“ケチ”が3カ月間の悩みに決着をつけた
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:水戸 綾香(ライティング・ゼミ12月コース)
「欲しいものがあって買うべきか迷っている時、迷う理由が価格だけならば買う。
それ以外の理由で迷うならば見送るのが後悔しない買い物のコツだ」
いつ、誰が言ったのかも忘れてしまったのが、
旧Twitterで見かけたこの言葉が私のお買い物ポリシーになっている。
そしてこのポリシーに従ったことで、私は数々の成功体験を経てきた。
だが、このポリシーだけでは判断が難しい状況に陥っており、
私はいま自分がどのすれば良いか決断しかね続けている。
なんてちょっとカッコつけて話してみたのだが、
要するに、欲しいものがあるけど、ものすごく予算オーバーなので買うか迷っているのだ。
ちなみに迷い続けてすでに3カ月が経っている。
私を困らせている正体は、某ブランドのネックレス。
乳白色でちゅるんと艶めく白蝶貝のボディに、小さなダイヤモンドがさりげなく輝いている。
出会いは昨年末、SNS上でいろいろな人たちのボーナスの使い道を眺めている時に
たまたまそのジュエリーの投稿を見つけたのだ。
写真越しでもわかる美しさに見惚れ、気がついた時にはもう夢中になっていた。
でも買えない。だって、数十万円するんですもの……。
もちろん、全く手が届かない代物ではない。
毎日コツコツと節約を頑張ったら、私にだって買えるとは思う。
今だって、社会人になってから将来のためを思って蓄えたものを思い切ればなんとかなる。
しかし、それに見合うだけの生活なのかと言われたら
「はい、そうです」とはなかなか自信を持って答えることはできない。
確かに「宝石は資産」ともいわれているので、
将来を見据えて今のうちに買っておくのも一つの手だろう。
だが、それは余裕のある人がすべきこと。
だから今回は見送って、人生のご褒美としていつかの楽しみにとっておこうと決めたのだ。
そんなふうに自分を納得させることができれば、
物欲も自然と収まって、いつも通りの日常が戻ってくるはず。
でも今回ばかりは少し違っていた。
一度、納得したはずなのにどうしてもそのジュエリーが頭から離れず、「あのネックレスが欲しい! 」と、私は取り憑かれたようにそれしか考えられなくなった。
だが、どう考えたって数十万円もするアクセサリーなんて身の丈に合っていない。
その資金で学生時代から使っている型落したPCを買い替えたり、
仕事に着ていくスーツを新調したりした方がよっぽど有意義だ。
だけど、どうしても忘れることができない!
そして、来る日も来る日も「欲しい、欲しい」と言い続ける娘に
耐えかねた母は私にこんなアドバイスを告げた。
「どう考えてもその年齢に見合ったものではないと思うならそれを体感してきなさい」
つまり、身の丈に合っていないことを自覚するために、
実際の店舗へ行き、迷惑を覚悟で試着しにいくことを薦めたのだ。
「確かに今の自分の立場がはっきりと分かれば、この気持ちを断ち切れるかもしれない! 」
そう思った私は、早速その週末に大手デパートに向かい、
ハイブランドが軒を連ねるフロアに足を踏み入れた。
この行動がさらなる不幸を招くことになるとも知らずに。
結論から言うと、私はますますそのジュエリーが欲しくなってしまったのだ。
なんと「今日は買えません。見にきただけです」と話す小娘に対し、
店員さんたちは親身な接客をして、挙句には試着までさせてくれたのだ。
それもネックレスだけでなく、同シリーズの指輪まで。
そして店員さんたちに促されるままに身につけてみると、あろうことか「絶対に似合わないはず」と高を括っていたネックレスが似合ってしまったのだ!(少なくとも私はそう感じた)。
「うそ、すごくしっくりきちゃったんですけど……」と、思わず声に出した私の言葉に
「お客様の肌色ともしっかり馴染んでいますし、お召し物にも似合っています」
「当ジュエリーは年代を問わずにお使いいただけますので、これからの人生を長くお過ごしいただけると思います」と続けた。
そんなこと言われたらますます欲しくなっちゃうじゃん!
私はジュエリーを諦めるために店舗に来たのに、欲望は増すばかり。
流石にその場で即決はできず、持ち帰らせてもらうことにしたのだが、店員さんは嫌な顔もせず、「ぜひ、ご検討いただけたら幸いでございます」と丁寧に応じてくれた。
その店員さんの親身さで私は冷静さを取り戻し、3カ月にわたる悩みに決断を下した。
「夏のボーナス、それで買おう」と。
それまで真面目に働いて、頑張ったご褒美にこの店員さんから買いたい。
そう心から思ったのだ。
憑き物が落ちたように久しぶりに心のモヤモヤが晴れ、清々しい気持ちだった。
だが、そんな気分は束の間だった。
なんと帰り際に店員さんはとんでもない爆弾を投下したのだ。
「実はここだけの話ですが、4月に値上がりしますので、それも踏まえてご検討ください」
え? 値上げ?? しかも聞けば約10%も高騰するらしい。
後から調べてみるとハイブランドでは定期的に価格改訂が行われるそうだ。
当然ながら一度値上げされると、価格が下がることはない。
ジュエリー界隈では「欲しいと思った今が最安値」という考え方も浸透しているようで、
価格改訂前には駆け込みで一時的に供給不足になることもあるそう。
「どうしよう、どうしよう、どうしよう」
2フロア上階のカフェに場所を移して、私は悩み続けていた。
だが、小一時間前から悩み事は変わっている。
「ありえない! 諦めるために来た足で、衝動的に買ってしまうなんて! 」
なんと私は持ち前のケチな性格がこんな時にも現れて、
「どうせ同じものを買うなら少しでも安い方が良いじゃないかな」と頭の中で囁き、
衝動的にそのジュエリーを買ってしまったのだった。
まさか“ケチ”なせいで、お金を使うことになるなんて。
「落としたら大変! 」と仕舞い込んだバッグの中から
ブランドロゴが豪華にあしらわれたジュエリーボックスが顔を覗かせる。
買って後悔はしていないけれど、衝撃が大きすぎて放心状態は続く。
だが、いつまでもカフェラテ1杯だけで込んだ店の座席を占領するわけにはいかない。
冷たくなったドリンクを一気に飲み干し、頼りなくなった財布を手にレジに向かう。
「あーあ、しばらくは買い物も贅沢ランチはお預けだな」
レジ前のガラス越しに、自分に対して恨み言を呟く私が映っている。
でもトゲのある言葉とは正反対に、私の顔はマスクで隠しきれないほどご機嫌に見えた。
***
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