メディアグランプリ

怪奇現象をきっかけに知った、「本当に怖いこと」


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:K子(ライティング・ゼミ2月コース)
 
 
あなたが「怖い」と感じることは、何だろうか?
 
まだ肌寒いこの時期にはそぐわないかもしれないが、私が最近遭遇した怪奇現象と、それをきっかけに知った「本当に怖いこと」について書きたい。
 
 
我が家は1年前に、大阪に引っ越してきた。
住居に選んだマンションは、子供の学力レベルが高い地域で最寄り駅から徒歩30秒の好立地。
築年数の割に強気な値段設定なだけあって、住人達の生活レベルは高い。そしてマナーレベルも、高い。
エレベーターの中で出会う、まだ小学校低学年と思しき少年少女達でさえ「こんにちは」「何階ですか?」とにこやかに挨拶してくれるくらいだ。
 
2023年も残り数日となったある日、私は0歳の娘と共に買い物から帰宅した。
いつも通りマンションのエントランスを通り、建物中央にある2台のエレベーターの前まで来た。
出入りする人が少ない10時過ぎという中途半端な時間帯にも関わらず、中々開かない目の前の扉。
私は違和感を覚えて、ふと目線を上げた。
 
エレベーターの隣にはモニターが設置されている。
おそらく防犯上の理由で、エレベーターの中の様子を映した映像がそこで見られるようになっているのだ。
宅配業者でも乗っているのかな? と、何の気なしにモニターを見ると、そこに一人の青年が立っていた。
 
映像は、エレベーターの扉側から撮られている。
奥の壁に設置された鏡を、仁王立ちで眺める青年の後頭部が映し出されていた。
人形のように、微動だにしない。
 
ぼんやり眺めていると、突然異変が起こった。
モニターに映る青年が、両手を勢いよく天に向かって伸ばした。そして膝の曲げ伸ばしを、とんでもない速さで繰り返したのだ。
まるで何かに取り憑かれたようなその動きに、私の鼓動は一気に早くなった。
これは、ヤバいやつだ。
 
このマンションの住人は、マナーレベルが高い。
こんな変なことをする人はいないはずだ。
きっと何かに取り憑かれたに違いない。これは心霊現象? それとも、住人ではない変質者が侵入してきた?
危険を察知した私は、無意識に娘を抱っこする力を強めた。
 
そしてついにエレベーターが目的の階に到着し、青年が扉の方に振り返った。
青年の顔がモニターに映し出されたその瞬間、私の心臓は驚きのあまりコンマ数秒止まったと思う。
「!?」
声にならない音が、喉から飛び出した。
 
ん?
これはもしや?
 
私の顔が、みるみるうちにゆるんで、そして歪んだ。
モニターに映し出されたのは、我が夫だったのだ。
 
あいつ、一体何しとったん?
 
自宅の玄関に入るやいなや、自室でリモートワークを始めようとした夫に声をかけた。
「なあなあ、さっきエレベーターでめっちゃ怖いもん見てんけど」
最初は神妙な面持ちで聞いていた夫は、途中でそれが自分のことだと分かり、耳まで真っ赤になった。
不審な行動の理由を聞くと、運動不足解消のためにエレベーターの中で全力スクワットをしていたらしい。
 
「いやあ恥ずかしい。『お天道様は見ている』ってやつやなあ」
ご近所さんに見られたら恥ずかしいでしょ! と、私にこっぴどく叱られた夫はそう言って苦笑いした。
 
『お天道様は見ている』。誰も見ていないと思ってもどこかでお天道様のように遠くから見ている人はいるのだから、どんな時でも悪事をはたらくべきではないという言葉だ。
この言葉の意味をひしひしと感じた、2023年最後の怪奇(喜)現象だった。
 
 
 
