メディアグランプリ

私の役目は鶏が教えてくれた


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記事:福島有理沙(ライティングゼミ・10月コース)
 
 
私は鶏を屠殺した事がある。
 
と書くと、気分を悪くする人もいるのかもしれないが、日本人が肉を食べて生活しているということは、日本のどこかにその仕事に携わっている人が必ずいるということだ。私も小さい頃から、人並みに肉を食べて生きてきたので、いつかは屠殺の現場を経験すべきだと思い福島県の有機農園を訪れた。
 
肉が特別好きという訳ではないにしろ、自分の手で殺したこともないのに当たり前にきれいに包装された食用肉を買う事ができるのがずっと不思議で、後めたさを感じながら生きてきた。その農場では鶏、豚を飼い、ネギや里芋などを作っていた。屠殺の経験ができるという触れ込みがあった訳ではないのだが、大切に飼われているということは、命を見送る瞬間が必ずあるということだ。
 
その日は突然やってきた。社長から「卵産めない鶏が増えてきたから、今日は屠殺の仕方教えるね。もちろん強制じゃないよ」それまで誤ってありを踏んだり、腕で血を吸っている蚊を叩いたことはあったが、生きている小動物に自分の意思で刃を入れたことはなかった。その時、自分がどんな感情になるのかを知りたかった。
 
まずは鶏を捕まえるところから。鶏舎を元気よく走り回る鶏たちの中で、年老いた鶏を見つけ素早く捕獲する。鶏たちも何をされるか勘付いているので、なかなか捕まらない。私はこの作業が一番苦手だった。次に鶏を固定し、落ち着かせてから、苦しめないために念入りに研いだ包丁で頸動脈に刃を入れ、血を出すために鶏を逆さにする。食用にする際にはその後、熱湯につけてから羽根をむしる。ここまで来れば丸鶏以上に高級な内蔵入りの代物だ。
 
「なぁんだ!魚捌くのとおんなじだ!」
 
意外だった。初めて自分の手で鶏を殺め、処理した感覚は活きの良い魚を捌くのと変わらなかった。考えてみれば、当たり前だ。魚も鶏も私と同じように目があり、口があり、血もある。私の都合で彼らの命を推し量ろうとしていたなんて、なんて情けない。しかし、屠殺を経験する前には「何かを感じなければならない。そうであるべきだ」と思っていたので、あまりの普通さに驚いてしまった。いざとなったら鳥類を捕まえて捌く技術を身につけたので、それまでに感じていた「こんな私が当たり前に鶏を食べていいのか?」という罪悪感から少しだけ解放された気がした。
 
もちろん、感じ方に個人差はある。
友人と一緒に訪れた岩手県の農場でも屠殺をさせていただく機会があった。友人は初めから「鶏を殺したくない」と言っていたので、鶏を捕まえる係をしてもらった。捕獲に苦戦している私と比べて、友人は初めてと思えないほど上手だった。が、私が鶏に刃を入れる瞬間は見たくないと目を背けていた。人には役目があるんだなと思った(その割に鶏肉をバクバク食べていた)。
 
新潟のある田舎に住んでいた時、昔は食用肉をどう確保していたのか聞いた事がある。昭和初期〜中頃の話だと思われるが、やはりみんなが動物を処理できた訳ではなく、村で動物を屠る役回りの人が決まっていたそうだ。狩りや捌くのが上手な人が請け負って、村の人は必要なときに捌いてもらったり、肉を分けてもらったりする。動物のタンパク源は貴重、でもみんなが動物を殺められる訳ではない。人は与えたり与えられたりしながら生きてきたのだ。
 
たまにテレビ番組などで「こちらは若鶏の〇〇です!」「美味しそ〜!」なんて場面を見ることがあるが、背景を知ればあなたもおぞましく感じるはずだ。スーパーなどで売られている鶏肉というのはブロイラーという大量飼育・食用に改良されたものだ。通常の3〜4倍のスピードで成長し、2ヶ月ほどで出荷される。これがいわゆる若鶏だ。福島県の農場では雛の生育にも携わらせていただいた。少しだけトサカも生えてきて、手のひらに乗って可愛いくらいの雛たちを見ながら、「ブロイラーなら、この月齢で出荷されるんだよ」と聞いて、かなり衝撃を受けた。
 
私が暮らす台湾では、市場に行くと必ず豚や鶏が生きていた頃の形が分かるような状態で売られている。お客は、どの部位がどのくらい欲しいのか、骨付きか骨なしかなどを伝えて、その場で捌いてもらう。調理しやすいように細切れにしてもらおうとすると、骨をダイナミックに断つことになるので生々しい音が響く。これが日常の光景だ。お母さんの買い物に着いてきた子供がまじまじと眺めていたりする。鶏や豚の足や頭部まで食べる食文化を「気持ち悪い」とするのか、「無駄なく食べている」とするのかは主観によるだろう。
 
生きている以上、植物にせよ動物にせよ他の命を殺しているのは事実だ。何が正しくて、何が間違っているというのはとても難しいが、まずは「本当に食べたくて食べているのか」という疑問を自分に問いてみてもいいかも知れない。
 
この文章を書きながら飲んでいるコーヒーも、カップも、地球のどこかの何人もの手を経て私の元に届いている。その一つ一つの場面を想像したり、関わってくれた命に感謝しながら過ごすのが、まずできることなのかなと、今は思う。
 
 
 
 
***
 
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2023-11-15 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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