メディアグランプリ

冷凍ハンバーグと年賀状


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:深尾暁子(ライティング・ゼミ12月コース)
 
 
近所の郵便局が集配局で助かった。不在票があれば、日曜日でも荷物を受け取れる。本人確認の運転免許証を提示し、小包を受け取る時に胸をチクリと刺した罪悪感を一緒に抱えて帰宅する。
 
丁寧に包装された紙の箱を開けると、ネット注文した100枚の年賀状が現れた。
 
あれもこれもしなくてはと気持ちが急く一年最後の月。クリスマス、忘年会、大掃除、帰省、おせちの準備。やることリストに載る項目は人によって異なるだろうが、子供の頃から私のリストの一番上は「年賀状作り」だったー 今年までは。
 
小学生の時の芋版に始まり、中学生からは絵本を参考に干支にちなんだイラストを描き、挨拶文を添えた手書き年賀状を作ってきた。2008年に製造販売が終了した家庭用印刷機(これを使って年賀状を作っていた昭和の家庭は多いはず)を使って一枚ずつ手で印刷した後に、色鉛筆や絵の具で色をつけていく。時には家族総出でわいわい喋りながら、リビングの床一面に作成途中の年賀状が敷き詰められているのが、我が家の12月の風物詩だった。
 
時間はかかるし、正直面倒だと思うこともある。それでも、一人暮らしをするようになってからもなぜか年賀状作りをやめる気にはなれなかった。
 
年賀状作りはお弁当作りに似ている。限られたスペースにごはん(賀詞)を中心におかず(挨拶)をバランスよく入れ、体裁を整えて(年号)いろどり(絵)を添える。「明けましておめでとうございます」と「Happy New Year」のどちらにしようか悩んだり、受け取る人によって色を変えたり。そんなプロセスを経て完成した年賀状は、世界にたった一つの、私が作った誰かのためのお弁当のようなものだ。
 
だからこその罪悪感である。ネットで注文する年賀状なんて、おかずに市販の冷凍ハンバーグを詰めた、手抜きのお弁当のようなものだ。
 
と思っていた。
 
10日前のこと。ネットで年賀状作成サービスを探し当てた私は、まずテンプレートの多さに唖然とした。和風、スタイリッシュ、かわいい、ポップ、写真……。賀詞はサンプル文例から好きなものを選べるし、フォントや字の大きさも指定できる。自分の住所、電話番号、メールアドレスなど好きな情報を入れて、10分もあれば年賀状完成である。
 
え、これだけ……?
 
と同時に、もう一つの疑問が浮かぶ。
 
これのどこが「面倒くさい」の?
 
「年賀状は虚礼」「年賀状は悪しき風習」と激しい意見を持たない人でも、年賀状は要らない、SNSやメールで充分と考える人がもはや日本人の大半を占めるのではないか。当たり前のように年賀状をやりとりしてきたであろう親の世代からも、年賀状じまいのお知らせを受け取るようになった。年賀状を送り合うのが廃れゆく慣習であることは事実である。ただその理由に「面倒だから」が挙げられるのはどうも納得がいかない。だって、今日びほとんどの年賀状が年賀状作成用のパソコンソフトやネット注文で作られているのだ。めっちゃ簡単じゃん。
 
なのに、一年に一度「今年もお元気で」「良い年になりますように」と気持ちを賀状で送り合うのが面倒だなんて、日本人は一体どれだけ忙しいんだろう。
 
そんな心配をしながら、2日かけて美しい富士山に来年の干支の龍が添えられた年賀状を選んだ。私が逆立ちしても描けないカラフルで綺麗なイラストにワクワクする。既製品とはいえ、挨拶の言葉や配置なども選べるので、かなり手作り感を味わえる。ここまでやってもらえば、あとは表書きをするだけ。なんという時間短縮!と感動しながら最終確認画面まで進み、自分が「作った」年賀状を眺める。冷凍ハンバーグとパックごはんをチンして詰めたお弁当。味は美味しいに違いない。
 
なのに、注文ボタンが押せない。
 
- 毎年手書きの年賀状を受け取ってきた人がこれを見たらどう思うかな?
- 他にもこのデザインの年賀状を選んだ人がいるかも。同じイラストの年賀状2枚もらったらがっかりするかな?
- やっぱり今からでも自分で作った方がいいんじゃない?
- いやいや、そんなことしてたら絶対間に合わない。
- 年賀状作りなんて自己満足なんだから、手作りにこだわることなんてないよ。
 
脳内会議が繰り広げられる中、ポツリと質問が浮かぶ。
 
- 私は今どんなお弁当を作ってるんだろう。
 
誰かが作った、または誰かのために作ったお弁当が大切な思い出の一部になっている日本人は多いだろう。遠足や運動会の時の特別なお弁当、気合の入ったキャラ弁、喧嘩した次の日の海苔で「バカ!」と書かれた弁当、受験の日のゲンかつぎ弁当など、あげればキリがない。味よりも、そこに込められた気持ちや作った人と食べる人の関係を味わうようなお弁当。
 
それと同じで、新年の挨拶を手作りの年賀状で受け取ったらやっぱり嬉しいんじゃないかと思いたい。逆に言えば、何もかもが印刷された既製品の年賀状を「味気ない」と感じ、「面倒だからやめてもいい」と思うのも、ごく自然な反応なのかもしれない。そういう年賀状を見て「誰かが私のために作った」と感じ取るのが難しいからだ。
 
そこまで考えて、脳内会議を終わらせた。
 
最終確認画面の「訂正」を選び、自分の名前を消して空欄にする。せめて自分の名前は自分の字で書こう。
 
今年の私の年賀状は、冷凍ハンバーグを詰めたお弁当だが、ごはんの上に自家製の梅干しが載ることになった。ささやかな手作り感が伝わることを願って。
 
 
 
 
***
 
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2024-01-10 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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