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自分の長所を認めたい


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:水戸綾香(12月ライティング・ゼミ)
 
 
私には来年度で大学4年生になる弟がいる。毎日のように部活動に励み、空いた隙間時間で友人たちと遊び尽くしていた彼も、現在は卒業後の進路を探すべく、必死で就職活動をしている。
 
そんな弟に、私は先日エントリーシートの添削を頼まれた。
 
これまで私は自分の好きなことだけを好きなようにやり続け、弟の参考になるようなことは何一つもしてこなかった。なので「ここは人肌脱いで、姉らしいことをしてやろうではないか」と意気込み、快く依頼を引き受けた。
 
私は一人前には程遠いが、仮にも「文章」を仕事にしている。
社会人としてのプライドをかけて、弟の書いたエントリーシートと向き合った。
だが、私の意気込みは1行目の文章を前に崩れ落ちた。
 
「私の長所はポジティブなところです」
 
眩しい。めちゃくちゃキラキラしている。
 
「ポジティブ」から始まる弟の人生は、多くの仲間たちと楽しく過ごし、時には困難も乗り越えながら、充実した学生時代の経験がこれでもかと綴られている。
 
目が眩んでしまうほどの眩しい輝きに、つい先ほどまで元気にしていた私の闘志は、
いそいそと物陰に隠れてしまった。
 
「あんなに息巻いておいて情けない」「なんて無責任なやつなんだ」と思われる方が大勢いらっしゃると思う。でも仕方ないじゃん? めちゃくちゃキラキラしていて眩しかったんだもん。
 
でもさすがに「眩しすぎて直視できないので辞退します」とは言えない。彼の満ち溢れるエネルギーと未来への希望に圧倒され、何度か負けそうになりながらも、私は心に日傘を差してなんとか任務をやり遂げた。
 
添削といっても弟はしっかり自己分析をしていたようで、私がやったのはほんの少し日本語的な直しを加え、規定に収めるために文字数を少し削っただけだ。
大して役に立てず、申し訳ない。
 
そんなこんなで添削を終えた私は、自分の長所に「ポジティブ」を挙げられる弟のことが心底羨ましくなった。当然、昔から彼の明るく前向きな性格は一緒に暮らす中で知っている。他にも学生時代に頑張ったことや、将来の目標なども聞いたことはあるのだが、改めて文章にまとめられた彼の人生を読むと、ぼんやりと感じていた弟への憧れが明確になった。
 
というのも、私は弟とは正反対な性格でものすごく「ネガティブ」。起きた瞬間から朝が来たことに絶望し、1日の予定を確認しながら失敗する自分を思い浮かべ、憂鬱な気分のままのそのそと出かけていく。そして1日の終わりには「あの時の自分の行動は最悪だった」と今日の失敗を思い返し、「寝ている間に地球が滅びたら幸せかも」とくだらないことを考えながら寝落ちする。
 
一方で弟は朝から鼻歌を歌い、「今日は、A君と〇〇しに行くんだ! 」とスキップする勢いで家を飛び出していく。出先では友人たちと楽しむ様子が次々とSNSに投稿される。そして「ただいまー」と大きな声で帰宅したら、その日あった出来事を無邪気な笑顔で喋り倒し、体力ゲージがゼロになったところでベッドに倒れ込んでぐっすり眠る。
 
同じ24時間を与えられているはずなのに、同じ遺伝子から生まれてきたはずなのに、
なぜこんなにも私たちは違うのか。
 
私はこの心の叫びとも言えるこの疑問を、母に半分愚痴、半分本気で、聞いてみた。
すると思った通りの答えが返ってきた。
 
「あんたはね、なんでも物事をマイナスに捉えすぎなんだよ」
 
はいはい、わかってますよ。でも仕方ないじゃん? これが性分なんだから。
私は母のアドバイスを話半分で聞き流そうとするが、母は気にせず言葉を続ける。
 
「ネガティブなのは悪いことじゃない。息子(私の弟)はポジティブというよりも楽観的で、親としては心配なことの方が多い。でもあんたは心配事が起きないように先回りして、用意周到に準備するでしょ? その慎重さが役に立っていることだってある。それを褒める人だってきっといたはず。でもあんたはそれを自分で否定しているんだよ。必要以上のマイナス思考は相手の人に失礼だ」
 
「なんだって。ネガティブでいることが、失礼な態度になっているって? いやいや、まさか。謙虚な性格として好意的に取られることはあっても失礼になることなんてない!」
 
私は母の言葉に対して頭の中で異議を唱えたが、結局口に出して言うことはできなかった。
なぜなら、母の言葉に思い当たる節がいくつもあったからだ。
 
私はこれまでありがたいことに褒めてもらうことを何度も経験した。
テストで100点を取った時、大学に合格した時、電車で老人に席を譲った時。
 
社会人になって褒められることはあった。
「何事にも真面目で丁寧。それが君の良さだと思う」
 
入社してから部署異動もあったが、複数の先輩方からこんな言葉を掛けていただいた。
 
でもその度に「私を褒めることなんてそのくらいしかありませんよね」と落ち込む。だって期日を守ることも、あいさつを返すことも、ミスがないように確認するのも、社会人として当たり前のこと。褒めてもらうようなことではない。そう思って、先輩方の言葉を否定して、勝手に卑屈になる。
 
確かに突出した才能ではないし、目立つ特技というわけでもない。
でもそれを苦手とする人もいるかもしれない。
それなら「真面目で丁寧」を私の強みとして捉えても良いのかもしれない。
 
それが頭ではわかっていながら、私は相手の言葉をまっすぐに受け止められない。
なぜかと考え続けて私は一つの結論に辿り着いた。
 
私は失敗した時に周囲をガッカリさせるのが怖い。
そして一度ついた自信を失うのが恐ろしい。
でも長所がなければ傷つくことはない。
 
私と弟の決定的な違いは、「長所を自覚する覚悟があるかないか」だ。
 
私はものすごくプライドが高く、それを守るために必死なのかもしれない。
そのために周囲の人が向けてくれる褒め言葉という好意を無下にしていた。
 
「長所を自覚する」というのは、自分の長所に「責任を持つ」ことだ。
 
褒め言葉を受け止めて、正しく自信を持ち、自分の行動に責任を負う覚悟を持つ。
 
これを2024年の目標にしよう。
 
もうすぐ2月も終わるが、まだ間に合うかもしれない。
だってあと10カ月あるのだから。
 
 
 
 
***
 
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2024-02-28 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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