メディアグランプリ

効率の行き過ぎを無駄が救う


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記事:深尾暁子(ライティング・ゼミ12月コース)
 
 
効率の良さというものが手放しで賞賛されていることに、ずーっともやもやしてきた。もやもやしつつも、今はそういうことが大切なんだな、効率が良ければいいことありそうだもんねと寛大な気持ちで、「コスパ」という言葉も受け入れてきた(自分では敢えて使わないけれど)。それが、先日「タイパ」という言葉を聞いた時に、私の許容範囲を超えた気がした。いくらなんでも、効率偏重が過ぎる。
 
コストパフォーマンス、タイムパフォーマンスはどちらもパフォーマンス、つまり望む成果とそれを得るのにかかる費用や時間の関係性を表す言葉だ。その背景には、コストも時間も最小限に抑えることが是であるという考え方がある。
 
リモートワークやオンライン会議をすれば移動の時間が要らない。タスク管理のためのツールを使えば、報告の手間が省ける。キーボードのショートカットを使うとマウスを使うよりも1年間で8日分時間を節約できるらしい。栄養バランスの取れた冷凍食品を定期購入するとか、効率よく勉強して遊ぶ時間を確保するとか、効率よく痩せたいならこの運動を夜寝る前にするとか、効率に注目するよう促すメッセージに、大人から子供までが絶えず晒されている。1日24時間しかないのだから、無駄をできるだけ排除し、やらなければいけないこととやりたいことをいかに上手に配置するかが、多くの人の関心事になっていることが良くわかる。
 
この考え方が悪いとか要らないというつもりは全くない。効率良く仕事を終えられた日の清々しい達成感を味わうのは、好きだ。ただ、To do リストのタスクに優先順位をつけてサクサク仕事をしていると、ふと自分が機械に近くなった感じになる時があって、私のもやもやはどうもその感じと繋がっているらしい。
 
例えば、リズムに乗っている時に「ちょっといい?」と同僚が話しかけてくるのは、効率の観点からは邪魔な障害だ。よって、「今は無理」と、障害を取り除いてしまうのが最適解なのだろう。「同僚との雑談」をTo do リストに加えるなら、いつ話すかを同僚と交渉すればよい。でも、これを繰り返していると、そのうち同僚が話しかけてこなくなる気がする。それって職場全体の「働きやすさ」にとってはマイナスなのでは。
 
そもそもこれだけ多くの人が効率の大切さと効率性を高める方法について語るのはなぜか。それは、人間と効率とは本来それほど相性がよくないからなのではないだろうか。自然でない効率性というものを自分達の生活に取り入れるためには、色々考える必要があるからではないか。そう思って調べてみたら、効率性を重視しすぎるとそのことがストレスとなり、かえって生産性が下がる可能性を指摘した研究が見つかった。
 
研究に頼るまでもなく、子供を見たらわかる。宿題を終わらせてから遊ぶ方が効率がいいのは明らかだが、子供にはその時に「どうしてもやらなくてはいけない」ことがあるのが常だ。結局寝る時間になってから、「だから早くやりなさいって言ったでしょ!」と親のお小言を聞く羽目になる。しかも、このやりとりは無限ループで繰り返されることが多い。親だって、良い習慣を教える役割上言わざるを得ないだけで、心の中ではまあ仕方ないよなあと受け入れている。そうであって欲しい。だって、親だって大差ないのだ。私は知っている。難しい仕事になると、なぜかそれまでほったらかしにしていた書類の整理を始める大人が、山ほどいることを。
 
頭を使わない一見無駄に見える作業をしている時の我々の脳は、なんと創造的なアイディアを思いつく時と同じ状態にあるらしい。眠りに入る前やお風呂に浸かっている時、電車に揺られている時や散歩の途中に、良いアイディアを思いつく経験をした人は少なくないのではないか。これは、脳がリラックスしているため、頭の中ではとりとめのない情報が自由に結びつくことができるからだそうだ。意識を集中させるよりも、ぼーっとしている時に人間の持つ創造性という本領が発揮されるなんて、実に興味深い。
 
リモートワークが生産性を高めるという報告は既に多くあるが、その原因が移動という無駄の排除とは限らない。リモートワーク中に庭仕事や洗濯などの家事や、シャワーや美容ルーティンをしているという調査結果から、家という環境がその理由とも考えられる。体や心をリラックスした状態にしやすい家で仕事をすることで、効率偏重を抑制することが可能となり、結果として生産性が上がると推測できないだろうか。
 
もしも人間に無駄(に見えることが)が必要なら、効率のみを重視して必要なものを無駄と切り捨てるのは、間違った努力だとも言えるのだ。行き過ぎた効率偏重によるもやもやを溜めないためにも、私たちには無駄を運んでくれるおしゃべり好きな同僚と散らかった書類が必要なのだと思う。
 
 
 
 
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2024-03-20 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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