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結婚詐欺? それとも愛?


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記事:京 みやこ(ライティング・ゼミ12月コース)
 
 
恵美ちゃんは私の友人だ。少し障がいがある。
子供の時に、なんか病気になって(はっきり私は知らないが)体に障がいが残ったそう。
私たちが知り合ったのは、短大の時だった。彼女は普通に歩けるが、走ることはできなかった。そして、物を持つときに少し体が緊張するような仕草をしたが、それ以外の障がいはなく(というか私には感じられず)、彼女が障がい者であることを忘れていつも一緒に遊んだ。
彼女は一人っ子だった。そして彼女の両親は彼女が結婚するのは無理だろうと考え(手に職をつけるため)お琴を子供の時から習わせていた。
短大を卒業した後、彼女は事務職に就きながら、お琴の師範を取得し、お琴の先生もしていた。
私はその後結婚し、隣の県に移り住んだが、彼女のご両親が心配した通り、彼女に結婚の話はなかった。
 
そして私が50歳になった時、離婚をし、また京都に帰ってきて、彼女との交流が再開した。
彼女は、ご両親が亡くなり、そしてまだ独身だったので、二人とも誰にも束縛されることなく、以前のように一緒に食事に行ったり、お茶を飲んだりしながら長時間話をした。
 
それから数年たち、彼女に異変が生じた。徐々に体が動かなくなり始め、ある日全く立てなくなってしまったのだ。医者は、長年の悪い姿勢が頚椎に影響を及ぼし、神経を圧迫して下半身が動かなくなったと言った。頚椎の手術をすれば、治る可能性はあるとのことだった。
そして彼女は手術を受け、その手術は成功した。
 
手術後、リハビリをしている彼女の病院にお見舞いに行くと、知らない男性が彼女の車椅子を押している。病院の人か、それともヘルパーさんか、と初めは思いそれ以上気にしなかったのだが……
 
しかし、それから、お見舞いに行くたびにその男性がいることに気づき、不安がよぎった。
 
彼女の両親が残してくれた家は、京都の街中にあり敷地はかなり広かった。もちろん障がいを持つ一人娘のことを心配して遺産もたくさん残しているだろうし、彼女も事務員として働き、またお琴の師範としての収入もあったから、老後の心配がないのは誰の目にも明らかだった。
金目当てで男が近づいたのかも知れない、と感じた。彼女はすでに55歳。
 
二人だけになった時に聞いた。
「恵美ちゃん、いつも一緒にいるあの人誰?」
「……」
初めは言いにくそうにしていたのだが、少しずつ話をし始めた。
「この間、高校の同窓会があって、久しぶりに会ったんや。その時に手術する話になって。そしたら、その後、病院に何度も来てくれて……」
「最近は毎日来てくれはるねん」
「それで、私のこと好きやて……」
絶対怪しい! 高校の同級生なら、彼女の家が資産家ということも知っているだろう。
「あの人、お仕事何したはるん? もう我々55歳やけど、まだ独身なん?」親友ということもあり、率直に聞いてみることにした。すると!
 
「奥さん、やはるんやけど、仲が悪くて別居中なんやて……」
「仕事は自分で会社してはるらしいから、時間は好きに使えるらしい。それでいつでも来たい時に来てくれはるねん」
「まだ奥さんのいる身で、恵美ちゃんに好きって言うこと自体、どうなん?」
私は彼の言動が許せなかったけれど、恵美ちゃんはどこか幸せそうな雰囲気を醸し出していた。
結婚を諦めていた彼女に、初めて現れた男性だった。
その後、恵美ちゃんと食事に行くことがあったが、数分おきに彼から電話がかかってきた。
「あの人心配性なんや」彼女はそう言って、嬉しそうにはにかんだ。
 
「前妻と離婚もしないで、恵美ちゃんを惑わそうとしている束縛男」私にはそう思えた。また自分の会社の資金繰りがうまくいかず、彼女の資産を奪おうとしているのかも知れない、などと思ったが、彼女にはそれは言えなかった。
 
しばらくして、恵美ちゃんから報告が来た。
「あの人の離婚が成立したので、結婚することになった。結婚式挙げるから、出席してくれる?」
「もちろん、おめでとう!」まだ私の中に不安は残っていたが、祝福の言葉を送った。
 
彼女は手術後、リハビリを頑張り、少しずつ歩けるようになっていた。常は車椅子で過ごしていたのだが、結婚式には車椅子から降りて、バージンロードを一人で歩いた。真っ白のウエディングドレス姿に包まれた彼女は可愛かった。
 
金目当てかも知れない、しかしその思いは、まだ消すことができなかった。
 
そして数年経ち、
 
彼女が認知症になったと彼から連絡が入った。徐々に進行してくるだろうとのこと。
 
恵美ちゃんは結婚後、京都の家から彼の家に移り住んでいたのだが、認知症が進み、トイレの仕方も忘れて介護が大変になったので施設に入所した、と彼から報告を受けた。
 
施設にお見舞いに行った。
部屋に入ると、恵美ちゃんは懐かしそうに笑って迎えてくれたが、すぐにさっきのことは忘れていた。そして彼は恵美ちゃんのそばを離れず、朝から晩までつきっきりで世話をしていた。
「本当は自分の家で、自分で世話をしたいんだけれど、介護で眠れなくて……」施設に入れてしまい申し訳ないと私に詫びた。
そして、恵美ちゃんにもし何かあって、自分一人になるのが怖い、と言った。
 
恵美ちゃんは本当に愛されていた。
彼女は人生の最後に本当の幸せを手に入れたんだと私は知った。
 
 
 
 
***
 
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2024-03-27 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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