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手乗り文鳥は瞬間湯沸かし器である


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記事:カキウチ サチコ(ライティング・ゼミ2月コース)
 
 
初対面の人に「自宅で文鳥を飼っています」と話すと、必ずといっていいほど返ってくる質問がある。
 
「文鳥って、喋るの?」
 
鳥を飼ったことのない人の多くが、文鳥とインコを混同している。
 
「喋りません。でも、一緒に暮らしていると意思疎通はできますよ」
と、私は返事をする。
 
文鳥はスズメと同じフィンチ類である。インコやオウムと違って、喉や舌が声を発するようには発達していないため喋らない。「ピッピッ」と鳴き、オスは求愛のために歌をさえずる。
 
大きさは17センチ前後で体重は25グラムから30グラム程度。先祖はインドネシア出身で、江戸時代初期に日本にやってきた。日本で生産・繁殖が広がり、現在もペットとして愛されている。
 
文鳥が愛されるのには理由がある。まず、彼らは賢い。文鳥を飼ったことがない人には想像がつかないほどだ。
 
我が家の文鳥は、鳥かごから出してもらいたいときはブランコに乗ることで意思表示する。そわそわ待機する様子はとても可愛い。餌入れが空になると、いつもと違う鳴き声で知らせてくれる。部屋の間取りを覚えて室内を自在に飛ぶ。部屋の中で最も暖かい場所を知っていて、居眠り用の陣地にしている。名前を呼ぶと「ピッ!」と返事をする。親バカかもしれないが、非常に賢い。
 
そして、文鳥には社会性があり、実に感情豊かなのである。とりわけ「怒り」の感情をストレートに表現する。
 
気に入らないことがあると、ためらうことなく赤くて艶ピカのクチバシを使って攻撃し、キャルキャルと非難の声を上げる。まるで、瞬間湯沸かし器のようだ。
 
「餌を取り替えるときの手が邪魔」 「気分が乗らないのに『遊ぼう』としつこく誘われた」 「爪を切られた」 「目が合った」
 
文鳥が怒る理由は、実に些細なことばかりである。よくもまあ、何十倍も体格の違う人間に対して、それだけ強気になれるものだ。
 
飼い主としては、時に理不尽な怒りを向けられたと感じるが、文鳥にだって言い分がある。文鳥なりの理由があるから怒っているのだと、長く暮らせば暮らすほど伝わってくる。
 
怒りっぽい同居人が嫌になることはないのか?疑問に思うかもしれない。それが不思議と、まったく嫌にならないのである。
 
たしかに、怒りっぽいのが人間ならば、なるべく関わりたくないと感じるだろう。私はもともと穏やかな環境で暮らしたいタイプだ。
 
しかし、怒りっぽい文鳥に対してはむしろ、愛おしささえ感じる。
 
ちょっと考えてみてほしい。本来、鳥は警戒心が強く臆病ないきものである。大きな物音や振動、不審な状況を察するとすぐ逃げる。公園にいるハトが、少しの異変で一斉に飛び立つ様子を見た経験のある人は多いだろう。
 
手乗り文鳥はどうだろう。気を許している人間の元に自らの意思で飛んできて、何の迷いもなく手や肩に乗り、時には人間の手に包まれて眠るのである。こんなおとぎ話のような状況が、我が家の日常の一コマである。
 
おとぎ話と違うのは、文鳥の要求が非常に厳しいところだ。
 
「手の中でくつろいでいるのに、指の位置が気にくわない」 「まだ手の中で寝ていたいのに、鳥かごに戻そうとした」 「眠たいのに話しかけられた」
 
こんな理由で、今日もまた怒られた。文鳥が怒らない日はない。
 
文鳥の名誉のために補足すると、怒りの矛先を向けるのは飼い主にだけではない。文鳥同士でもよく小競り合いをしている。
 
たとえば、オスの文鳥は求愛行動の一環でさえずりの歌を歌う。自慢の歌を相手に聴かせた後、なぜか怒り出すタイプがいる。気の強いメスは勢いよく応戦する。キャルキャルという興奮した鳴き声が重なり、部屋中に響く。
 
ただ、お互いの怒りを表明するだけで、取っ組み合いのケンカにはならない。ときどき勢い余って相手をつついてしまうことはあるけれど、ご愛敬だ。文鳥にとって、「怒り」はただのコミュニケーションであり、相手を傷つける意図はまったくない。
 
生存確率を上げるため、未知のものには警戒心を示す。一方で、気を許したパートナーや一緒に暮らしている群れの仲間対しては、公平にストレートな感情をぶつけるのが文鳥という生き物だ。人間の他にも、インコなどの種類の違う小鳥、ときにはフィギュアさえも、群れの仲間だと認定してくれることがある。なんて懐が大きく、愛情深いヤツらなんだ。
 
自らの主張をはっきりと伝える。相手によって態度を変えない。怒った後はさっぱり忘れる。竹を割ったような性格は羨ましくもあり、尊敬の念さえ持つ。
 
個体によっては稀に、さほど怒りっぽくない性格の文鳥もいる。我が家で暮らしている3羽の文鳥のうち1羽は、文鳥に対しては怒りっぽいものの、飼い主に対しては温厚だ。さまざまな性格の人間がいるのと同様なので、驚くことではない。しかし、文鳥に怒られなければ怒られないで、逆に心配になってくるのが飼い主心。
 
「大丈夫?飼い主に遠慮してない?無理しないで」
 
私は子どもの頃からずっと文鳥と共に暮らしてきたため、文鳥に怒られる毎日がデフォルトなのだ。怒られ足りないと逆に、文鳥のメンタルや体調を心配してしまう。穏やかな性格の文鳥も、個性のひとつであることはわかっているのだけど。
 
そんな文鳥も、爪切りされるときはさすがに怒る。よかった、このコにも怒りの感情があったのだ。文鳥はこうでなくちゃ。
 
手の中でぷりぷり怒りながらも、飼い主を仲間だと認めてくれている小さな存在。義理堅く、愛情深く、情熱的に毎日を生きている。飼い主を信頼してくれてありがとう。
 
愛おしさのあまり、手の中の文鳥を見つめてぼーっと考えていたら、また怒られた。
 
「じろじろ見てないで、早く撫でろ!」
 
今日も文鳥の沸点は低い。
 
 
 
 
***
 
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2024-03-02 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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