一緒にランチをしながら泣き笑いあった後、明らかに二人の間にはほっこりとした癒しの光がキラキラと降り注いでいた。
「きょうはごめんね。自分の話ばっかりして」と言った彼女は少しばかりスッキリとした表情に見えた。
 
私の方も何か大きなギフトを受け取った気持ちになりながら彼女の家を後にした。
家まで自転車を漕ぎながら私は二十歳のころの自分に思いを馳せる。
 
若さゆえ「私は無敵!!」と何の根拠もなく感じていた。そして年齢を重ねることへの喜びは到底想像がつかなかったあの頃の自分にこう教えてあげたい。
 
ババアになるのも悪くないよ。
色々な経験をしたからこそ、たくさんの事が色彩豊かに見えて人生を深みのあるものにしてくれるんだ。秋のさわやかな風がいつもより気持ちよく感じた。
 
 
 
 
***
 
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2023-10-11 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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