お粥とお味噌汁が導き出した体からのアンサー
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:パナ子(ライティング実践教室)
普段の5倍、やたら疲れた顔で7才の長男が下校したのは、十月に入って最初の金曜日だった。
夕方になって発熱し、翌朝一番にかかりつけ医で検査したところ、結果はインフルエンザ。次々と学級閉鎖が起きていた小学校でしっかりもらってきたのだろう。集団生活の宿命だ。
あれよあれよという間に、4才の次男もインフルエンザを発症。発熱に加え盛大な嘔吐もあり、目が離せなかった。
そういった落ち着かない数日が経過したある朝、喉に違和感を覚える。
やばい……。ついに、その恐れていた波が私を飲み込もうとしている。
看病中は「私が倒れてなるものか」と強気な姿勢を保っていたものの、インフルエンザの脅威がすぐそこに見えた気がして急に怖気づいた。
というのも、ズボラといえども一応家の中のことをまわしている主婦の私が寝込むというのは日常生活がストップすることを意味していた。
お願いだ、気のせいであってくれ。
もしこの後寝込んでしまっても大丈夫なように、非常食の数々を手に入れるべく私はコンビニへと走った。
最寄りの店に着くと買いものカゴに片っ端から必要と感じたものを入れる。
おにぎり、レトルトのお粥、カップ麺、ゼリー類、スポーツドリンク、パン、栄養ドリンク……。兄弟たちの看病で疲弊した体で、台所に立つ気力がもう残っていなかった。しかも隔離期間でこのあと数回は一日3食作ることを余儀なくされるのかと思うと気が滅入った。
パンパンに膨らんだエコバッグを片手に私は兄弟たちの待つ家に急いで帰宅した。
案の定、午後になり熱が急上昇。明日は受診かなと思いつつ、カップ麺をすする。久しぶりに口にするカップうどんは「やさしいおだし」と謳われつつも、なかなかパンチが効いている。おいしいし、パンチが効いた味は嫌いじゃない。だけど、熱を帯びて重くなりだした体には少々負担のようにも感じた。少し胃のあたりがもたつく。そのもたつきがまた更に体を重くして、私は布団に沈み込むようにして横になった。
夕方、ただ一人感染しなかった夫が仕事から帰宅して「カップ麺食べたの?あらららら」と哀れみと呆れをシェイクしたような顔で言う。
夫は読んだ本の影響だとかで、特に1、2年前からはより一層健康に気を遣っていた。
早寝早起きに加えて、朝の入念なストレッチ。一日の最初に体に入れるものは白湯。
何より、ジャンキーな食品の数々は一切口にしない徹底ぶりだ。
まるで「丁寧な暮らし代表!」みたいな生活をしていた。
夫からすれば、熱を出して弱っているところにカップ麺というジャンキーな食品を食べている妻がにわかには信じがたいのかもしれない。
翌朝、起きられずに布団の中でモゾモゾしていると完全に支度を終えた夫が、出発間際に寝室を覗きに来た。
「お粥とお味噌汁作っておいたからね。温めて食べて」
そういうと彼は颯爽と出勤した。
(……いいとこ、あるやん!!)
横でまだ深い寝息を立てている兄弟たちをそのままにして、私はそっと寝室を出る。台所を見てみると、ガスレンジの上に鍋が二つ。大きな鍋にはたっぷりのお粥、少し小さ目の鍋には味噌汁が炊いてあった。
その二つを見ると、これなら食べたいと急にお腹が減る。
温めてそれぞれをお椀によそって席に着く。
気が付いたらお粥とお味噌汁を目の前に深々と頭を下げ、両手を丁寧に合わせている自分がいた。静かな声で「いただきます」を呟く。
まずお味噌汁を一口。
立ちのぼる湯気と一緒によく効いただしの香りが鼻をくすぐる。
だしの効いたお汁を口に含んだ途端、心底安堵の気持ちが沸き起こる。飲み込んだお汁が少しずつ体に染みわたり、思わず「あぁ……」とお風呂に浸かった時に出るような声が漏れた。
間違いなかった。今日起きて初めて口にしたものが天然のだしを使ったお味噌汁であることに、細胞の一つ一つが歓喜しているのがわかった。
そっか、やっぱりそういうことだよなぁ。体が喜ぶってこういうことをいうんだよなぁ。私は一人で何度も頷きながら隅々までだしと味噌の旨みを味わい尽くした。
少し落ち着きを取り戻すと、次にれんげを使いお粥を口に入れた。
甘い。優しい甘みがほわっと口いっぱいに広がった。夫が鍋で火加減を見ながらやってくれたであろう「コトコト」が米の一粒一粒に宿っている。それは自然と顔をほころばせるには十分なものだった。
弱った心と体に、温かいお味噌汁とお粥はいかん。辛さとありがたさが相まってなんだか泣きたくなってくる。
よそったものをきっちり完食した私は再び、いつもより丁寧な動作で手を合わせてごちそうさまをする。そして夫にお礼のメールを送ったのだった。
汚れた車を洗う時、マシンに突っ込んで一気にやってしまえば、ものすごく楽だし効率がいい。しかし手間はかかっても手洗いをすれば、車のコンディションをよく観察できるし細かい傷がついたりせず、納得の仕上がりになる。
何より一番大事なのは、自分の車を自分が丁寧に扱えているという気持ちよさがそこに満足感として残る。
これは、自分の体の取り扱いにおいても全く同じ事が言えるのではないか。
疲れた時や少し弱っている時にこそ、ほんの少しだけ手をかけて自然に近いものを口にする。今回体調を崩して、その大切さを改めて認識した。それは何より体の反応が私に教えてくれた事だった。
ズボラな私のことだ。
どうしようもなく台所に立ちたくない時、またコンビニのお世話になることもあるかもしれない。しかし、体が傷ついている時にはいったん立ち止まって、自分の体に少しの優しさを向けよう。素直で正直な体はきっとよい返事をくれることだろう。
***
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