理想のリーダーは、何もしないこと
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記事：小栗 健吾（ライティング・ゼミ 10月コース）
「理想のリーダーの条件を教えようか。それは、何もしないことだよ。」
「えっ？？」師匠の言葉に思わず、僕は声が出た。
まったく意味がわからない。
続いての言葉で更に混乱した。
「それにさ、雰囲気は仕事力だからね」
ますます、意味がわからない。
師匠は、にっこりとほほ笑んだ。
今もなつかしく思い出す。
数年前のことだ。
僕は会社で課長になったばかりではりきっていた。
だが、肩に力が入りすぎているのか、どうもチーム運営がうまくいかない。
“うまくやらなきゃ、的確な指示・判断をしなければ！”と焦ってばかり。
自分でも空回りしているのがわかるが、どうしていいかわからない。
そんな僕をみかねてか、大学時代の先輩がご自身の師匠を紹介してくれたのだ。
広島まで会いにいくと、広島カープファンで真っ赤な帽子やユニフォームでいっぱいになったお好み焼き屋さんに師匠はいた。
なんと、そのテーブルの隣には、ニューヨークヤンキースの大型契約を蹴って、故郷広島を盛り上げようと帰ってきた黒田投手の姿があって、お店中が異常な熱気と興奮状態になっていた。
師匠は、お好み焼きをひっくり返しながら、こういった。
「黒田投手は、間違いなくリーダーだよね」
「いや、それはそうでしょう！」と僕。
「うん？なんでそう思うの？」
「それは、２０億円近い大型契約をけって、わずか数億円で地元のためにかえってきて、４０歳近くても身体のメンテナンスをして、誰よりも練習して、まさにプロフェッショナル。リーダーの鏡か見本としかいいようがないじゃないですか」
「わかっているじゃないか。まさに、そうなんだ。いま、いい言葉を使ったよね。【見本】だって。リーダーは命令や指示をする人ではないんだよ。言動で見本になる人のことをいうんだ。おぐちゃんは管理職になったんだろう。管理の意味を間違えてはいけないよ。管理は、社員を管理するんじゃない。自分の言動が、見本かどうかを自己管理するということなんだよ。それだけは忘れてはいけないよ」
「え？管理職って、自分の言動管理職ということなんですか……？」
「そうだよ。社員を管理しようとする困った管理職が多いよね。
【見本】と同じく大事なキーワードが【信頼】。それなくして、リーダーの言動はまったく響かないからね。
おぐちゃんも経験ないかい？上司がえらそうに指示することに、『いや、あんたがいうな』ということ」
「あります、あります！」
「では、逆に、何もいわなくても、『この人を男にしたい！』という上司はいなかった？」
「あ……。そんな上司はほとんどいないのですけど、思い返すと１人だけいました。この人は、自分をわかってくれる、笑顔で話をきいてくれる、否定しない、何かあったら守ってくれるという上司がいました。」
「いいねえ。そんな上司こそが、リーダーだと思わない？
あの大手の航空会社が破綻したとき、社内にいた私の友人から聞いたのだけどね。再建に入った稲盛さんと同じフロアにいたのだそうだ。『何かをいうわけでもなく、ただそこにいるだけで、背筋が伸びて、いい意味での緊張感と熱量がうまれて、すごくやる気になった』といっていたよ。黒田投手だって同じだ。何もしなくてもいるだけで、周りは元気になり、やる気がでるよね。リーダーの見本だね」
確かにいうとおりなのだが、心の中では、『そんなすごい人たちだから、できたんでしょ！』と少しすねたくなった。
だが、ふと、先日訪問した会社を思い出した。
やたらに明るく雰囲気のいい会社で、社員は１０数人の小さな会社だが業界が注目する絶好調企業。だが、社長さんはニコニコ笑っているだけで、動き回っているのは社員のみにみえる。
社員さんに「社長はどんな方ですか？働いていて要望などはありますか？」
と聞くと、驚くことに
「社長はいつも笑顔でただ職場にいてくれたらいいんです。
仕事は私たちがやるのでしなくていい。いるだけで職場が安心の場になります。
望むことは、いつまでも身体に気を付けて元気でいてほしいことくらいです」
そのときは、あまりに想定外の返答に、『え？？ 変な会社だな……』
と心の中で思ったのだが、絶好調のカギ、リーダーのカギはそこかもしれないと急につながったのだった。
そうして考えてみると、自分が訪問したうまくいっている会社は、例外なく、雰囲気がいい。社長さんの雰囲気、社員さんの雰囲気、会社全体の雰囲気。
逆に雰囲気が悪い会社で業績絶好調が続いているところはあったことがない。
なんだか、頭の中で色んなことが急につながった感覚があった！
「師匠！【雰囲気が仕事力】って、なんとなくですが、わかりました！
そして、【理想のリーダーは何もしないこと】というのは、本当に何にもしないわけではなくて、『何もしなくても、そこにいるだけで、みんなが明るく元気になって、やる気がでる存在になれよ』ということですね！」
お好み焼きが焦げそうになっているのも構わずに、僕が熱く語ると、師匠はにっこり笑って、
「そのとおりだよ！理想かもしれないけど、できないとあきらめないで目指すことに価値があると思わないかい？それとリーダーは感謝も忘れない。せっかくのお好み焼きも焦がしちゃだめだよ。感謝して美味しいときにいただかなきゃね！」
そういって、鮮やかな手つきでとりわけてくれた光景をいまも覚えている。
今でもまだまだ未熟だ。理想のリーダーには程遠い。
だけど、時々は「あなたが上司でよかった……」と泣いてくれる部下がいる。
＊＊＊
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