メディアグランプリ

美しいものは恥ずかしいこと


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:尾崎コスモス(ライティング・ゼミ2月コース)
 
 
年々、泣くことが多くなってきた。
成人を迎えた大人が、涙を流すところを見られるなんて、恥ずかしくて情けない。何よりカッコ悪い。
 
昔から涙もろかった私は、高校生のとき、好きな子とのファーストデートで映画を観に行って、泣きそうになる場面があるときは焦ったことが度々あった。
最初のデートで泣くなんて、カッコ悪すぎる。
しかし、ファーストデートの行先として選ぶのは、映画館が多かった。
 
10代のときから今に至るまで、カッコ悪いと思っているのは変わらない。
しかし最近は、本を読んで泣くということが増えてきた。
普段の生活では泣くことが無いのに、本を読むと泣いてしまう。
そのため本を読む場所が問題で、公の場では、みっともない姿を人前にさらしてしまうため、特に注意が必要になる。
 
先日、カフェで読書しているとき、本の世界に没頭してしまって、泣いてしまったことがある。幸いにも、柄付きのガーゼマスクをしていたため、涙が頬をつたう事態は避けられた。それでも泣いていることは傍目にも明らかだったらしく、座っていたカウンターの斜め向かいの女子に、驚いた顔で凝視されていたことに気づいた。
 
比較的若く見える私ではあるが、大人の男がカフェで本を読みながら泣いている光景は、異様であったろうと思う。確かに居合わせたら、見てしまうだろう。
しかし、急いで涙を拭いては、それこそ焦っているようで、カッコ悪い。
それとなく、花粉症のせいで泣いているように見せようと、取り繕っていた。
 
向かいの女子は、推定30代だろうと見て取れた。たぶんOLらしく、スーツに身を包み、ネイルはきれいに整えられていて、シンプルな透明。髪はサラサラなセミロングで、化粧もナチュラルな、特別な美人ではないが清潔感のある、どこかかわいらしい雰囲気の女性だった。
 
私の涙が、よほど気になったのであろう様子の女性は、大きな目で、私のことをチラチラと見ていた。気になりすぎてしまったのか、私の方を何回か見た次の一瞬、アイスコーヒーのグラスを取ろうとした彼女は、手がグラスに当たり、倒してしまった。アイスコーヒーがカウンターの上を這うように広がっていく。
広がり続ける黒い液体を見た彼女は焦ってしまい、大きな目をより大きく見開き、店中に聞こえるような大きな声で「すみません!」と言ったところで注目の的となった。
 
私の顔を興味津々で見ていた彼女が、人々から興味津々に見られていることがおかしくて笑ってしまった私の顔を、パッと見た瞬間、彼女の顔は真っ赤染まり、恥ずかしそうに足早に店を出ていった。
彼女の後姿を見て、私は笑ってしまったことを申し訳ない気持ちになっていた。
 
帰宅した私は妻にこの話をした。
「女も、少女から女性になって、泣かなくなるのよね。女の涙は卑怯とか言われるから、泣かないように気を付けている人が多い気がする」
だから、コーヒーをこぼしてしまうくらい、見てしまったのだろうという妻の見解に妙に納得した。
 
大人が、公の場で泣くと、注目を浴びる。
泣いてもいいが、泣かないように気を付けているのが実情で、それにも関わらず、年齢を重ねると涙もろくなる。
泣くときには、何かのスイッチが入ったかのように、急に涙があふれてくる。スイッチは『言葉』だったり『音楽』だったりと様々だが、経験を思い出すことによって、タイムスリップするように昔に戻ってしまう。
こうした経験は、年齢を重ねるたびに、増えてくるし、止められない。
 
「物語に感動して“泣ける”ことは素敵なことよ」
と妻に言われたこともあったが、やはりカッコ悪い。
自分だけかもしれないが、大人である以上、人前で涙を流すことが、恥ずかしい事だと思っているのは、今も昔も変わらないな、と思った。
 
しかし、この考えを一変する出来事に出会う。
 
次の休みの日に、一人で映画館に行った。
評判の泣ける映画だ。全米が泣いているらしい。
人前では泣きたくないのに、映画館という場所では平気だった。おそらくそれは、映画館が暗く、泣いていてもバレないからだろうと思う。
結局私は、泣くという行為を、定期的にしたいのかもしれない。
映画が終了し、エンドロールが流れていた。
うっすらと人の顔が見える。
そうか、ずっと暗いから、暗さに慣れて、真っ暗でも少し見えるようになっているのだ。
 
泣いていることがバレていないかと、ふと、隣に座っている女性を見た。
隣といっても、厳密には隣と、その隣は空席だったため、3つ隣の席だ。
彼女は、化粧がグチャグチャにくずれるほどに泣いていた。人目もはばからず、私が見ている事にも気づいていない様子だ。
しかし、スクリーンを一点に見つめ、涙も拭かずに泣いている。
その姿を見たとき私は、思わず「美しい」と小さく口にした。
美しい物語を見て、美しい涙を流している彼女は、誰よりも美しかった。
 
注目を浴びることが恥ずかしいのであって、泣くこと自体は恥ずかしいことではないのだと、その時初めて思うことができたのだった。
 
私はこれからも、美しい涙を流して、泣き続けようと思う。
これは、素敵なことだと、気づいた。
 
 
 
 
***
 
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2024-03-20 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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