メディアグランプリ

「本屋はヒモ男? 愛があれば大丈夫」


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:小岩朋紀(ライティング・ゼミ2月コース)
 
 
「いつも当店をご愛顧頂きありがとうございます。誠に勝手ながら今月末をもって当店は閉店することになりました」という貼り紙を急に見かけたり、いつの間にか別のテナントに入れ替わっていたりと、気づけば街の書店がなくなっていく。書店が1軒もないという地域が国内で26%もあるそうで、気軽に新刊を手に取る機会がないその地域の文化が心配になる。減少している理由はスマートフォンで気軽に読める電子書籍の普及や不景気による経営難が影響しているようだ。
 
「本って人の内面を表すものだから」アルバイトの面接で採用が決まったときに店長に言われた言葉。そこは都心から電車で30分ほどのベッドタウンにあるデパート内の書店。60坪ほどの店内の本棚に貼られたアルバイト募集のチラシを見て、私は面接を受けていた。
 
飲食店やコンビニでアルバイトをしている友人の時給と比べると、本屋の時給は安かった。これは地域によるものではなく、数ある業種の中で本屋の時給は安い。それは書籍の利益率が他の小売業と比べても低く、アルバイトの時給が安いのはおそらく今も変わらないと思う。面接でも「時給はきちんと見た?」と確認されたぐらいだ。でも私は書店以外でのアルバイトは選択肢になかった。
 
子どもの頃から本が好きだった。学習まんがのひみつシリーズ、青い鳥文庫、ズッコケシリーズなどなど、今でもこれらシリーズが棚に並んでおり、時代を超えて子どもたちに愛読されていることに勝手に仲間が増えたような感覚を覚える。本だらけの好きな空間に正当に長く居れるアルバイトになることは夢でもあった。
 
面接で店長に言われた言葉は、お客様から探されている本の書名をお聞きした時の対応の心得である。探している本というのは、その時のお客様の心の内、欲求が現れている、いわばプライベートなものであるため、書名をお聞きした時も復唱などはせず、静かに探し出し、そっと「こちらです」と指し示して、その場を素早く立ち去るようにと。決して大声で「お客様、〇〇〇はこちらにありましたー」というご案内をしてはいけない。確かに書店で大声を出している店員は見かけたことはないが、プライベートであるという意識を持っていなかったので、店長から言われた時は意外に思った。
読書=カッコいいことであり、どちらかと言うと、見てほしい、聞いてほしいものではと考えていた能天気な大学生であった。
 
店長の教えに則って、お客様に尋ねられた時はそっと対応をモットーに店内を巡回していたある日、若い男性から雑誌の切り抜きを示され「この本ありますか?」と問い合わせを受けた。正確な書名は覚えていないが、書かれていた内容は、必勝ナンパ術、絶対に落とせる! というようなハウツー本の類だったことを記憶している。まず男性に「お待ちください」と言い残すと、ナンパのジャンルって何だろう? と迷い、コミュニケーションかな……などと心当たりのある棚をくまなく探したが見つからず、そのまま忍者のように店長の元に駆け寄り、その切り抜きをそっと見せたところ、ひとこと「お取り寄せ」と言われ、在庫はないということが分かった。
なぜか、この状況をよく覚えているのだが、改めて考えてみると、本に頼ってナンパを成功させようとしている男性を応援したいと思ったのかもしれない。
 
別の日には開店早々に少年野球のコーチが飛び込んできて「図書券500円を30セット、試合に間に合うよう20分以内に包装して」というオーダーが。なんでも当日に強豪チームとの試合があり、レギュラーも補欠も全員に対して、勝っても負けてもご褒美にあげたいということだ。そんなコーチの想いを聞きながらも、包装する手を止めずに素早く30セットを手渡した。その時も試合後に、坊主頭の少年たちが図書券を片手に好きなコミックを買いに書店を訪れる姿を想像していたと思う。
 
大げさかもしれないが、人が本屋に訪れるモチベーションの根本は「よくなりたい」「幸せになりたい」ということではないのか? それをアシストしているという意識を書店員は特に強く持っているのではないか? これは当時の店長や同僚の働きぶりを思い出しても感じる。
 
書店員はかなりのハードワークである。まず、本は重くてかさばる。これが毎朝、新刊及び注文した書籍、数々の雑誌が台車いっぱいに入荷するので、それらを店内の限られた書棚や台に効率的に陳列し、お客様への対応もしながら合間にPOPも書き、在庫をチェックし、注文もする。私が働いていた店舗ではアルバイトにも「万引き対策レポート」の提出を求められ、店舗運営を自分事化するようになった気がする。
 
激務なのに、時給も安いのに書店の魅力やポテンシャルを信じて「私がこの店を支えてあげたい」と働く書店員たちと書店の関係性って、女性がヒモ男性を養っている心理に似ていないだろうか。
最近、経済産業省が地域の書店振興にプロジェクトチームを立ち上げたというニュースを見たが、愛する書店こと、ヒモ男を守りたいと日夜店舗で奮闘する店員たちの声に耳を傾けることはプロジェクト成功のカギになるのではないか。
 
 
 
 
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2024-03-13 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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