メディアグランプリ

裁判所からのお知らせから人生が深くなった話


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:上山竜太(ライティング・ゼミ10月コース)
 
 
年末のある日、東京地方裁判所から郵便物が届いた。
はて、何をやらかしただろうか。刑事事件として裁判沙汰になるようなことをやらかした記憶はない。そもそも取り調べも何も受けていない。では、民事裁判なのだろうか。こちらもトラブルを起こした記憶はない。もしかしたら知らないうちに信号無視をしてしまっていたり、誰かのことを誹謗中傷してしまっていたのだろうか……
 
緊張しながらも郵便物を開封した。そこに記載されていたのは「裁判員候補者名簿に登録されました」というお知らせであった。
 
2009年から、殺人や放火等の凶悪犯罪に限り、一般市民が裁判員として裁判に参加する「裁判員裁判」の制度が始まった。今回のお知らせは「来年1年間裁判員として裁判に参加してもらう可能性がありますよ」という通知であった。ひとまず、自身が何か被告となったわけではないようで安心した。
郵便物の中には裁判員とはどういうものか、流れ等が記載されていた資料が同封されていた。ニュースで裁判員裁判が始まったということは知っていたけど、まさか自分が関わることになるなんて思っていなかった。
この通知が来たからといって必ずしも裁判員として裁判に出るわけではない。あくまで「候補」になったにすぎず、大半の人はそのまま裁判員になることはなく1年間が終わるようだ。自分はせっかくなので裁判員やってみたいなあ、と思った。
ちなみに、裁判員候補となるのは完全にランダムで、選挙権がある人間であれば誰でもなる可能性がある。確率は管轄の地裁により異なるが、東京地裁ではおよそ250人に1人がなる可能性があるとのこと。これくらいの確率であれば街中にもそれなりにいる。裁判員候補になったことは他言禁止であるため、実は裁判員候補でしたと、知らない人も多い。終わったら公開するかどうかは自由なので、このようにコンテンツとしている。
 
翌年の夏、またしても東京地方裁判所から郵便物が届いた。はて、何をやらかしただろうか。ドキドキしながら郵便物を開封すると今度は「あなたが裁判員を担当する(かもしれない)事件が決まりました。選任手続きをするので裁判所に来てください」というものであった。
年末に裁判員候補になったことなどすっかり忘れていた。
実際に担当するかもしれない事件が決まったとなると大変な実感が湧いてくる。裁判のスケジュールも添付されていた。いくら凶悪事件とはいえ、裁判員裁判が関わる裁判は平均5日程度で終わるようだ。ところが、今回自分が担当する(かもしれない)事件は2ヶ月半にわたり30日も公判が必要な事件であった。別の19人が殺害された事件でも公判は16日であった。30日ってどれほどの大事件なのだ……
 
さて、この段階ではあくまで「裁判員候補」なわけで、正式に裁判員になると決まったわけではない。選任手続きの日に東京地方裁判所へ向かった。そこには裁判員候補が200人ほど集まっていた。この中から裁判員となるのは6人、その他裁判員の予備として補充裁判員が5人、合わせて11人が抽選で選出される。11/200の抽選になんとしても通りたかった。裁判員になるなんてお金を積んでもできない。結果、祈りは通じたのか11人の枠に入り、裁判員としてお勤めする権利を得たのである。
 
そして本物の裁判官と一緒に裁判に出て、被告の話を聞き、証人の話を聞き、証拠品を見て、弁護士と検事の話を聞き、結論としてこの被告は無罪なのか有罪なのか、有罪ならば量刑はどうか、を決めるのだ。裁判官と裁判員の間でどのような話し合いをして、どのように量刑を決めたかは公開できないのだが、結果的に懲役12年という決定をした。
30日の公判予定とのことだったが、予備日も含まれていたので、実際にはそこまでの日数はかからなかった。かなり昔の事件で、かつ海外で行われた事件のため、証人や証拠の関係で長期間必要なものであった。海外で行われた事件でも東京地裁で起訴されれば東京地裁で裁判が行われる。
 
凶悪事件であれば「あいつが犯人だ! すぐ捕まえろ! 極刑にしろ!」なんてすぐに言ってしまう。しかし、日本の司法や裁判の原則は「疑わしきは罰せず」である。「疑わしい」というレベルであれば有罪にはできない。疑わしいと事実とするため、間違いなく被告が犯人であると確信するため、非常に多くの人やプロセスが関わっているのだ。実際に裁判員として裁判に関わることがなければ気づくことはできなかった。
 
現実の世界でも同じである。現行犯であったり、カメラにバッチリ証拠が残っていない限り、疑わしき人を間違いなく犯人であると立証することは大変困難なことなのだ。「疑わしい」という事実だけで、他人の人生を左右することは、やはりとんでもない罪なのだ。「自分はあの人が悪いと思うから」というのは勝手ではあるが、それを証明するのは難しい。安易な気持ちで人を責めることなど、人間にはできないものなのである。
それからは、「客観的な事実」を求めることを意識して生きていくようになった。偏見や思い込みの事実だけで人のことを勝手に判断なんてできない。偏りがちであった考えを、フラットに考えることが大事だ、そして、人のことを判断することはとても困難なことだ、と、強く意識する経験となった。
 
ちなみに、東京地裁管轄では、実際に裁判員になる確率は約1/10,000とのことである。1/10,000の確率というのは宝くじのナンバーズ4で4桁の数字をすべて一致させることと同じ確率である。この場合当選金額は約100万円である。「100万円を払うなら裁判員させてあげるよ」と言われても100万円は払わない。しかし、「ナンバーズ4当たったけど、100万円と裁判員の権利、どっちがいい?」と言われたら迷う。もしかしたら裁判員を選ぶかもしれない。それほど自分にとっては学びが多く、考えさせられる充実した期間であった。
 
 
 
 
***
 
この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

お問い合わせ


■メールでのお問い合わせ:お問い合せフォーム

■各店舗へのお問い合わせ
*天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。


■天狼院書店「東京天狼院」

〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F
TEL:03-6914-3618/FAX:03-6914-0168
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
*定休日:木曜日(イベント時臨時営業)


■天狼院書店「福岡天狼院」

〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階
TEL:092-518-7435/FAX:092-518-4149
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00


■天狼院書店「京都天狼院」

〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5
TEL:075-708-3930/FAX:075-708-3931
営業時間:10:00〜22:00


■天狼院書店「Esola池袋店 STYLE for Biz」

〒171-0021 東京都豊島区西池袋1-12-1 Esola池袋2F
営業時間:10:30〜21:30
TEL:03-6914-0167/FAX:03-6914-0168


■天狼院書店「プレイアトレ土浦店」

〒300-0035 茨城県土浦市有明町1-30 プレイアトレ土浦2F
営業時間:9:00~22:00
TEL:029-897-3325



2024-01-31 | Posted in メディアグランプリ, 記事

関連記事