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ばあちゃんが遺してくれた元気と勇気が出るおまじないの言葉


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:パナ子(ライティング実践教室)
 
 
週が始まったばかりの、月曜午後7時。電話が鳴る。
こんな時間に珍しく、遠方に住む父からだった。
 
夫が子供たちと風呂に入っている間に夕飯の食器を片付けてしまいたい。イヤホンで家事をしながら話を聞くかと気軽に電話を取る。
 
「あ、もしもし? どした?」
「おう。ちょっといいか」
父のピンと張り詰めたような声。
何かあったのかと、食器を洗うのをやめリビングのイスに腰掛けて背筋を伸ばした。
 
「ばあちゃんがさ」
もう嫌な予感しかなかった。でも、そんなはずはなかった。今年の夏休みは二回も帰省して元気なばあちゃんの97才のバースデーを子供たちと祝ったばかりなのだ。
 
「実は10月の半ばに、吐血して、下血した」
想像を絶する内容にしばらく言葉を失った。
 
「救急車で運ばれて余命6ヶ月って……」
思わず息を飲み、心臓にヒヤッと冷たいものが通り過ぎた気がした。
私は急激に、最近ばあちゃんに電話して近況を聞いたりしていなかったことを悔いた。
 
そんな後悔はすぐさま吹き飛ぶような事を、父は無情にも重ねてきた。
「緩和ケア病棟に移るのを待って家で看てたんだ。そしたらばあちゃんが『もう体がきついから入院したい』って言って。救急車で運んでもらったらお医者さんが『一週間くらいで会話ができなくなると思います。話したい方がいるなら呼んでください』って」
 
私は絶句した後、さまざまな感情が一気に噴出して嗚咽した。
一回の電話で大幅に寿命縮めてくんなや!!!!!
 
ばあちゃんがもう少しでこの世を去るかもしれない衝撃と、知らずにのほほんと暮らしていた自分への苛立ちと、何でもっと早く教えてくれなかったのかという父への怒りで頭と心がグチャグチャになった。
 
落ち着いて話ができない。
父となんとか、明日帰ることの段取りだけつけて電話を切った。
 
嗚咽が治まらないでいると、風呂から上がった夫が驚いた様子で声を掛けてきた。
「どうかした?」
「ばあちゃんが……もう……危ないって」
それだけ言うのが精いっぱいだった。
 
父には父の事情があった。
父は脳梗塞で左半身が麻痺したじいちゃんと、ばあちゃんの三人で暮らしていた。
ばあちゃんが倒れた時、じいちゃんの事もあってバタバタし、余命6ヶ月と聞いた時はお正月もあるし生活が落ち着いたら孫の私たちにも連絡しようと思っていたようだった。
 
誰も責められない。ただ、ばあちゃんと最後に言葉を交わすことはできるのか。それだけが心配だった。
 
20代で母を亡くした私にとって、色々な場面で助けてくれたばあちゃんを亡くすことは精神的支柱のひとつを失うことを意味していた。
 
神様、お願いします。
どうかばあちゃんの意識があるうちに、一言だけでもいい、会話をさせてください。私はばあちゃんに絶対言わないといけない事があります。
 
しかし、その願いは、非情にも神様には届かなかった。
翌朝8時、新幹線に乗る準備をしていた私のスマホが再び鳴った。
「ごめん、間に合わんかった。今朝五時半だった」
私はスーツケースに詰め込もうとしていた衣類で散らかったリビングの床に、静かに座り込んだ。
 
