部下が夢を語る時は突然!?
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:菅 宏之(ライティング・ゼミ8月コース)
今年も早く時が経って11月に入った。来月の師走慌ただしい時節までの助走期間であり、世間も年賀状やお歳暮の販売が始まるわけだが、なかなか重い腰をあげられない中途半端な時期でもある。では、会社ではこの時期はどんな感じだろうか?
この様に尋ねられると、大半が冬のボーナス支給を待ち望んでいる時期かも知れない。
しかし自分にとっては憂うつな時期なのだ。みんなは待ちわびるかもしれないが、ボーナス査定をしなければならない。
自分の部下は均等に評価したいところだが、残念ながら優劣を振り分けないといけない。
査定結果が決まると、次は部下との面談だ。面談では、部下は予め目標管理のシートを書いておく必要がある。ただ部下の立場からすると、このシートを書くことが一つの関門の様だ。
「え~、面倒くさいなぁ」
このシートでボーナスの支給額が影響するのにもかかわらず、たいていの連中はこの有様である。そのため、
「会社のルールだから、それは守らないとかばうことができないよ」
と、忠告する様にしている。
そんな忠告を繰り返している中で、どうしても目標管理のシートを書かない部下が、過去に2人いた。
「なぜ、書かないの?」
「書いても、意味がないから」
「それだったら、君が何をしてきたか? わからないよ」
「わかってもらわなくても、構いません」
「意味がわからない。ではなぜここで働いているの?」
「今の仕事は一時的ですので、お構いなく」
なんと素っ気ない物言いだろうか。ムッとする気持ちを抑えて言った。
「このままだと平行線だから、このシートでのやりとりはやめてアプローチを変えよう」
と、一旦、間を空けようと判断して、後日場を改めて話を聞くことにした。
1人目は、入社はしたがモノ作りの価値観が自分と違うと感じる中で、雑誌で見た欧州の家具作りの記事が目に入り、家具職人になりたいと思いが募ったらしい。そのためイタリアまで修業に行く資金を貯めるために働いていると話してくれた。
「あなたの夢はわかったけど、それに向けて準備はしているの?」
「先に資金を貯めることが第一優先なので、準備はこれからです」
「それはわかるけど、実際にカンナや製作道具を使ってみた? 結構、勘やコツを得るのに時間がかかると思うけど」
「それについては、現地で調達してからになるので、これからです」
「大丈夫かぁ? 雑誌で得た情報だけで動くのは危険だと思うけど……」
「そんなこと、言われる筋合いはありません。覚悟はもう決まってます」
そんな話をしてから約半年後、会社を辞めて渡欧した。
2人目は、学生時代からイラストを描くのが大好きで、そのスキルアップにつながるのではないか? と考えて入社してきた。イラストを描く技量が製造部署で活きて、上長や仲間からも頼られて人気者だった。しかも製造スキルも向上して、製造部署では必要な人財だったが、業績悪化の影響で異動対象となって、自分の元にやってきた。その最初の面談だったと思うが、
「いきなりで恐縮ですが、今回の異動で気持ちが固まりました。自分の背中を押してくれた会社に感謝しつつも退職することにします」
「何それ? 詳しく話してくれるかな?」
「もともと、イラストレーターになりたくてずっと描いてきました。ただ、これでお金を稼ぐためには知見や資金など条件が不足していることはわかっていました。そのため一時的に会社勤めをすることに決めたのです。自立するための条件は揃ったので、あとは誰かが背中を押してくれるだけだったんです」
「ん? 意味がわからない。話したことを整理しようか。まずは……」
その途端に、1枚の紙を取り出して、
「これ、見てください」
それは部下が、イラストレーターで自立するためのビジョンマップだった。
必要な知見の習得度や目標資金、そして一緒にやる仲間も揃って、すべての事項にチェックが入っていた。
「これだけのことを考えて夢を叶える人を手放すのは、会社としては惜しい。覚悟は出来ているのか?」
「はい、出来ています!」
そう言った目がキラキラしていた。
「わかった。これからは一個人として応援するよ」
その話をしてからまもなく退職届が出され、起業へとまい進していった。
この2人とのやりとりは5~10年前の出来事だが、今はどうしているかというと。
1人目は、渡欧後半年も経たないうちに帰国し、日本で転職を繰り返して落ち着かない状況が続いている。
2人目は、イラストレーターの会社を無事起業して、今では地域イベントのポスターやキャラクターデザインを手掛けるなど、大活躍している様だ。
2人の結果の差は何だろう? ひとつは計画→準備→実行の差だと思うが、それに加えて熱意と覚悟の度合いが違ったのかもしれない。
何れにせよ私の部下だったこともあり、今も心配と期待で入り混じった気持ちだ。
上司という立場上、部下が会社業務でいかに成果を出させるか? そのために何が必要か? と考える一方で、部下は一個人として様々な夢を持っている。
この様に2人の部下が夢を語る時に遭遇したわけだが、会社業務であっても一個人の夢であっても、またその選択が成功するにしても失敗するにしても、次のステージという成長の一歩を歩んだことに間違いはないと思う。
これからもどんな部下が、この2人のように夢を語ってくれるだろうか?
いや、これからの時代は部下だけではなく、自分にとっても夢を語ることを気付かされた霜月だった。夢に向かって、
「迷ったら、前に進め!」
***
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