メディアグランプリ

こちらオラオラ系主婦、本日大事なクライアントをお迎えしております


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:パナ子(ライティング実践教室)
 
 
「今日お父さん帰ってくるの? イエーイ!!」
8才がテーブルの周りで小躍りしている。ズボラ母が珍しくあれやこれやとおかずを並べているのを見て気づいたのだろう。今夜は、万年激務男の異名をとる夫が、久しぶりに夕飯の時間に帰宅する。
 
ほどなくして帰宅した夫を、兄弟が熱烈に歓迎している。まるで成田空港に降り立ったハリウッド俳優みたいだ。その光景にほっこりしながらも私はみそ汁を温め直す。今日は楽しく賑やかな夕食になりそうだ。
 
食事を開始して約5分。
おい、嘘だろ……。
さっきまでのルンルンした気持ちはいずこへ、煌々と輝くダイニングテーブルの上には暗雲が垂れ込め始めていた。
8才が夫に向かってここ一週間ほどで起きた出来事についておしゃべりしているのだが、夫の様子がどうもおかしい。
 
「で、どうなったと思う?」
「そういうの、何ていうか知ってる?」
「そこに、何があったと思う?」
 
クイズ・ドレミファドン! より短いスパンでクイズを繰り出しながら嬉々として喋る8才とは対照的に、夫は表情を失い、頭部は下に落ち込んでいる。絵に描いたような塩対応だった。
 
みるみるうちに頭に血が上る。
(久しぶりに帰宅したと思ったら、何だその態度は! ぶっ飛ばすぞ!!)
テーブルの下で握りつぶした拳がブルブルと小さく震えている。
 
どう殴り掛かろうか思案していると、ボワッと煙を従えて仙人が登場した。
「また、お前の悪い癖じゃ。思ったまま勢い任せに口に出してよかった試しがあるか? だいたいお前の言葉はちとキツイからのう。よく考えて行動することじゃ」
 
ハッ! そうだった!!
私は自他共に認めるオラオラ系。生年月日から性格をあぶりだす四柱推命の占い師にもハッキリと言われた事があるのだ。
「えっと……あなたって、ちょっとオラオラの気質が強いのね」
 
私が思うままに口を開けば、子供の楽しい時間さえ奪うことになりかねない。暴れ馬のような心を「どうどう」となだめる。夫の代わりに、いつもより100ワット明るい声色で8才のクイズに答えたりしながらなんとか無事に夕飯を終えた。
 
翌日。
みんながそれぞれ仕事や学校に出向き一人になった瞬間、どうしても考えてしまうのは昨夜の出来事である。
 
(やっぱり、許せねぇ。)
 
睡眠で元気が復活すると共に、私のオラオラがまた勢いづいてきていた。
8才はいつも会えない父に聞いてもらいたい事が山ほどあったのだ。それをあんな塩対応で済ますなんて一体全体どういうつもりだ。これからあんな事がまたあっては困る。ここはひとつビシッとかましてやるぞ。
 
私の中のオラオラを全て集結させて、夫にLINEのメッセージを送ろうとしたその時、今度は007から指令が入った。
「あくまで家族平和を守るための行動を。君の言い方次第では夫婦仲に亀裂が入ることがあっても、当局は一切関知しないからそのつもりで」
 
そうだよなぁ。
ただ思うままにぶちかまして気持ちよくなったところで、事の解決からは遠ざかる可能性もある。いま重要なことは、もう少し8才に寄り添った言動をリクエストすると同時に夫が憎くて言っているわけではないという事を伝えることだ。
私はただ穏やかな家族団らんの時間が欲しいだけなのだ。
 
ふう。息を吐きだして心を整える。
ここはひとつ、私が地球平和……いや、家族平和のために一肌脱ごうじゃないか!
敵視するのは一旦中断し、夫を世界一大事なクライアントとして丁重に扱うことに決めた。
 
まず手始めにクライアントに朝のご挨拶をする。
「おはよう。朝早くからお仕事お疲れ様です」ご丁寧にニッコリマークもつけて差し上げた。
 
さて、ここからが本題だ。
塩対応に対してモノ申したいわけなのだが、一気にそこを攻撃すると相手の痛いところを突きすぎるかもしれない。
 
結婚式場の担当者などは、高い金額を請求するだけあってその辺りの言い方はプロだ。仮にこちらの落ち度であったとして、そうは思わせない何かがある。
「申し訳ございません、手前どもの勘違いでしたら大変失礼なのですが……」
 
よし、私も平身低頭でいこう。
「昨夜、ちょっと気になったことがあるんだけど」
「もし、全然そういうつもりじゃなかったらごめん、なんだけど」
「そんな気なかったら本当ごめんだけど」
 
LINEメッセージにしつこいくらいふわふわのクッション言葉を入れつつ、8才が一生懸命話しかけているときの反応が薄かったことや、顔を見ずに下を向いていたことを指摘した。
 
送信―。
万年激務男のことだ。このメッセージも何時間後に見てくれるのか、定かではない。
 
メッセージを送った画面を握りしめたまま、クライアントはどう出るのかと考えていたらシュッと反応があった。珍しくすぐに既読がつく。
 
おぉ! もう読んだのか! 読んでどう思ったんだ!? 言ってみろ!
はやる気持ちを抑えながら待っていると返信が来た。
 
「はい、ごめんなさい! あとで、ちょっと悪かったなぁと思った」
よかったー!! 伝わってるー!!!!!
 
真っ白な紙に「勝訴」と書かれた例のアレを両手で持って、今すぐ玄関から走り出したい衝動に駆られた。完全勝利だった。いや別に勝負でないことは重々承知だが、それでもお互いケンカ腰でなく、夫から素直な謝罪の気持ちを引き出せたことは私にとって大きな意味があった。
 
その後のやり取りにより塩対応の原因は、夫なりの危惧から来ていたということがわかった。
 
あまりにクイズ形式を多用する8才の話がまどろっこしく感じてしまった夫は、友人関係では悪い風に思われないかと心配になったらしい。あれこれ考え込むうちに、気づけば無言だったと。
 
真面目かよ!!!!!
盛大にツッコミたい気持ちを抑え、こう返した。
「うん、気持ちはわかるけどね」
小2男子の話す内容なんて大人が考える以上にまだまだ支離滅裂で、でもそこが可愛くて面白くていいんじゃないか。
まずはありのままの「8才」を受け入れていこうと提案すると、夫もすんなりわかってくれた。
 
大仕事を終えた私は、湯を沸かし熱々のコーヒーを淹れた。
家族という一番近い存在だからこそ、伝えたい思いは、より丁寧に言葉を紡ぐことを意識していたい。必要に応じてオラオラは封印し、家族をクライアント扱いする手法を交えながら家庭平和を守るとしよう。
啜ったコーヒーはいつも以上に香り高く奥深い味がした。
 
 
 
 
***
 
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2024-03-20 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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