メディアグランプリ

大人とネコ


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記事:井上和興(2023年・年末集中コース)
 
 
「あの先生、なんかわたしたちのことわかってくれないよね」
病棟のナースステーションに入ろうとするわたしの耳に聞こえてきた会話である。このときは、ちょうど医師になって、7年目くらいのときであった。医療行為にも自信が持てるようになり、さらに良い医師を目指していこうと燃えていた時期でもある。しかし、「患者さんとはそれなりにコミュニケーションは取れるけど、看護師さんたちとはなかなか意思疎通がうまくいかないなあ」と感じていた。そんな想いを抱えていたころに、ふと看護師さんたちの噂話の声が耳に入ってきた。
 
「なんでみなさんは、そんなこと言うのですか?」
そんな風に看護師さんたちの会話に割って入るわたしの姿を頭では想像していた。しかし、承認欲求が強いわたしは看護師さんたちに否定されるであろう自分の姿も頭に浮かんでいた。そのため、会話に割って入る勇気なんかはなかった。ナースステーションにいる看護師さんたちにはできるだけ気づかれないように回り道して、わたしは医師のスタッフルームに戻った。
 
この出来事は、時間帯は午後7時くらいであった。その日は、ばたばたしながら1日を過ごして、夕方になってやっと病棟に行くことができた日であった。だれもいない医師のスタッフルームに戻り、ソファに座った。どっと疲れがでた。なんだか目に涙が浮かんで来た。
 
「なんのために医者になったんだろうか?」
そんな気持ちになり、しばらくぼーっとしていた。なかなかソファから立ち上がることができなかったが、ぐーっとお腹がなった。こんな気持ちになってもお腹がすくということは良いことだなあと感じた。ソファから立ち上がり、白衣を脱いで帰路についた。帰りに大好きなラーメンを食べた。
 
このような経験は他にもある。なので、看護師さんたちがする医師の噂話というのは、医師にとってあまり聞かない方がいいことなんだろうなと思っている。ただ、ここから学んだものもある。一番の大きな学びは、「他人はコントロールできない」ということである。この看護師さんたちの噂話を聞いたあと、コーチング・ファシリテーション・マネジメント・ワークショップデザイン・アドラー心理学などコミュニケーションに関するスキルについて手当たり次第学んでみた。どのスキルにも、コミュニケーションの対象となる人をどのように捉えるか、考える必要があることは説いていた。その根底にあるものは、「他人の行動を変えよう」とすることを手放すところからコミュニケーションは始まるのではないか、と感じている。看護師さんたちの会話を聞いたころのわたしは、「なんで看護師さんたちはぼくの言うことを聞いてくれないんだろう」と悩んでいた。指示を伝えているのに、指示通りにしてくれないことにいらだちを覚えていた。わたしの前提に、「他人の行動はコントロールできる」ということがあったのだと思う。
冒頭に書いたような場面に遭遇した時、ネコと同じような行動をとってみるのも良いかもしれない。わたしは、3匹の保護ネコたちと一緒に暮らしている。このネコたちは、寝たいときは自分が心地よいと感じるところで寝ている。また、ご飯を食べたい時・遊んでほしい時は人間たちに率直に要求してくる。ネコたちは、あまり先を考えずその時の自分に対して素直に生きているように思う。ほんとうのところは、ネコになってみないとわからないのだが……。特にご飯を食べたい時や遊んでほしい時の率直さは見習うべきものがある。どんなに人間たちが寝ていたとしても、願望を叶えようとして大きな鳴き声で訴えてくる。そのしつこさに根負けして、ついついカリカリをあげてしまったり、どんなに疲れていても一緒に遊んでしまう。今から思うと、ネコたちのこの率直さを見習って、「なんでみなさんは、そんなこと言うのですか?」と看護師さんたちに聞いてみてもよかったかもしれない。また、自分が不快に感じたことを素直に看護師さんたちに伝えてみてもよかったかもしれない。いま、この原稿を書いている横で、3匹のネコたちはぐーすか寝ている。わたしもその姿を見ていて、眠くなってきた……。
大人になると空気を読んでしまい、素直さ・率直さを失って人とコミュニケーションを取ることが多くなっている。理想の大人を目指して、大人のふりをしているだけで、子どものころの心のあり方と今のわたしはほとんど変わっていない。そのことをネコたちの観察をすることで、思い出すことができる。時々は、大人になって身につけてきた鎧をとってみると、自分に素直な生き方ができるようになるのかもしれない。
 
 
 
 
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2023-12-30 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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