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人は人とめぐり会うことで、いくつになっても自分を変えていける

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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:ヤナイ リョウタ(ライティング・ゼミ2月コース)
 
 
高校2年の冬に「将来は日本史の教員になろう」と決めた。当時、「カリスマ予備校講師」なる肩書きで知られていたT先生の特別講義を受けることになった。一つ歳上の高3の兄が受講するので、そのついでに受講した。
 
正直に言って、当時の自分は「大人」という存在を信用していなかった。思春期で斜に構えていたせいもあったのか、自分の目には働く大人のすべてが疲れ切っているように見えた。楽しさや生きがいは二の次で、生活のため・お金のために本音を押し殺して働いている。夢や情熱のような何かとはかけ離れた大人たちを横目に、「何のために働くのか?」「大人ってやっぱり面白くないのか?」「若いうちに楽しさの絶頂期が来るなら、長生きする意味はあるのか?」などと、17歳なりに大人ぶって哲学していた。自分としては大真面目に悩みにふけっていたつもりだったけれど、結論はいつも「大人にはなりたくない」という子ども染みた現実逃避に終着した。
 
身近な「大人」である学校の先生方は、熱心に進路指導をして下さっていた(のだろう)。しかし「大人」になることに後ろ向きだった自分には、全くと言っていいほど響かなかった。熱心に語りかけられるほど、むしろ醒めていくこの気持ち。結果的に勉強そっちのけで、ラグビー部のグラウンドで遅くまで部活に明け暮れる日々を送ることになった。今思えば、部活に打ち込むことで将来と向き合うことから逃げていたのだろう。
 
そんなモヤモヤ期に、T先生が授業で話してくれたエピソードの1つを紹介したいと思う。
 
戦国武将で石田三成という人物がいる。天下人・豊臣秀吉の側近の一人だ。武将の中では数少ない頭脳派タイプで、戦働きは苦手だが食糧や軍費の勘定が得意なインテリ系。正直に言って、武士の仲間内ではあまり人望を集めるタイプではなかった。大河ドラマや小説では嫌われ者のイメージで描かれがちだ。
天下統一後、豊臣秀吉が亡くなった。「ポスト秀吉」を狙うは徳川家康。江戸250万石の大大名である。この家康に対して、武力で圧倒的に劣っていたはずの石田三成が決死の覚悟で挑んだ。「天下分け目」と呼ばれる関ケ原の戦いだ。石田三成の領国はである近江佐和山はたったの18万石。10倍以上の兵力格差があったわけだ。それにも関わらず、豊臣政権の存続をかけて三成は家康に挑んだのだ。
 
そんな三成には、一人の親友がいた。その男、大谷刑部(ぎょうぶ)。三成と同じく秀吉旗下の大名だ。戦上手の秀吉に「100万の兵があるならば、刑部にこそ任せてみたい」と言わしめた名軍師として知られる。関ヶ原の合戦前夜、大谷刑部は佐和山の城にいる石田三成のもとを訪れた。
「三成よ。 この度の戦は無謀以外の何物でもない。 勝ち目はないのだ。 家康殿に頭を下げよ」
「刑部よ。 秀吉様の御恩を忘れたのか。 たとえ勝ち目がなかろうが、俺は家康と戦う」
激論の末、物別れに終わった二人。佐和山城からの帰り道、刑部はかつて参加した茶会での出来事を思い出していた。
 
生前、豊臣秀吉が盛大な茶会を催し、みずからたてた茶をお気に入りの家臣たちに振る舞ったことがあった。大茶碗に熱々の茶をたっぷりと注ぎ、それを回し飲みするのである。大茶碗が刑部のところまでやってきた。茶を飲もうと刑部が口を近づけた時、その顔からカサブタが剥がれ落ち、「ポチャン」と音をたてて茶碗に入ってしまった。
実は、刑部は大病を患っていた。らい病である。現在ではハンセン病と呼ばれ、目や鼻などの顔の形状が崩れたり手足が変形したり外見に症状が現れる病気だ。伝染力はそれほど強くなく現在では完治する病気とされているが、当時は非常に伝染力の強い病気と考えられており、らい病患者は厳しく差別される存在だった。
周りにいた武将たちは、刑部のカサブタが茶碗に落ちたことに気づいた。そんな茶を飲めば、自分もらい病にかかってしまう……。茶碗に触れることさえ気がひけた武将もいただろう。しかし、秀吉がごきげんで開いた茶会だ。変なマネはできない。しょうがなく、口をつけたふりだけして茶椀を回していく。
刑部は絶望した。このままでは茶は残ったまま、秀吉のもとに返されてしまうだろう。となると、せっかくの茶会が台無しになってしまう。
刑部は腹を切ろうと決心した。多くの武将が見ている前でこのような恥をかいてしまった。責任をとるには腹を切るしかない。武士にとって恥とは則ち死、そんな時代だった。
 
死を覚悟した刑部を横目に、石田三成が大茶碗を受け取る。そして……
 
残った茶を、ぐっと一息で飲み干すのだった。
「秀吉様、結構なお点前でございました。 お代わりを所望いたします」
秀吉は、ごきげんで次の茶をたてるのであった。
 
三成は、刑部の心の内を見透かしていた。茶が秀吉のところまで回ってしまえば、刑部は責任をとって腹を切るだろう。刑部はそんな男だ。友の命を救うため、三成は茶を飲み干したのだ。
 
そんなことを思い出しながら、刑部は家臣たちに命じた。
「諸君。 これより佐和山城に引き返す。 この度の戦、我々は三成の味方として戦うのだ」
おそらく三成はこの戦で負ける。家康との戦力差は明らかだ。しかし、そうとは分かっていながら刑部は三成とともに、戦場で死ぬことを選んだ。かつて自分の命を救ってくれた、三成への義を貫くために。
 
授業の初めこの話を聞かされて、僕は不覚にも「大人」であるT先生の授業にやられてしまったのだ。
 
わが国では自己犠牲の精神が美化されがちだ。それは戦国時代も令和の現代も大して変わらない。(『鬼滅の刃』でも、仲間を守るために命を燃やした煉獄さんは屈指の人気キャラだ。)
アニメの世界での自己犠牲にはほれぼれするが、現実世界で義のために命を捨てようとは思わない。でも、だからと言って、石田三成と大谷刑部の死に様を「青臭いみじめな末路だなぁ」なんて分かった風にこき下ろそうとも思わない。
 
人間は弱くはかない存在だ。死ぬまでに生きた証として残せるものなんて、ほんのわずかだ。しかし、僕たちは歴史を学ぶことを通して、先人たちの生き様に触れ感動することができる。教科書ではたった一行、数文字でしか触れられていないような過去の人物でも、行間に隠されたその生き様をたどっていけば、現代を生きる僕らを感動させるような瞬間を発見できる。
 
それまで意欲も目標も何もなかった自分が「もっとたくさんの生き様に触れてみたい」と思うようになった。歴史を深掘りして、その感動を語り伝えることを仕事にできればどんなに楽しいだろうか。T先生のように人を感動させられるような「大人」になりたいと初めて思えた。
 
その後、紆余曲折を経て今は学校で日本史を教えている。高校2年の頃に訪れたT先生との予期せぬ出会いがなければ、今の私はここにいない。良い出会いは人を変える。人は人とめぐり会うことで、いくつになっても自分を変えていける。これを読んで下さった皆さん一人ひとりに良き出会いがあることを、心から願って止みません。
 
 
 
 
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2024-03-06 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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