「死んでからやることリスト」を書いてみた
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記事:そらいぬ(ライティング・ゼミ10月コース)
「死んでからやることリスト」を書いてみようと思った。
がん罹患者の「死ぬまでにやりたいことリスト」を書こうという呼びかけが、SNSに流れてきた。がん治療のための抗がん剤などの投与は体力を奪い、とても疲れやすくなる。乳がん患者である私も、余命の告知こそ受けていないが、それでも思うように体が動かずに、無駄に時間が流れていくという焦りを感じている。だからこそ「死ぬまでにやりたいことリスト」の投稿主は、やりたいことをリスト化して、限られた時間を有意義に使おうというのだ。
私自身は、すでに習慣として年の始めにやるべきことややりたいことを書き出して、とりかかる順番をつけている。そこで、思うように動ける時間が限られていることを意識してリストを見直し、無理にやらなくてもいいことをやめ、やりたいことのとりかかる順番を入れ替えた。
さて、改めてリスト化した「死ぬまでにやりたいこと」を眺めて考えた。
このリストにあること全てをやったら、悔いはなくなるのだろうか。いやいや、私は悔いが残る。会いたい人がいるのだ。会って感謝を伝えたい相手がいるのだ。そして、その相手は、すでに私より先に他界している。私も死なないと、会うことはできないのだ。そこで私は「死んでからやることリスト」を書いてみようと思った。
「死んでからやることリスト」に最初にリストアップしたのは、愛犬に再会し、力の限り抱きしめることだ。色々と事情があって、私の家庭は崩壊した。不協和音が生じて家族がバラバラになっていく中で、ただひとり常に私の声に耳を傾けて傍らにいてくれたのが、18歳まで生きた愛犬だった。
愛犬も、肝炎やがんなど大病をした。当時の私としては、精一杯のことをしたつもりだった。しかし亡くなってから、もっとこうしてやればよかったという様々な後悔が湧き上がってきた。例えば、医者の言うままに幾度も手術をしなければよかったとか、肝炎のために食事には制限があったのだが、亡くなる直前にはそんなことに構わず、おいしいものをたくさん食べさせてやればよかったとか。そしてなにより、家族仲の悪い私の家に来て幸せだったろうかと、今でも申し訳なく思う。
だから、天国に行ったらすぐに愛犬に「ごめんね」と「ありがとう」を言い、そして「これからはずっと一緒だよ」としっかりと抱きしめたい。
次に会うのは、世の中にこんなに優しい人が存在するのかと言葉を失ったほどの女性だ。
居心地の悪い家を早くに飛び出した私の娘は、私が知らないままに結婚妊娠し、出産前に離婚していた。娘と私が再会したのは、娘の出産後1年以上経ってからだった。その間、娘の出産と育児を手伝ってくれた女性がいた。娘より20歳ほど年上の人で、アルバイト先で知り合ったという。どこの馬の骨とも分からない若い娘を、これほど親身になって世話してくれる人の存在に、私は心底驚いた。娘もその人の優しさに感化されたのだろう、その後、看護師の資格を取り、まっとうに生きてくれている。
そんな稀有な聖人のような人なのに、不治の病に侵されて、50歳前に亡くなってしまった。会って何と言えばいいのか分からないが、とにかく頭を下げて感謝を伝えたい。
共に学びながら、志半ばで亡くなった友人達もいる。ひとりは、東日本大震災で壊滅状態になった故郷を立て直そうと奮闘していた。もうひとりは、裏方の仕事を自ら引き受けて、学びの会を支えてくれていた。どちらも、これからの社会に必要な人だった。再会したら、色々と語り合おう。
それから父親に会おう。大人になって生じた誤解を解いて、笑い合おう。私が幼いころに大切にしてもらったことは、忘れてはいない。親子の関係は、難しい。
会いたい人に一通り会ったら、次は「秘密結社老犬倶楽部天国支部」に行く。SNS上のハッシュタグだが、愛犬が亡くなったと伝えると、天国の犬達が編隊を組んで迎えに来てくれて、ウエルカムパーティを開いてくれるのだ。
たった一匹で天国に行くのは寂しくないか、と案じる愛犬家達が作り出した世界だ。この世界観に、愛犬を失った哀しみがどれほど癒されただろうか。
天国でたくさんの犬達が楽しく走り回っているというのを、この目で確かめなくては。もちろん、私の愛犬が案内してくれるはずだ。
こうして「死んでからやることリスト」を書いていくと、なかなか過酷な人生ながら、それでも多くの素晴らしい人達に支えられてきたことが、明りょうになる。
誰もわかってくれないとひねくれていた私に、暖かな心を寄せてくれた存在。バラバラになった家族に、力になってくれた人。共に学び、よりよい生き方を示してくれた人。奇跡のような出会いが、確かにあった。
ありがたいなあと心から思う。その気持ちを、実際に会って、しっかりと伝えたい。そしてなによりも、先に逝ってしまったそんな人達に再会するために、私も天国に行ける人間でなくてはならない。
「死んでからやることリスト」作りは、これまでの出会いに感謝を新たにし、恩人に再会する時に恥ずかしくない自分になっているかを振り返るリスト作りでもあった。
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