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断乳が育児の思い込みに気づかせてくれた


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記事:豊田紘子(ライティング・ゼミ2月コース)
 
 
自分の子どもを産むことが、小さな頃からの夢だった。
そして、母乳育児をすることも夢だった。
あんなに小さくて、もはや人間ではないような小動物のような赤ちゃんが、自分の母乳でおなかを満たしてくれるなんて、もう……言葉で言い表せないほどの幸せなんだろうな、と思っていた。
 
しかし結局、娘は母乳では育てられなかった。
母乳が出るハーブティーも1日3回は飲んだ。1時間に1回は吸わせる練習もした。でも、うまくいかなかった。
里帰り出産から自宅に戻り、自宅近くにある母乳外来に駆け込んだが、そこで白旗をあげられてしまった。
涙が出るほど辛かった。でも同時に、これ以上吸わせる練習をしなくてもいいんだ……と思うと安堵する気持ちも芽生え、複雑な気持ちになったことを今でも覚えている。
 
ただ、当たり前だが、そんなことはどうでも良くなるほど、子どもはとてつもなく可愛い。
おいしそうにミルクをたっぷり飲み、昼はケラケラ笑いながら元気に遊び、夜になれば朝まで起きることなくぐっすり寝てくれた。とても育てやすい子だったと思う。
今は4歳になったが、成長曲線をはみ出すほど成長し、健康優良児そのものだ。
思いは叶わなかったが、何も後悔はなかった。
 
でも、それでも、やっぱり、一度でいいから母乳育児をしてみたい……。その思いは消えることはなかった。
娘の経験から「もっとこうしていたら、うまくいってたかもしれない」と思うことは多々あった。
子どもは最低でも2人以上は欲しいと思っていた私は、「あわよくば2人目こそは母乳育児を……!」と静かに燃えていた。
 
 
3年後、第2子を出産した。男の子だった。
「男の子はおっぱいへの執着がすごいよ」と聞いていたが、出産翌日、それを目の当たりにした。
娘はあれほど吸わせるのが大変だったのに、息子は、まだほとんど母乳など出ていないはずのおっぱいを、何十分と吸い続けたのだ。
「これは……いけるかもしれない! 母乳で育てられるかもしれない!」と興奮した私は、とにかく息子が吸いたいだけ吸わせた。息子の意のままに吸わせていたら、1時間ずっと吸い続けたこともあった。
 
息子と私の努力が実り、息子は母乳だけで育てることができた。
言葉を話すことができるようになると「パイパイ」と言い、授乳するときは毎回満面の笑みになる息子が、とても愛おしくて可愛かった。
無事に生まれてきて健康に育ってくれていること、そして夢のひとつだった母乳育児を経験させてくれた息子には、本当にありがとうという気持ちでいっぱいだ。
息子がもうおっぱいをいらなくなるその日まで、つまり自然とおっぱいを卒業する「卒乳」という形で終わりを迎えられたらいいな、と思っていた。
 
 
「1歳くらいで卒乳になるんだろうな」と思っていた。しかし、気づけば息子は1歳9ヶ月。全く卒乳する気配がない。
話に聞いていた通り、さすが男の子、おっぱいへの執着は凄まじかった。
ただ、我が家は来月海外移住を控えている。息子にとって授乳が心の安心材料になるのであれば、息子の気の済むまで続けよう、と考えていた。
 
しかし、そんな思いを覆すような出来事があった。
息子がなぜか突然、昼夜問わず泣き止まなくなってしまったのだ。
いつもなら大好きなおっぱいで落ち着く息子も、全く泣き止まない。夜中も突然「ぎゃあああ」と号泣し始め、それが何度も何度も続く状態に、私もすっかり参ってしまった。
 
我が家は一度、息子の泣き声で児童相談所に連絡が入ってしまったことがある。
この状態が続けばまた通報されてしまう……という恐怖心もあり、どうにもならないこの状態に私もパニックになり、涙が止まらなくなった。
 
そんな状態が続いて3日目の夜中、添い乳をしても息子が泣き止まない状態になったとき、「ああ、もう断乳しよう」と突然思い立った。
自然と卒業する「卒乳」ではなく、あえて意図的に授乳を断つ「断乳」を決めたのだ。
一般的には、子どもが不安定なときに、断乳は決行しないはずである。それでも私は、母としての直感なのか、息子にとって断乳した方が良い気がすると感じたのだ。
また、ちょうど私の母が数日上京してくれていることも、大きな決め手だった。夫が激務の状態で助けを求められない中、これだけおっぱいへの執着が強い息子に対して、1人では絶対に断乳は決行できない。
母が滞在してくれるこの4日間が、勝負だった。
 
断乳の決意を母と夫に伝えた。
精神的に参っている私を見兼ねたのか、驚くことに外泊を提案されたのだ。
「今日、どこかホテルに泊まっておいで。息子は俺たちがみるから。まずはママがいない状態にしないと、きっと断乳はできない」
ただでさえ移住前で激務な状態で、そんな余裕などないはずなのに、そこまで言って送り出してくれた夫と母の優しさに、涙が出てきた。
そして、母として息子の泣きに折れてしまったことに対して、息子にも申し訳なくなり涙が止まらなくなった。
でも、これで気持ちが固まった。絶対、断乳を成功させる!
 
私が家を出たその日、日中は夫がずっと息子を見てくれたようだった。
日中はずっとごきげんだったようだ。しかし、夜はまた泣き止まなくなってしまったようだった。
 
次の日の朝、自宅に戻ると、息子は夫の胸にうずくまるように寝ていた。おっぱいが恋しかったらしい。
私は自宅に戻る前に、おっぱいに息子の好きなキャラクターの絵を描いていた。
あれだけ執着の強い息子だ、きっと無意味かもしれない……。
でも、何がなんでも成功させたい。そのためにやれることは全部やろうと決めたのだ。
 
息子が「パイパイ」と求めてきた。いつものように服を捲る。
おっぱいを見た瞬間、「パンパン!」と大好きなキャラクターの名前を言い笑顔になった。
息子の笑顔が久々に見れたことに安心したのと同時に、驚いた。
いつも服を捲った瞬間におっぱいに吸いついてくる息子が、全く吸いつかなかったのだ。
パンパンと言いながら、おっぱいをなでたり、頬をくっつけてくるだけになった。
 
ただ、息子もストレスは溜まっているようだった。
「パイパイ」と言うたびに、胸に書いたキャラクターの絵を見せると笑顔にはなるものの、いつも飲んでいる母乳は飲めていない。
やはり、泣きはいつもよりも強いまま、そして日中はずっと抱っこしていないと泣いてしまう状態が続いた。私の心もまた、折れそうになる。
 
しかし、その日の夜。夜中に息子が泣くことはなくなった。
正確に言うと少し泣いたのだが、私の服の中に手を入れるだけで、安心したのか泣き止んだのだ。
そんな息子に驚いていたとき、息子が寝言で「パンパン……」と言った。
 
次の日から、息子は服を捲ることはなくなった。私の胸をタッチして「パンパン!」と言うだけになったのだ。
食べムラにも悩んでいたが、ごはんも3食たくさん食べるようになった。
一気に赤ちゃんから幼児に成長したような、そんな劇的な変化を目の当たりにして、また涙が止まらなくなった。
息子に断乳なんて……という思い込みがあった。
この日ほど、思い込むのはやめようと思い知らされたことはない。
 
たった1歳の息子が、この数日間、大好きなおっぱいから離れられ、自立の第一歩を踏み出した。
思い込みを捨てて、子どもたちの成長を見届けたいと思う。
 
 
 
 
***
 
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2024-03-06 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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