メディアグランプリ

風邪症状を秒で吹き飛ばした憧れの処方箋


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:パナ子(ライティング実践教室)
 
 
約10年前、私たちの結婚披露宴が執り行われた際、友人からもらったコメントには披露宴の気遣い定型文とも言える「パナ子、綺麗だよ」「優しそうな旦那さん」に加えて急上昇でランクインした「ねぇお義父さん何者?」というものがあった。
 
通常、結婚披露宴での大トリは新郎からみなさまへのご挨拶なわけだが、その前に新郎父からの謝辞というものがある。これまで多くの結婚式に参列してきたが新郎父の謝辞にもいろんなパターンがあった。
「本日はお忙しいなか二人のために」から始まり「ご指導ご鞭撻を」で締めるいわゆる謝辞の基本の型。これをただシンプルになぞり終わるタイプもいれば、そもそもスピーチが苦手だからと手紙形式にして読み上げるタイプ。なかには酒も手伝い感極まってウォンウォン泣いて花嫁よりも目立ってしまう少々困ったタイプもいた。
 
うちの義父の場合、式場側が用意したスタンドマイクのスタンドを(結構)と静かに外してマイクを手持ちした時点で、スピーチ慣れしているのがダダ漏れていた。マイクから流れるコードも華麗にさばいて大御所のディナーショーでも始まるのかという貫禄さえ漂わせた。
 
義父は私たち新婚夫婦のことに言及しながら、アメリカの実業家であり詩人のサミュエル・ウルマンの有名な「青春とはある期間のことを言うのではなく、心の在り方のことを言うのだ」という言葉について語った。
会場の列席者をゆっくり見渡し、ちょうどいい間を置きながらの堂々たるスピーチを聞いて「何者?」と思う方もいたようだ。
 
義父は同族経営の中に一人飛び込んだかと思えば若くして取締役にまでのしあがり、早期退職して自営業を営み、しまいには地方選に出て議員になった。
現在70を越える義父だが、話を聞いただけでその昔バリバリに仕事が出来てなおかつ常々挑戦者であったろうことは想像に難くない。
 
今では完全に現役を引退して、散歩したり、畑を耕したり、または趣味を楽しんだりしてゆったりとした余生を送っているが、やはり発する言葉の端々にはこれまで義父が歩んできた人生のエッセンスがたっぷりと詰まっているのである。
そんな義父を誰よりも愛してやまない男がいる。我が家の7才の長男だ。
 
義実家には年に2回帰省をしているが、今回12月初めに帰省することも楽しみで楽しみで待ち切れない様子であった。
なぜまだ幼い7才にも義父は魅力的に映るのだろうか。
その理由の一つに義父が大変聞き上手というのがある。そう、義父は話し上手なだけでなく聞くのも得意なのだ。
 
「お友達がお家に遊びにくることはあるんか?」「近くの友達?」「そのお友達の家に○○(7才)が遊びに行くこともあるんか?」
程よく質問を重ねて7才の言葉を引き出す。義父は7才の日常を脳内のスクリーンに映すかのように聞いてくれる。決してうわべだけなぞるような聞き方はしない。しかも義父の言葉を咀嚼して7才が「~っていうことなんだね」と言うと間髪入れずに「その通り!」と応える姿はまるでアタックチャンスの児玉清だ。
 
「えーっ!」とか「すごいね!」とかビックリマークがつくようなものではなく淡々と進む会話は傍からみれば少々盛り上がりに欠けるように見えるが、これが7才にとっては大変落ち着くものであるようなのだ。
 
そして7才が遊びにくるからとわざわざ山から竹を切ってきて竹馬を手作りしてくれたり、畑に連れて行き野菜の収穫を手伝わせたり、焚火をして温めてくれたりする。7才がオセロをしたいと言えば「男と男の真剣勝負じゃ」といってわかりやすく負けるような事はしない。
 
派手なもてなしはないけれど、憧れの義父の日常にこれでもかと触れられる帰省は7才にとっても日頃のがんばりを癒す極上の時間なのである。
 
そんな7才が今回の二泊三日という短い帰省の最終日の朝、明らかに風邪っぴきの様子で起きてきたものだから、義母と私、つまり家族の体調面に敏感すぎる女たちに戦慄が走った。
くしゃみ連発、鼻水をズルズル言わせている7才に持参した小児科の薬を飲ませ、一旦布団で寝せることにした。学校帰りの金曜日に新幹線に飛び乗ったタイトなスケジュールや昨日、山や川を駆け回り体力の限界まで遊んだことが少々悔やまれた。
 
せめて帰りの新幹線までの間、ゆっくり休ませようという女たちの目論見は見事に外れた。
「じいじと遊びたい! じいじとオセロで対決したい!」
じいじの事を思うといてもたってもいられない7才は「30分くらいは寝たからもういいでしょ!」と言うと布団を強めに蹴り上げ、じいじの元に走っていった。
大好きなものは誰にも止められない。
 
計画通りに行かなかった女たちは少し落胆したが、その後の7才の復活劇はお見事としか言いようがなかった。
じいじとオセロの真剣勝負でいい汗をかいた後、じいじのいつものコースでお散歩し、ばあばのカレーをモリモリと平らげた頃には風邪っぴきの症状はすっかりを鳴りを潜めていた。
 
なんと偉大な「好き」の力!!
この限られた時間の中でじいじとのさまざまな語らいややりとりを少しでも重ねておきたい。そんな意思の強さが7才の症状を吹き飛ばしたのだと思った。
 
いよいよ帰る頃になって義父が私に言った。
「ほんま、しっかりしたのう。もう大丈夫じゃ。これから何度でも人生のなかで挫折を味わうことがある、でもそのたびに踏ん張れたら、それでええ」
7才は小学校入学後すぐに不登校を経験した事があったが、心配しながらも細かいことは言及せずに大きな心で見守ってくれていた義父にそう声をかけてもらった時、不意打ち過ぎて胸が詰まった。7才が愛してやまない義父が7才の事を認めてくれたようで母の私は嬉しさと誇らしさでいっぱいになったのだ。
 
子育ては夫との二人三脚だ。
でも私たち二人が間違えることが無いとは言い切れないし、一生懸命やったところで決して万能でもない。心を許し、尊敬できる義父のような存在もまた7才を育ててくれている。今後長い人生においてアタックチャンスが訪れた時、息子が臆することなく飛び込んでいけるように父も母も、そして義父もずっと君の事を見守っている。
 
 
 
 
***
 
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2023-12-06 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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