メディアグランプリ

●伝説のおばあちゃん


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:小栗 健吾(ライティング・ゼミ 10月コース)
 
 
少し前のことだ。出身高校の設立50周年式典に招待された。
「ええっ? まさか!」
かつてよく行った購買部を何気なくのぞくと、いつも見ていた素敵な笑顔があった。
 
卒業してから20数年。その当時でも、70歳くらいであったはずだ。
目を丸くしていると、こちらに気づいて笑顔をむけてくれた。
「あら? お久しぶりね! お元気にされていましたか?」
それは、こちらのセリフである。
「はい。Sさんこそ、お元気そうで何よりです。お会いできて嬉しいです。しかし、驚きました。失礼ながら、おいくつになられたのでしょうか?」
「あら、女性に年を聞くものではないわよ。でも92歳になりました」
「ええっ! いまも毎日購買部でパンを売っていらっしゃるんですか?」
「そんなに驚かなくても。毎日楽しいから続くのよ。この間、初めて遅刻しそうになっちゃったけどね」
「え? 遅刻したことはないんですか?」
「あら、私、44歳からこの仕事はじめて48年間無遅刻無欠勤なのが唯一の自慢なの」
 
いやもう、飛び上がらんばかりに驚いた。
50年の歴史の高校で、48年間購買部に立ち続けて、パンを売っているおばあちゃんは、なんと無遅刻無欠勤の92歳なのだ。
高校3年間、無遅刻無欠席の学生がいたら、凄いと思う。しかし、92歳で48年間無遅刻無欠勤といわれると、凄すぎて言葉もでない。
 
現役の高校生に話をきいても、「いつも笑顔でカワイイ!」「学校で嫌なことあったら話を聴いてもらいにいってパンと一緒に元気をもらう」「いつも温かく優しい声と笑顔で癒されています」とみんなに愛されている。
購買部の売り場の壁には、卒業生たちの感謝のメッセージや寄せ書きなどがいっぱいある。
一緒に働いている方にもお話を聞いたが、「この何十年もの間、愚痴や不満を聞いたことがないです。それと笑顔が消えたのも見たことがなければ、元気がなかったことも一度もないです。ちょっとだけ落ち込むのは、パンが売れ残ったときだけ。その時は、どうやったらもっと喜んでもらえるか、買ってもらえるかサンドイッチのラインナップを変えたり、工夫をかかしません。だから70代の若い自分たちが元気ないとか言っていられないです」とのことだった。
この調子で100歳まで頑張りたいと。心から応援したいと思った。
 
そして、先日 福島でずっとお会いしたかった方にようやくお会いできた。
社員を約150人かかえる素晴らしい会社の会長、御年100歳。
ひまわりのような元気なお方だった。とても100歳には見えない。
毎日10時から18時までご出勤されて、仕事を終えて帰っていく社員1人1人に「今日も助かったわ。ありがとう」と声掛けして退社を見送るのが日課だ。
 
会長にお会いした第一声はこうだった。
「今日はいい天気で本当によかった。毎朝いい天気になるよう祈っているの」
「毎朝ですか?」
「ええ、だって うちの子たちの中には、片目しか見えないのに、自転車で1時間もかけて通勤してくる社員もいるの。雨でも雪でも絶対くるから、心配で。熱があっても来ようとするのよ」
「え?」
そういえば、この会社は福島市内の中心部にありつつ、あの東日本大震災の翌日も全員が会社に出社したという稀有な会社である。しかも社員の多くは障がい者だ。
おそらく、そんな会社は他にないのではないか。
 
「社員の方は、会社が好きで仕方ないのですね。仲間と居場所があるんですね」
思わず感嘆すると、
「そう。一番大事なのは、孤立させないこと。仲間と居場所、それが大事なの。
それとね、幸せ、働き方についてね、大事にしている言葉はA先生に教えていただいたの。人の役にたつこと、感謝されること、必要とされること、愛されること。」
A先生に直筆で書いていただいた紙を大事にノートに貼っていらっしゃった。
100歳にもなっても、毎日10時から18時まで職場にいて、背筋伸ばして座り、社員に声をかけ、新聞切り抜いたり、気づきをメモされているお姿に頭が下がる。
「だって、まだまだだもの。一生勉強が大事よね」
ただ、だまって頷く以外にない。
「そうそう、この間ね、ちょっと悩みがあって、朝のTVの占いで『うお座のあなたは年上に相談しなさい』と言っていてね、探したけど年上がいなかったわ(笑)」と笑うお姿もチャーミングだ。
 
帰り際に握手をすると、驚くほど力強かった。お母さんの手だと思った。
「主人は、優しく神様のような素晴らしい人でした。亡くなってからも毎朝、ラブレターを書いているんですよ」と少女のように笑う会長は、いてくださるだけで元気をいただける仏さまのようなお方だった。
 
92歳、100歳で、このお姿とこの人としてのありかた。とても真似できないと思うが、近づきたいと思った。どうしたら、こんな人たちになれるのだろう。
戦時中のお話などは、聞いていてもこちらが苦しくなるほどの苦労をされている。
そんな苦しい経験も乗り越えたからの優しさなのだろうか。
共通しているのは、愚痴などは一切いわずに、笑顔と感謝にあふれていること。
それでいて、凛としたたたずまいがあること。
こういう方々が日本の宝だと思う。今、僕たちに必要なのはこういう先輩方に出会い、話を聞き、少しでも近づこうと努力をすることではないだろうか。
伝説というのは、すごいねと感嘆することでなく、文字通り伝えていかないと意味がないことだから。
 
 
 
 
***
 
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2024-02-14 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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