よく話しかけられる40代女が、神おにいさんに救われた話
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記事:田盛稚佳子(ライティング実践教室)
私は話しかけられる。
駅でも、道端でも、旅行先でも。
ものすごく話しかけられるのである。
まるで、自分の顔に「プリーズ アスク ミー!!」と書いて歩いているのではないかと錯覚するくらいだ。
「博多エリアで話しかけられる人・40代の部ランキング」なんぞあれば、間違いなく5位以内に入賞する自信がある。
その日も、いつも通り会社から帰っていた。
地下鉄を利用している私は、勤務先から「中洲川端駅」で乗り換えて、博多駅に行く。
金曜日18時台の中洲川端駅はいつも以上に騒々しい。
博多駅行きホームへの階段を降りようとしたとき、
「あの……」と、か細い声が聞こえた。
声のほうを見ると、アジア系の若くて背の低い女性が、こぼれそうな大きな瞳でこちらをじっと見ている。
手元には、彼女の腰のあたりまである大きなハードキャリーケースとハンドバッグがあった。
「ハカタエキニハ ドウヤッテ イキマスカ?」
たどたどしい日本語とともに彼女のドキドキが伝わってくる。
この人に聞いてよかったのか、というやや不安げな声だ。
「一緒に行きましょう。私も博多駅に行くから。OK、OK!」
その言葉に、少しほっとしたようだ。
きっとキャリーケースも重いだろうとおもむろに手を伸ばすと、反射的に拒否された。
「ダイジョウブデス」
しまった! と私は思った。せっかく安心させたはずが、裏目に出た。
慣れない土地で知らない人に荷物を持ってもらうなんて、海外では危険なことだからだ。うっかり持って行かれたら大変なことになる。
日本に暮らしていると、そんな些細なことにも気づいてあげられないことを反省した。
「ごめんなさいね」
そっと謝って、一緒に地下鉄を乗り換えた。
日本語勉強中の彼女と、英語の文法がめちゃくちゃな40代女の会話が始まる。
「もしかして、留学生?」
「ソウ」
「どこから来たの? どこの大学?」
「ネパール キュウシュウダイガク」
「すごいね! 優秀だね!」
頬を赤らめて、はにかむ様子がなんともかわいらしい。
九州でトップの大学である。しかも留学生だなんて、勉強熱心だなと思った。
博多からどこへ行こうとしているのか聞いてみると
「シンコウベ シンカンセンニ ノル」という答えが返ってきた。
ちょっと嫌な予感がした。
なぜなら今日は金曜日である。博多駅のみどりの窓口は、コロナ禍が明けてからというもの、平日でも行列ができるほどだ。週末になると、旅行客や出張帰りのサラリーマンでごった返す状況なのだ。
「チケットは、もう買っているの?」
「ノー!」
オー、ノー!! 私は心の中で叫ぶ。そうだよね……と思った。
新幹線に乗るまでにかなり時間がかかることを彼女に話すと、ちょっと残念そうだった。でも仕方ない。それが博多駅の現実だ。
博多駅に着くと、案の定くねくねと二重三重の列ができている。
この状態では、券売機にたどり着くまでに軽く30分はかかるな、と思った。と同時に、
「あれっ? そもそも券売機って英語使えるんだっけ?」
急に不安になる。ここまで連れてきたものの、買えませんでしたでは話にならない。
とりあえず彼女に列に並んでもらっている間に、駅員さんに聞いてこようと思ったその時、
「あの、ぼくでよければ、変わりますよ」
彼女の後ろに並んだ男性が声をかけてきた。私と同年代の男性だった。
「ぼくも今からチケット買いますし、ちょっとだけなら英語話せます!」
そう言って、ニコッと私と彼女に笑いかけてくれた。
「え? 本当にいいんですか、お願いしちゃって」
「いいですよ。実はね、ついさっきまで韓国の方も道案内してきたばかりなんです」
と言いながら、小さなノートを出してきた。そこには、お互いが走り書きしたであろう英語と韓国語の単語がひしめき合っていた。うわ、韓国語もできるんじゃん!
神、来たー!! と私は天を仰ぎ見た。
「あ、ちなみに彼女、九州大学の学生さんらしくて。英語バリバリです」
と説明すると
「げっ! マジっすか! ぼく、高卒なんですけど……。緊張するなぁ」
と言いつつも、早速英語でいろいろと話しかけているではないか。彼なら大丈夫そうだ。
「まかせてください」と、神おにいさん。
「本当にありがとうございます。よろしくお願いします!」
ネパール人の彼女も小さく頭を下げてくれた。私は手を振りながらその場を離れた。
それでも、やはり券売機のことが気になった私は、改札にいた駅員さんに尋ねた。すると、
「券売機の右上に言語切り替えボタンがありますので、ご安心ください」
とのこと。
私はまたダッシュで行列に戻って、神おにいさんを探す。どこ? どこ? どこ行った?
いたー! 彼女と二人で何か話している。
券売機のことを伝えると、親指をグッと立てながら笑顔が返ってきた。
「ありがとうございます!」
「こちらこそ!」
まだまだ日本も捨てたもんじゃないな。心にぽっと灯がともり、私は帰路に着いた。
***
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