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がんになった人が花を生けた


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記事:そらいぬ(ライティング・ゼミ10月コース)
 
 
『がんになった人が花を生けた』というと、がんに罹患した人が、誰かの心に一輪の優しさの花を咲かせて逝ってしまった、という話と思うかもしれないが、そうではない。本物の生きた花を、花器に挿してきた。そしてそのがんになった人、つまり私は、ピンピンとしている。いや、ピンピンは言いすぎた。体力が著しく低下しているから、ピンくらいだろうか。
 
友人に「花育」といって、花を生けることで自分自身を見つめ直すという活動をしている人がいる。久しく会っていなかったが、私が乳がんになったと知って、花はセラピー効果が高いから受けに来ないかと誘ってくれた。
 
私は乳がんの手術と抗がん剤治療を経て、現在は自宅で毎日薬を飲むだけのホルモン療法に入っている。生活に困るような大きな副作用はないので、そろそろ、心配してくれた友人たちに会いに行きたいと思っている。思っているが、なかなか腰が上がらないでいる
 
抗がん剤の副作用で脱毛しているが、自分のことを知らない人たちに見られるのは、わりと平気だ。だけど、なぜか、知っている人には見られたくない気持ちが、潜在的にあるようだ。
先日オンラインで知人と話していて、画面に映った医療用の帽子をかぶっている自分の姿を見ているのが、たまらなく苦痛に感じられた。その時初めて、知っている人にこの姿を見られたくないと思っている自分に気がついた。
 
花育をやっている友人は、乳がん経験者だ。私の気持ちが分かると言ってくれている。彼女に会いに行くことができれば、心のストッパーが外れるかもしれない。そう思って出かけて行った。
 
「花育」は、数ある花の中から1本を選ぶことから始まった。
私が最初に選んだのは、マリモのような見た目をした、丸い緑の花のテマリソウだ。ちょっと個性的で、それでいて極端に主張しすぎないのが好き。そのテマリソウを、花器に挿し、次に、黄色のガーベラを2本選んだ。ガーベラは、真ん中の円の周りに花びらがたくさんついている、ポピュラーな花だ。はつらつと元気な感じがいい。本当はオレンジのガーベラが欲しかったけどなかったので、鈴蘭に似た、オレンジ色のサンダーソニアで補った。
もう1本、動きを出すのに選んだのは、腕をたくましくグッと突き上げているような、ユーカリの葉だ。最後に白いスプレー菊で間を埋め、ピンクのハートの装飾をして終えた。
 
「右半分が、今。左半分が、未来を表しているの」と友人。
なんと、私の作品はみごとに、右半分はカラフルで、左半分は白と緑だけ。
今私は、私を心配してくれるたくさんの人たちに囲まれて、明るく前向きな状態ということなのか。でも、未来は静かに穏やかに命尽きる?
いやいや、そんな感じはしない。ユーカリの葉がグイーンと力強く、登り龍のように立ち上がっているではないか。上を向いた濃い黄色のガーベラも、半分左にかかっているし、そう簡単に、命尽きそうには感じられない。
 
そこで、左半分の多くを占めているスプレー菊の花言葉を調べてみると、「真実」「高潔」「清らかな愛」と出てきた。そうか、私の愛はますます浄化されて、神の域に近づいていくということなのか。これはこれで、大変だ。
そんなとんでもない発想を、真ん中のマリモのようなテマリソウが笑う。「あなたって、個性的ね」。そう、個性的というのは、私にとって大事な要素だ。一見、花に見えないテマリソウが左側にあるということは、私はこれからますます個性を発揮していく、ということかもしれない。ワガママなおばあさんになってはいけないけれど、年を取るにつれて芸術的な個性を身につけていけば、楽しそうなおばあちゃんにはなれるかもしれない。
 
ついでに、左側でグイーンと腕を上げているユーカリの花言葉を調べてみると、「再生」「新生」「永遠の幸せ」とあった。
「再生」という言葉は、がん罹患者には、嬉しくない言葉だ。今、治療がひと段落しても、5年後10年後に再発することもある。こわい。だけどほら、ここには「永遠の幸せ」という言葉もある。つまりこの「再生」は、がんに罹患して辛いこともあるけれど、ここで再びあなたの人生は新しく生まれ変わり、永遠の幸せをつかみ取ることになりますよ、とも読める。
 
でも「永遠の幸せ」とは、何だろう。今、私は、私のことを心配してくれるたくさんの友人に囲まれていて、そういう意味では幸せだ。老後のお金の不安はあるものの、なんとかなるんじゃないかという、ふわっとした気持ちもある。なんとかなるんじゃないかと思えるのは、もう十分幸せということなのではないだろうか。
そして「永遠の幸せ」を考えるならば、私一人ではなくて、周りの人たちもみんな、幸せでなくてはならない。私だけの幸せ、というものは、あり得ない。
 
 
「じゃあ、最後に、好きなカードを選んでください」
友人がそう言って、私の前に彩り美しいたくさんのカードを広げた。私は迷うことなく、鳥の絵が描いてあるカードを手にとった。
カードには、「翼」と書いてあった。『互いに助け合えば、空を飛ぶことができます』。
周りの人たちと互いに助け合うことで、「永遠の幸せ」は訪れるようだ。他の友人たちにも、会いに行ってみようか。
 
 
 
 
***
 
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2024-02-14 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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