私が「本当に怖いこと」に遭遇したのは、それから数日後のことだった。
 
2024年の元旦。
午後4時過ぎ。石川県能登地方を震源とする最大震度7の地震が日本を襲った。
 
大阪の実家で親族一同が集う楽しい時間を過ごした我が家は、帰り支度をしていた。
40インチのテレビが音をたてて揺れたと思えば、そのテレビの中の映像が急に緊迫感のあるものに変わった。
映ったのは、人気の少ない田舎町。古い家屋。そして、小刻みに揺れる暗い海。
 
「津波は大丈夫なんか?」
誰かがつぶやいた。
その場にいる大人全員の頭の中で、13年前の東日本大震災の記憶がフラッシュバックしていた。
 
しばらく頭がフリーズしていた私ははっとした。
そうだ、今日は、お正月だ。新潟出身のママ友は帰省していたのだろうか? 結婚式に来てくれた石川出身の夫の友人は?
急いで取り出したスマホでX(旧Twitter)のアプリを開き、うろおぼえの地名に半角スペースをあけて「地震」と打った。
そこには現地の様子が沢山投稿されていた。
家屋の被害状況。避難所の情報。そして、連絡のない家族の行方を捜す声。
その生々しさに心が痛くなり、それ以上検索することはできなかった。
 
その数日後に、とある記事を読んだ。
記事によると、Xでは能登半島地震に関して少なくとも100件を超すデマの投稿があったらしい。
嘘の住所で救助を要請する投稿をし、拡散を依頼するといったものだ。
最近Xに導入された、自身の投稿の表示回数に応じて報酬を得られる仕組みを悪用する狙いのようだった。
デマのせいで救助が混乱し、助からなかった命もあったかもしれない。
 
怪奇現象は、怖い。
地震も、怖い。
しかし本当に怖いのは、多くの人の命が脅かされる未曾有の災害時でさえ、利己的に行動できてしまう人間の心だ。
 
インターネットの匿名性のせいで、私達は『お天道様は見ている』ことを以前よりも意識しづらくなっているのかもしれない。
デマの投稿だけでない。面と向かってはとても口にできないような罵詈雑言も、匿名ゆえに書き込むことができてしまうのがインターネットだ。
そんな鋭い言葉たちが、誰かを傷つけ、命まで奪ってしまうこともある。
 
それでも私は、匿名の傘くらいでは『お天道様』から隠れることはできないと思う。
匿名の投稿でも、正式な手続きをすれば投稿者の住所や名前は特定できる。常人が知り得ない凄いスキルをもつホワイトハッカーと呼ばれる人達もいる。
恥ずかしさに赤面するくらいで済めばいいが、たった一度の過ちで今まで築いてきた社会的地位の全てを失うことだってある。
そして、自らの利己的な行いのせいで引き起こしてしまった他の誰かの不幸を、一生後悔して背負う人生ほど恐ろしいものはない。
 
インターネットが発達して、対面で人と会わずとも生きていける時代になった。それでも、『お天道様』は見ているのだ。
いついかなるときも、誰にも恥ずかしくない言動を取れる人であろうと、襟を正した年末年始の出来事だった。
 
 
 
 
***
 
この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

お問い合わせ


■メールでのお問い合わせ:お問い合せフォーム

■各店舗へのお問い合わせ
*天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。


■天狼院書店「東京天狼院」

〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F
TEL:03-6914-3618/FAX:03-6914-0168
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
*定休日:木曜日(イベント時臨時営業)


■天狼院書店「福岡天狼院」

〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階
TEL:092-518-7435/FAX:092-518-4149
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00


■天狼院書店「京都天狼院」

〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5
TEL:075-708-3930/FAX:075-708-3931
営業時間:10:00〜22:00


■天狼院書店「Esola池袋店 STYLE for Biz」

〒171-0021 東京都豊島区西池袋1-12-1 Esola池袋2F
営業時間:10:30〜21:30
TEL:03-6914-0167/FAX:03-6914-0168


■天狼院書店「プレイアトレ土浦店」

〒300-0035 茨城県土浦市有明町1-30 プレイアトレ土浦2F
営業時間:9:00~22:00
TEL:029-897-3325



2024-03-06 | Posted in メディアグランプリ, 記事

関連記事