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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:コヤマサカエ(10月開講ライティングゼミ)
 
 
腰痛。
 
12年前、それまで感じたことのない激しい痛みが全身を襲った。
やがて、それは腰に収束した。
 
いつかまた、必ず痛みのない体に戻る、と思っていたのに……。
 
……何をどうやっても、治らない。
 
整形外科めぐりに始まって、指圧、整体、鍼灸。スポーツジムで姿勢と歩き方の有料レッスン。山のようなクッション類と腰痛コルセット。布団だって買い替えた。有名スポーツ選手が宣伝していたヤツだ。
 
「どれだけ金を使わせれば気が済むんだ!」
 
腰痛に悩む人なら誰でも一度はこう思うだろう。
 
一口に腰痛と言っても、人によって痛む場所や状況は違う。
 
ミステリーの女王、作家の故夏樹静子氏は、自らの腰痛体験を『椅子がこわい―私の腰痛放浪記』(文春文庫)につづった。タイトルだけで大・大共感である。私も座る姿勢が一番つらい。背骨の下の方、腰椎とか仙椎とかいうあたりが、上半身の重みですり減っているのではないか? と思うほどである。
 
ノンフィクション作家で秘境探検家の高野秀行氏は、腰痛を秘境に、自らを探検家になぞらえて、『腰痛探検家』(集英社)を書いている。
高野氏も大いに苦しみながら腰痛と格闘されていた。僭越ながら、私も氏と大筋で似たような軌跡をたどっている。抵抗を経て受容にいたった。
 
あまりに長い付き合いで、「痛い」という状態に慣れてしまったのか、「痛い」を前提に生活している。
こんなことでいいのだろうか? 高齢の域に達したらどうなる? と、不安になることも当然あるが、用心深いはずの自分がなぜか、放置している。
 
イヤ、放置はウソだ。
朝と風呂上りのストレッチ。運動は無理のない程度に毎日キチンとしている(はず)。時々は整体に行き、先生の言いつけは必ず守っている(はず)。
 
これだけ並べると、腰痛知らずの幸せ者から、
 
「なんで、治らないの?」
 
と、言われそうだ。実際、そういう質問は受けるし、
 
「姿勢が悪いんだよ」
「歩き方が悪いんじゃない?」
「アタシは鍼で治っちゃったよ」
 
○○だからいけない、○○がいい、とご忠告下さる方もいる。私の脳内ではすべて“非難”に変換される。
 
「私もなの」
「みんな同じだよ」
 
とも言われる。何が言いたい? 私だって、
 
「私のはスペシャルな腰痛なのっ!」
 
と、女王様扱いを要求しているわけではない。
 
そうこうしているうちに、コロナ時代に突入。リモートという選択肢ができ、痛みと付き合いながら、自分のペースで活動するのは容易になった。
 
そこで、ある朝、突然気付いたのである。
 
「腰痛は、免罪符である」
 
たとえば、学割。
学生は勉強で忙しい、ということに免じて、社会人より安くしてもらえるシステム。そんな感じで、これほど痛い思いをしているのだから、他に割り引いて(=免罪して)もらえるものがあるのではないか?
すでに、何か免じられているかもしれない。
 
私は関節が弱いらしく、腰は既定として、ほかにも肩だの膝だのすぐに痛めるのだが、腰ほど重症にはならない。これだろうか? いやしかし、人間の痛みのメカニズムとして、同時に複数個所を痛いとは感知しないらしい。
(参考:『痛みをやわらげる科学』下地恒毅/サイエンス・アイ新書)
 
昔、ツービートという漫才コンビのネタで、
 
「歯の痛みを治したかったら、割りばしで思い切り目を突くといいですよ。目の痛みで歯の痛みを忘れます」
 
というのがあったが、科学的事実だったのだ。ちなみにツービートのボケは、映画監督の北野武。世界のKITANOである。(若い人のために注記)
 
イヤ、そんな程度ではお得感が足りない。他に何かないか?
 
腰痛のせいで、スケジュールを変更することがある。その時、実は危機を回避していた、ということはないか? しかし、記憶をたどっても、あの時あそこにいたら大変なことになっていた、などという事故や事件はない。せいぜい、「あー、ひどい土砂降りだなあ。行かなくてよかったなあ」というくらいか? それでも、いいか。
 
子どもの頃、たとえばお腹が痛かったりすると、
 
「痛いのは私のお腹であって、私とは関係ない」
 
と念じていた。効果のほどはなぜか覚えていない。しかし、この自分操作がクセになっているのか、腰から下がツラいと、
 
「腰から下を外せたらなあ」
 
と思う。
 
こういうアイデア、誰か科学者の人、買ってくれないか? 間に合ってるか? では、この強い念を別のエネルギーに変換できないか? そういうのもないか。
 
 
私は、どうも自分の腰痛でふざけている。結局、何を免れているのか? それは、死の恐怖だろう。
老化は単に容貌や、体力・知力の衰えだけを示すものではない。着実に死へ向かっている証拠である。
 
断っておくが、必ずしも腰痛=老いではない。私がそれを意識し、更にその先を予感してしまうだけだ。
だが、予感に怯えていては、今を否定することになる。今を生きるために、自らの老いを笑う。腰痛はそれを私にうながしているのかもしれない。
 
高野秀行氏は「腰痛LOVE」、と締めくくっていらした。私は腐れ縁のダメ男に見立てる。
 
行き場のないダメなヤツを養ってやっているのだ。
 
これをもって、ひとつ徳を積んだことにして欲しい。
 
 
 
 
***
 
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2023-11-15 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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