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「お役所仕事」は「お役所仕事」ではなかった


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記事:石鍋ももこ(ライティング・ゼミ10月コース)
 
 
この夏2ヶ月限定で、地元の区役所でアルバイトをした。
勤務先は生活福祉課で、生活保護を受給している人や、受給したくて申請に来る人に関わる場所だ。私はそこで窓口業務をする事になった。
 
面接で訪れたとき、デスクの前に座り、何もせず、ぼんやり窓口の方を見ている高齢の男性職員を見かけた。
やっぱり、役所ってこういう人いるんだな。税金泥棒っていうの?
 
そもそも私は役人に対する印象が良くない。「お役所仕事」は融通が利かず、時間ばっかりかかり、成果は薄い仕事の例えだ。そんな仕事をしている人間も、頭が固くて人間味のない閉鎖的な人たちなんだろう。
そんな風に思っていた。
 
しかし、働き始めてみると、全然違った。
 
窓口に座っていると、生活保護を受給している人が来て「○○ですが、××さんお願いします」と、担当のケースワーカー(以後CW)を呼ぶように頼まれる。それを専用の機械で呼び出すのが私の主な仕事だった。
 
マスクとアクリル板、滑舌が悪いうえにさらに珍しい名字の人だと、何度も聞き返さないと分からない場合がたまにある。
「○○だけど」
「○○さんですね?」
「違う○○」
「(?違いがわからない)○○さんですか?」
「○○って言ってんだろ!!」
「・・・・・・(まだわからないけど、怒ってるし、もう聞き直すこともできないので、聞こえたままの名前でCWを呼ぶ)」
察してくれているのか、CWは出てくるとすぐにその人を見つけ、声をかける。相変わらず横柄な態度で話しているその人に対して、CWは穏やかに対応している。
 
またある時、おばあさんがCWのNさんを訪ねてきた。ロビーでひととおり話が終わった様子で、Nさんは事務所に戻ってきた。でもおばあさんは帰らず、ずっと椅子に座ったままでいる。
しばらくすると窓口へやってきて「ねえ、さっきからずっと待ってるんだけど」とイライラして言ってくる。もう一度Nさんを呼び出すと、違うCWがやってきて対応している。どうやらNさんは訪問に出かけてしまったらしい。「私は会ってない。約束したのにいないなんて」とおばあさんは怒っている。認知症だ。Nさんに会って話した事を忘れているのだ。さっきまで話していたのに。
 
「戻ってきたら、ちゃんと約束守るように言っといてよ」と言っておばあさんは帰った。
私は驚き、腹が立った。一事が万事こんな調子だとしたら、伝えた事や約束などの大事な事もなかったことにされてしまう。そんなんでこっちのせいにされたら、たまったもんじゃない! でも代わりのCWは「すみません。伝えておきますね」と申し訳なさそうにほほえんでいた。
 
アル中のEさんがくると緊張した空気になる。生活費を受け取りに来るのだが、毎回暴言を吐き、非協力的な態度なのだ。
生活費もらいに来て暴言吐くっておかしくない? こんなに行儀の悪いやつに受給しなくていいよ。と私はつい思ってしまうのだが、CWは根気強く対応している。
そしてある日、Eさんの治療をめぐって、CWの思いを受け取りながら落ち着いた様子で話をしているEさんの姿を見た時、とても感慨深いものがあった。
 
私の真後ろの席の職員Bさん(男性)は話し方がのんびりとしていて、というか、あまり話さない。朝はギリギリに来て定時のチャイムと同時に逃げるように帰る。なんだかあんまり仕事できなそう、というのが第一印象だった。
でも、窓口に来た人が、自分のCWの名前を忘れ、えーと誰だっけ、と思い出していると、いつのまにかその人の名前からCWを調べて、私に教えてくれたり、長々と私に話しかけてくる人がいたら、すっと出てきて代わりに話を聞いてくれる。
 
そして、面接時に見かけた高齢の男性職員は、実はみんなに非常に頼られる存在で、色々なところから相談に来る人がいた。仕事に対して淡々と向き合い、かなり匂いのキツい新規の申請者が来たときも、みんながファブリーズだ、千と千尋に出てくる「お腐れ様」みたいだ、と騒いでいる中、狭い個室で通常どおりの対応をしていた。
 
なんだか面倒な人が来ると、いつのまにか誰かが私の後ろに立っていて、一緒に対応してくれる。
申請者が、約束の時間になんの連絡もなく何時間も遅れて来ても、当たり前のように申請を受理する。
申請を受理し、住居と布団まで用意したのにばっくれられる。
訪問先で受給者に抱きつかれる。または首を絞められそうになる。
 
ここに来る人たちは、何かしら生きづらさを抱えている。そんな人たちの最後の砦だからね。と話す。
 
最終日、突然みんなの前で挨拶をするように言われ、慌てる。とにかくお礼だ。
「2ヶ月間ありがとうございました。不慣れなせいでご迷惑をおかけしたこともあると思いますが、皆さんのおかげで2ヶ月間務めることができました。ありがとうございました」
言い足りない気持ちがあるが、うまく言える自信もないのでこれで終わりにする。
 
みんなが拍手してくれる。
席に戻る途中で「ここの席、空いてますよ!」と笑顔で声をかけて下さるCWの方達がいて、感謝の気持ちでいっぱいになる。なんて優しい人たちなんだろう。
 
席に戻って、ぼんやりする。本当に言いたかった言葉があふれてくる。
 
「わたしはここの区民なのですが、みなさんの献身的な働きぶりに感動しています。勝手に区民を代表してお礼申し上げます。そして、万が一私が生活保護を受給する事になりましたら(笑うところ)、安心してお世話になろうと思います。お行儀良くしますので、どうかその際は、よろしくお願いいたします」
 
 
 
 
***
 
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2023-11-02 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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