メディアグランプリ

図工の授業で傷を負った小学生のその後


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記事:藤川美紀(ライティング・ゼミ2月コース)
 
 
私には絵心がない。
アンパンマンは描けるけれどドラえもんは描けない。動物はみんな左を向いているし、4本足で不自然に立っている。かと言って、テレビの中の芸人のように笑いが巻き起こるほど下手、というわけでもない。大人になると絵を描く機会はそうそうないけれど、描いてと言われるとドキッとする。そう、絵心がないことが私のちょっとしたコンプレックスだった。
 
ことのはじまりは、小学2年生のころ、図工の授業で起こった事件だった。その授業では、先生の説明した通りに、お花の形をした工作を作っていた。完成した人から黒板の前に座っている先生のところに並び、一人ずつ作品を見てもらう。私の番が来て、先生に見せたその瞬間。お花は私の手を離れ、先生がみんなに見えるように高く持ち上げた。そして、教室中の生徒に向かってこう言った。
 
「こんな風にはしないでくださいね」
 
それ以降、私は図工の時間が大嫌いになった。授業で絵を描くときは誰かに見られないかとビクビクしていたし、通知表の成績はいつも図工だけが悪かった。友だちと比べて絵が下手だと思うことも多かった。幼なじみが描くノートの落書きは、小学生から見てもセンスがあり憧れた。私の作品が書道で表彰されることはあったが、絵や工作が選ばれることは決してなかった。大人になってからどうしても人前で絵を描かないといけないときは、私には絵心がないから、と先制パンチを放ってすり抜けた。
 
そうやって30年近く生きてきたのだけれど、偶然SNSで見たイラストが私の人生を少しだけ変えた。それはある会社の社長が投稿していた、会社の理念やミッションを表すイラストだった。知り合いでもないし、会社のことも全く知らなかったけれど、そのイラストを見て「この会社いいなぁ」と思った。自分が小さな会社の役員をしていることもあり、たった1枚で会社の魅力を伝えてしまうそのイラストがやけに気になって、うちの会社もこういう形で発信できたらいいなぁとぼんやり考えていた。私には無理だから、そのときが来たら誰かに頼もう。イラストが得意な誰かに。
 
そのまま半年が過ぎ、ネットサーフィンをしていたところ、思いがけず例のイラストによく似た画像に出くわした。画像の横には、そのイラストを描くことを仕事にしている人が特集されていた。グラフィックレコーダー、通称グラレコ、と呼ばれる、会議やプレゼンの内容を絵や図形といったグラフィックを使ってまとめる手法だそうだ。調べてみると、日本ではここ数年で関連書籍が出版されるなどして急速に広まったらしい。私が以前感銘を受けたイラストもグラレコの一種だったのだ、とそのとき気づいた。少しだけ運命めいたものを感じながら、その人の記事を読み進めていくと、絵が苦手でもできますよ、というような内容が書かれていた。いつもの私なら他人事のようにスルーしていたはずなのに、気がつけばグラレコに関する本をポチっと購入していた。やってみたいという小さな声が、心の奥の方から微かに聞こえた気がした。
 
そこから届いた本を読み、初心者向けの講座に参加して、簡単なイラストが描けるようになった。いくつかのポイントを押さえると、座っている人、人前で話している人、悩んでいる人など、紙の上で私が描いた人物が動くようになった。絵が上達したような気がして、会議の内容をグラレコでまとめたものを会社の同僚にチャットで送ってみた。
 
「絵、上手いんですね」
 
今までの人生で受け取ったことがない褒め言葉に、むずがゆさを感じる自分がいた。グラレコに絵のうまさはあまり関係ないとされている。話の内容を構造化して、図やイラストを使うことで、よりわかりやすくするのが目的だからだ。そんなことはわかっている。わかっているけれど、絵が上手いと言われたことがシンプルに嬉しいのだから仕方がない。嬉しさをごまかすように、「わーい」と手をあげてくるくる回る絵文字を返信した。
 
ふと、小学生の私が脳裏に浮かんだ。あの頃は先生に褒められることはあっても怒られることなんてない優等生だった。完璧な優等生でいたかったのに、なんなら褒められる気で先生のところにいったのに、みんなの前で辱めを受けた。あの一件で、私は深く傷ついたのだ。私は図工が苦手。苦手だからうまくできなくて当然。そう思い込んで、これまで一生懸命自分を守ってきたんだと思う。
 
あれから30年。絵が得意、とはまだまだ言えないけれど、絵を描くのが好き、ぐらいは言えるようになった。やってみたいという思いが、ずっと私を守ってくれていた年季の入った鎧を壊してくれたんだと思う。今では会議中にイラストを使って議事録を書くこともあるし、日記に絵を描いてみることだってある。最近では息子とお絵かきをすることも増えた。飛行機をリクエストされて描いてみせると、「これなぁに? きょうりゅう?」と手厳しいコメントをもらうこともあるけれど、苦笑いしながら手直しできる。大丈夫、もう傷つかない。あのときの傷は完全に癒えて、ないと思い込んでいた絵心を再び手に入れたのだ。
 
 
 
 
***
 
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2024-03-06 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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