メディアグランプリ

アメリカで初対面の美女と戦友に

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:柳澤理志(ライティング実践教室)
 
 
そのとき私の隣には、ステファニーさんという美しい女性が座っていた。
さっき「はじめまして」のあいさつを交わしたばかりだが、お互いに黙って至近距離に座っている。
 
テーブルを挟んだ向かいにも男女のペアがいる。静寂の中、誰も言葉を発する者はない。緊張感はMAXだ。今から我々は戦うのである。
 
そして、なぜか私には心拍数計がつけられており、その数字がYouTube中継で全世界に配信されるという。どうしてこんなことになったのだろうか。
 
私は囲碁のプロ棋士である。囲碁を教えるため、このたび初めてアメリカを訪れた。
2週間にわたって行われ、約500人ほどのファンが集まる囲碁の大イベントがあるのだ。
全米からはもちろん、世界各国からの参加者がある。
 
中国、韓国、台湾、米国、ヨーロッパからプロ棋士も指導者として集まる。日本からのプロは、私一人だった。
 
「他のプロ棋士と対戦しませんか?」
と運営側からオファーがあったのは、滞在最終日の前夜だった。自分はこのイベントでは、参加者に向けて3日間講義をする予定になっていたのだが、最後に急遽、国際親善エキシビジョンマッチを戦うことになったのである。
 
「ちょっとした余興でやるのかな?」と思ったら、ちゃんとイベントとして組まれ、アメリカ囲碁協会の公式YouTubeチャンネルでライブ中継もされるらしい。
 
それも、「ペア碁」という、卓球のダブルスのように2人1組で交互に一手ずつ打っていく形式の対局でやることになったのだった。ペア碁は、それだけの世界大会もあるくらいメジャーな種目である。
 
ペア碁自体はやったことはあるが、アメリカで、公の場で、出会ったばかりの、しかも海外の棋士と組んで対局するとは、私にとって初めて尽くしのことだった。
今回の旅には講義をするための準備しかしてこなかったので、急に「日本代表選手」となって、めちゃくちゃプレッシャーがかかった。しかし、こうなれば、やるしかない。まだ残る時差ボケを少しでも解消するべく、早く寝た。
 
翌日の午後1時に集合。これからペアを組むアメリカの女流棋士・ステファニーさんと顔を合わせた。そして同じくはじめましての対戦相手、中国棋士&韓国女流棋士のペアともあいさつしている中、バタバタと準備が整えられ、15分後には対局開始となったのである。
 
対局室はピリピリと肌を刺すような、重々しい空気に包まれている。私もかなり緊張したが、ステファニーさんはもっと緊張していたらしく、「一手目を打つときに吐きそうになった」と後で言っていた。
 
プライベートの遊びでやるならワイワイ盛り上がっても良いのだが、競技なので会話はもちろん禁止。必死にペアの呼吸や思考を読み取ることに神経を使った。
 
ちなみにこのとき、なぜか私にだけ心拍数計が付けられていた。これによって、ポーカーフェイスで対局していても、内心は動揺しているのがバレるのである。これは初めて経験する面白い試みで、日本の囲碁イベントにはないものだった。
 
しかし、当事者としては面白いとか言っている場合ではなく、恥ずかしかった。なぜ私が選ばれたのかは、不明である。実際、相手の厳しい手に対して、ものの見事に心拍数が跳ね上がって、YouTubeの解説者にイジられ、視聴者にウケていたらしい。
 
「お隣の美人に対してドキドキしていたのではないか?」と、日本に帰ってからある友人にニヤニヤしながら突っ込まれたりもした。これに関しては本当に、マジで、それどころではなかった。もちろん、盤上の戦いに全てを傾けていたからである。
 
そもそも彼女には旦那がおり、その旦那もアメリカのプロであり、この対局の解説者だったのである。ちなみに後で直接話す機会があったが、彼はめちゃくちゃ優しい、超ナイスガイであった。さすが、ステファニーさんを射止めた男である。
 
対局は我々が大きなピンチを迎えたが、パートナーに不安を与えないように、努めて平静を装い、「全然いけるっしょ」という雰囲気を自信満々の手つきで表現した。そして一瞬のチャンスをとらえて、逆転に成功した。その後も相手ペアの猛追をシノぎ切り、素晴らしいパートナーのおかげでなんとか勝利することができたのだった。
 
「Good Job!」とステファニーさんは親指を立てて白い歯を見せた。私は、とっさに返す言葉が出ずに微笑みを返すのが精一杯だった。「ああ、アメリカでは本当にこんな映画みたいなやりとりするんだ」と思った。とにかくホッとしていた。
 
対局後は和やかな空気となり、戦った相手の棋士たちとも一気に親しくなった。終わってみれば、この上なく良い経験となったのである。「いやー囲碁って、本当にいいもんですね」という感想しかない。
 
一般的に囲碁は、「日本の伝統文化」「高齢者の趣味」というイメージがまだまだ強いかもしれない。それももちろん間違ってはいないのだが、しかし、囲碁は世界中にプレイヤーがおり、世界大会もたくさんある。
 
言葉が通じなくても、囲碁自体で仲良くなれるので、国際的なコミュニケーションツールになるという側面もあるのだ。私がプロ棋士として囲碁の素晴らしさについて語るとき、この点はとても強調したいところなのである。
 
 
 
 
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2023-11-29 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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