何も手につかず頭が真っ白でぼうっとしていると、これまた遠方に住む姉から電話があった。私が最後に会えなかった後悔を口にすると姉からは意外な言葉が返ってきた。
 
「でもさ、おばあちゃんらしいやん。弱っている姿誰にも見られたくなかったのかもしれないよ?」
 
姉のその言葉がストンと腑に落ちて、なんだか妙に納得した。
そうだ、ばあちゃんって、ずっとそんな人だった。
 
私が知る限りでは、ばあちゃんが弱音を吐いているところを見たことがない。
いつも周囲に気を配り、周囲を元気づけるのが得意な人だった。
 
それは母が亡くなる時にもいかんなく発揮された。
もう余命いくばくもなく、家族は迫る「Xデー」に怯え、いずれ襲われる喪失感で胸が引き裂かれそうな状態だった。
家族が沈むなか、ばあちゃんだけはこう言い続けた。
「大丈夫、大丈夫、ばあちゃんが毎日ちゃんとお祈りしとるけん。心配せんでよか」
 
全然大丈夫なわけなかった。
私たちを産み、育ててくれた母がもうすぐ死ぬのだ。
それでも、ばあちゃんの「大丈夫」を聞くと不思議と心が落ち着いた。
 
ばあちゃんは全部何もかもわかったうえで、私たちがちゃんと立てるように、心に栄養を与え続けてくれていた。
 
そんなかっこよすぎるばあちゃんだから、旅立ちは一人でスッと行きたかったのかもしれない。入院したその日の晩、ばあちゃんの娘である伯母が病室に行くとほんの少しのおしゃべりを楽しんだ。
「眠かけん。少し寝るね」
 
その言葉を最期にばあちゃんは眠ったまま、翌朝静かに息を引き取った。
 
葬儀場に着いてばあちゃんの顔を初めて見る。
短期間で急激に体調が悪化したとは思えない、とても穏やかな顔をしていた。
死に化粧でふんわりチークも入れてもらって可愛くなっている。
 
滞りなく通夜が終わった時、葬儀場のスタッフと打ち合わせをしていた父に呼ばれた。家族の中で「お別れの言葉」を言いたい人はいないかという。
父に「お前、やってくれるか?」と言われた時、既に心は決まっていた。
最後に言葉を交わせなかったのだ。手紙でもいい。ばあちゃんに一言いわせてくれ。
「うん、私やるよ」
 
葬儀が始まり、お坊さんがばあちゃんに向かってお経を上げ始めたら、いよいよこれでばあちゃんとも本当にお別れなのかと思うと寂しくてたまらなくなった。涙を堪えて焼香をする。喪主である父の挨拶の前に私の名前が紹介され、お別れの言葉の時間になった。
 
みんなの前に出ていって深く一礼する。
今度はばあちゃんの遺影に向き直って一礼する。
マイクに向かって最初に「ばあちゃん」って呼び掛けようと思ったら、ばあちゃんへの思いが溢れて止まらなくなった。涙が次々に出て、言葉に詰まってしょうがない。
 
おい、最後のサヨナラだぞ、しっかりしろ。
自分に気合いを入れ直して私は手紙を読んだ。
 
お母さんが亡くなる時ずっと励ましてくれた事、でも実際に死んだ時ばあちゃんが「わーん!」と子供みたいに大泣きしたこと、おいしい手料理をたくさん食べさせてくれたこと、今年の夏に庭で一緒に花火をして「きれいかね」とばあちゃんが言ったこと……私にとってかけがえのない大切な思い出をひとつひとつ箱から出して大事にしたためた手紙だった。
ありったけの「ありがとう」を伝え切って、もう悔いはなかった。
 
私は、手紙を最後にこう締めくくった。
「97年間本当にお疲れ様でした。後の事は『大丈夫、大丈夫、心配せんでよか』どうか安らかにお眠りください」
 
今までずっと私たちを励まし、癒し、希望の光を与え続けてくれたばあちゃんを今度は私たちが安心させる番だった。
 
これから長い人生きっと色々なことがある。楽しいことも辛いことも。
でもどんな時でも絶対大丈夫。私にはばあちゃんから教わった元気と勇気が湧いてくるおまじないの言葉があるのだから。
 
 
 
 
***
 
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2023-12-21 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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