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中学生女子がトイレで生まれて初めて遭遇したボタン


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記事:赤羽かなえ(ライティング実践教室)
 
 
今、皆さんの目の前に、何が起こるか見当もつかないボタンがあるとします。
 
あなたなら、押す? 押さない?
 
平成がまだ一桁だった頃、中学生だった私は、トイレでその二択を迫られたのである。
 
私は、中学から私立の学校に通っていた。
その学校は、漫画で出てくるようなお嬢様学校そのもので、ほとんどの生徒が幼稚園か小学校から入学し、大学までエスカレーターで上がる。
 
今まで、ごく普通の小学生時代を過ごしていたのに、突然、日常の挨拶が『ごきげんよう』に変わったのだ。そして、その学校でできた友達の家に遊びに行くと、閑静な住宅街にそびえたつ豪邸だったりしてビビることも珍しくなかった。
 
そんなある友達の家で事件は起こった。
 
私は、トイレを貸してもらった。引き戸をあけて中に入るとスペースがやたらデカい。
 
なんてこったい。金持ちの家は、トイレまでゴージャス!
 
個人宅のトイレといえば、私が知る限り、その当時、トイレとペーパーホルダーがついていれば立派だった。それでも、トイレが洋式になっただけでもすごいことだと喜んでいたのだ。前に住んでいた家は和式だったのもあって、座れるトイレというだけで文明開化の香りしかしなかった。
 
でも、その友達の家のトイレは違った。中に手を洗うところが別についていたり、棚に本がおいてあったり。こんなのちょっとした部屋じゃん……、本とか置いてあったら、くつろげちゃうよ。
 
そんなことを考えながら、用を足すべく便座に座った。ふと便座の横をみると、奇妙なでっぱりがついている。
 
手すりではない。平べったいパネルのようなものに、ボタンがいくつか並んでいるのだ。
 
私は、用を足した後、改めて床にしゃがみ込んで、便座の横のパネルに近づいた。
 
そうすると、そのパネルにはボタンがいくつかついているのがわかった。
 
「おしり」「ビデ」「止」
 
ここで、勘のいい方は、それウォシュレットでしょ、とお気づきだろう。そう、正解。
 
今の人達ならあたり前に知っているウォシュレットだけど、中学生の私が、ウォシュレットに生まれて初めて遭遇した瞬間である。
 
……ボタンは、なんなんだろうか。
 
おしりはトイレだけに、お尻のことだろう。しかし、ビデとはなんだ?! もしかしたら、誤植で「ヒデ」かもしれない。しかし、こんなところに、ヒデさんという人専用のボタンがあって何になるんだ……などなど。私の頭は、作業が追いつかないパソコンのようにグルグルグルグルとくだらないことばかり考えていた。
 
いや、やっぱり押すでしょ。
 
だって、ボタンになっているんだもん。押してみればわかるよ。
 
さて、押すのは、おしりかビデか……だけど、ビデの意味がわからないから、ビデにしてみよう。
 
そんなわけで、ボタンを押したい欲が抑えられない私は、ビデを押したのだ。
 
そうすると、トイレの奥から、一本ストローのようなプラスティックの棒が唸り声をあげながら前に飛び出して来る。
 
その次の瞬間、私のおでこに、水が見事に命中、した。
 
その後はもう必死である。噴き出す水に慌てふためいてパネルの「止」ボタンを連打。
 
 
どうにか止まった後に残されたのは、水浸しの床と、おでこに散った水滴だった。
 
ヤバイ! 隠蔽しなくては!!
 
私は、ピンクのトイレットペーパーを両手で思いっきり手繰り寄せ、グルグル巻きに団子を作って、焦って床を拭き始めた。
 
拭きながら被害状況を検証すると、床と便座と、マットが一部濡れていたので、とにかくひたすら拭いた。
 
「ああっ、トイレットペーパーちぎれる」
 
水を吸い過ぎてべしょべしょになるトイレットペーパーをトイレに何度も流しながら、ようやく辺りをきれいに拭き取れたのである。
 
その間、5分か10分ほどしかかかっていないと思うけれど、体感は1時間も2時間もかかったような気がする。最後のペーパーを流して私は大きなため息をついた。
 
しかし、まだ、「おしり」を押してないよな。
 
果たして、おしりはどうなるんだろうか。
 
私は、懲りずに、今度はおしりボタンを押した。
 
再びウィーンという音を立てながら、ストローのような細長いノズルが出てきたので、真っ青になり、「止」ボタンを連打すると、ノズルはゆっくりと中に戻っていった。
 
そのおかげで二度目の被害は免れたのである。
 
その後、何食わぬ顔で皆がいるところに戻ると、友達は、ゲームで盛り上がっていて、私がトイレで大惨事を起こしたことも、大量のトイレットペーパーを消費しながら元の状態にしてきたことも気づかれなかった。
 
後で、友人にそれとなく聞くと、そのパネルはウォシュレットなるもので、おしりや、女子のデリケートゾーンを洗うための物なのだと教えてもらった。なるほど、だからストローのようなノズルがせり出して水が噴き出すのか、と納得したのだ。
 
残念ながら、今のウォシュレットには、「着座センサー」がある。座っていないとボタンが反応しないようになっているので私と同じ体験はできない。きっと、私のようなボタンを押したくてうずうずする人が沢山いたに違いない。
 
でも、着座センサーの存在を知った時には、私が中学生の時に装備しておいてほしかったな、と思ったものだ。
 
以上、今では公衆トイレでも当たり前のように装備されているウォシュレットが、珍しかった時代の話でした。
 
ところで、皆さん、目の前に何が起こるかわからないボタンがあったら押しますか、押しませんか?

私は、30年以上たった今でも、きっと押しちゃうような気がするんだ。
 
 
 
 
***
 
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2023-11-15 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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