メディアグランプリ

何気ない日常こそ、儚くて大切にするべきものでした。


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:深尾暁子(ライティング・ゼミ12月コース)
 
 
高校卒業おめでとう。
 
謝恩会もたけなわの感動のイベント。サプライズでピンクのバラを私の姉である母親に差し出したあなたは、「はい、これ」とだけ。周りは「ママありがとう」という照れくさそうな声や、言葉を交わす親子の姿で溢れています。隣のテーブルのお父さんなんて、娘からのプレゼントに感極まって涙腺が崩壊しちゃってます。なのに、あなたは花を渡し終えると、さっさと友達の輪に戻って行きました。お膳立てされた演出には乗らないのは、実にあなたらしい。
 
中学入学からもう6年経ったのですね。あっという間の気がします。保育園からずっと一緒だった友達と離れたあなたは新しい環境になかなか馴染めず、最初の数年間は、ぎりぎり進級できる出席日数を満たすので精一杯でしたね。そして、ようやく学校に慣れてきた頃、あなたの日常はロックダウンというどうしようもない力によって、大きく変わってしまいました。
 
中学3年生、高校1年生、高校2年生と大きく成長するはずの時期だったのに、修学旅行も入学式も遠足も運動会も文化祭も、当然のように中止になりました。オンラインで授業を受け、たまの登校日には常に人と距離を置くように言われ、マスクの下の表情を伺うような生活を強いられましたね。あの時間があなたに与えた影響が本当はどんなものだったか、私は今日まで考えたことがありませんでした。
 
あの頃は初めての経験に世界中が戸惑っていました。病気にかからないようにあれほどみんなが神経を尖らせたのは、恐らく初めてのことだったでしょう。なんとか日常を取り戻そうと、大人たちは、経済を回せ、補償が必要だ、働き方を変えようと必死に知恵を絞り行動しました。
 
仕事や社会生活が脅かされた大人たちとは違って、子供のあなたたちから奪われた日常は、もっと何気なくて、もっと儚いものでした。それは、教室のざわめきの中で過ごす時間。何をするわけでもなく、ただ友達の隣りにいること。
 
手からスマホが生えているような高校生だって、ビデオ通話だけでは相手が本当に何を考えているか、本当の気持ちが伝わっているのかがわからなくて、もどかしい思いをしていたでしょう。友達と会えないまま高校生活が終わってしまうのではと不安だったに違いありません。
 
でも、その不安と戦いながらも、あなたたちは今日をどう生きるかという問いに答えるため、全力を注いでいたのですね。
 
感染の心配があり合唱ができないならと、ボディーパーカッションで音楽祭を実行した高校2年の春。あの時「体叩き過ぎてアザできてんの。ウケる」と笑っていましたが、あのアザは、日常を手に取り戻すために努力した証だったのですね。やっと実現した運動会に向けての練習では、それまで一度も運動会を経験したことのない中学生の指導に苦労していましたね。「知らないからしょうがないんだけどさ」と愚痴りながら、伝統というものがいかに簡単に途切れてしまうかを、身を持って経験していたのですよね。
 
世の中が少しずつそれまでの日常を取り戻していく中、思い返せば、あなたは学校をあまり休まなくなっていきました。
 
今、謝恩会の会場では、あなたたちの6年間を記録した多くの写真が次々とスクリーンに映し出されています。そのほとんどがマスクをつけた普段のあなたたちを切り取った写真であることが、とても印象的です。パーティションを挟んで前を向いてお弁当を食べるあなたたち。休み時間に窓辺でくつろぐあなたたち。音楽に合わせて踊るあなたたち。掃除用具でふざけるあなたたちや、階段に並んでカッコつけるあなたたち。
 
高校最後の年にやっと叶った修学旅行や文化祭などハレの日ではない、普段の学校生活であっても、同じようにあなたたちは顔を寄せ合い、ピースサインで、カメラに笑顔を向けています。何がそんなにおかしいのか、見ているこちらもつられて笑ってしまうような弾ける笑顔のオンパレード。
 
あなたたちの日常は決して単調な繰り返しなどではなく、人と心でつながる方法を模索し実現する試行錯誤の連続だった。そのことを数々の笑顔の写真がはっきりと証明してくれています。
 
あなたたちは、何気ない日常が儚いものであることを知っている。日常の尊さを知っている。そして、日常を取り戻す知恵も持っている。そんなあなたたちが大人として生きていくことを心強く思います。
 
これからも、あなたは人と心でつながる日常を大切に生きていくでしょう。6年間を一緒に過ごした友達と制服で過ごす最後の日。テーブルの上の食事に手をつける暇も惜しんで、友達とのおしゃべりと笑顔の写真撮影をいつまでも続けるあなたを眺めながら、そう確信しました。
 
卒業本当におめでとう。
 
 
 
 
***
 
この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

お問い合わせ


■メールでのお問い合わせ:お問い合せフォーム

■各店舗へのお問い合わせ
*天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。


■天狼院書店「東京天狼院」

〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F
TEL:03-6914-3618/FAX:03-6914-0168
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
*定休日:木曜日(イベント時臨時営業)


■天狼院書店「福岡天狼院」

〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階
TEL:092-518-7435/FAX:092-518-4149
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00


■天狼院書店「京都天狼院」

〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5
TEL:075-708-3930/FAX:075-708-3931
営業時間:10:00〜22:00


■天狼院書店「Esola池袋店 STYLE for Biz」

〒171-0021 東京都豊島区西池袋1-12-1 Esola池袋2F
営業時間:10:30〜21:30
TEL:03-6914-0167/FAX:03-6914-0168


■天狼院書店「プレイアトレ土浦店」

〒300-0035 茨城県土浦市有明町1-30 プレイアトレ土浦2F
営業時間:9:00~22:00
TEL:029-897-3325



関連記事