メディアグランプリ

取材ライターとして奔走する日々が私にくれたもの


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:下村未來(ライティング・ゼミ12月コース)
 
 
たとえば、卒業式で『旅立ちの日に』を歌い終えた後。
もしくは、恋人が交通事故で亡くなる作品を映画館で観ている時。
そうした場面で、“周りがほとんど全員泣いているのに、自分は1滴も涙を流していないこと”が、たびたびある。
 
これは、父親ゆずりのポーカーフェイスで「しっかり者」「クール」と言われてきた自分のキャラクターが原因かもしれない。どれだけ感情が湧き上がっても「周りにとっての私はこういう場面では泣かないタイプだから」と無意識に言い聞かせていたのだと思う。
 
しかし「みんなと同じように泣いてみたかったのに、なぜか自分は泣けなかった」という寂しさもあった。あんなに人前で涙を流せるなんて、それだけ感受性が豊かで、私のような捻じ曲がったプライドもないのだろう。
 
一方で、「怒り」「悔しさ」「恥ずかしさ」が込み上げて泣くことは、山ほどある。飼い犬のチワワの頭を撫でたらガブリと噛まれて指から流血した時。物事が自分の思うようにいかずに腹が立った時。そういった時の私は、これでもかというほどにギャンギャンと泣いた。しかし、一人でドラマや映画を観ていても、感動して泣くことなど滅多になかった。
 
せっかくなので、みんなと同じように泣いてみようと試みたこともある。高校の卒業式では、過去3年間の思い出を振り返って泣いてみようとしたが、どうにも涙が出てこなかった。その後、教室に戻り「このクラスで良かった」「卒業しても仲良くしてください」と涙ながらの挨拶が続く中、私は俯きながら「すごく寂しいです」と言い、悲しそうなふりを演じたのを覚えている。
 
それが、社会人2年目も終盤を迎えた今。私は自分の大きな変化に戸惑っていた。
 
それはつい先日、大好きなアニメ映画『BLUE GIANT』を自宅で鑑賞していた時のこと。すでに3回は劇場に観にいっているにもかかわらず、ほんの序盤で涙が止まらなくなってしまったのだ。
 
「私、こんな場面で泣けるような人間か?」
 
自分の異変に首を傾げながらも、涙は止まらない。観終わった頃にはリビングの小さなゴミ箱がティッシュで溢れかえっていた。
 
さらに翌日、友人との待ち合わせで新宿駅まで向かっている最中のこと。私はMr.Childrenの『one two three』という曲を聴きながら、街中で歯を食いしばって涙を堪えていた。これまで数百回と聞いてきたが、こんなに胸に沁みるのは初めてだった。
 
「まさか街中で感動して泣きそうになるなんて」
 
また、動画配信サービスで、朝ドラを一気見していた時も。これまで、祖母や母が滝のように涙を流している姿を冷めた目で見ていた私が、クライマックスでわんわん泣いていたのだ。
 
そして私は思った。
 
「あれ……? 最近の私、やけに涙もろくない?」
 
私はすぐさまスマホのブラウザの検索バーに「年を取ると涙もろくなるのか」と入力し、検索をかけた。しかし、そこには衝撃の内容があった。
 
「年を取ると涙もろくなるのは、感情移入しやすくなったのでも、感受性が豊かになったのでもない。大脳の中枢の機能低下が真の理由だ」
 
いや、信じたくない。涙もろくなったのが、ただの衰えだなんて。だって私はまだギリギリ20代前半だ。これが衰えなのだとしたら、私がおばあさんになる頃には、一日中泣きっぱなしではないか。
 
不安に思って読み返すと、至るところに「高齢者は」と主語があり、これはどうやら中高年向けの記事のようだった。私の探し方が間違っていたらしい。
 
「ふう、なんや……」
 
そこで今度は「涙もろいひと なぜ」と検索してみる。すると、ある記事に辿り着いた。
 
「実は私、学生時代の記憶を辿っても卒業式で一度も泣いたことないんですよ」
 
私と全く同じ悩みを持っているライターさんが、脳科学者に泣きのメカニズムを聞くという記事だった。その記事を要約すると、こういった内容であった。
 
・人間には「前頭前野」があり、その真ん中に「共感脳」がある。この働きによって、自分以外の誰かの心情に共感して「もらい泣き」をする(だから共感するポイントをたくさん持つことで、涙もろくなる)
・前頭前野には、怒りや涙を抑える「切替脳」があると考えられている
・涙には人を癒す効果がある
 
「これだ……!」
 
思い返せば3年前、私は就職活動がなかなか順調にいかず、生まれて初めて「もう人生の終わりだ」という日々の連続を味わった。そんな崖っぷちの状態の時、今の会社に拾ってもらい、今では取材ライターとして「書く」という自分の好きなことを仕事にさせてもらえている。
 
しかし現実は、投げ出したくなることの連続だ。良くも悪くも時間はいつも同じスピードで過ぎていき、締め切りはどんどん迫ってくる。「もう書けない!」「頭を使いすぎて爆発しそうだ!」と思っていても、クオリティは保たなければならない。
 
なおかつ、取材ライターとして大切なのが「感受性の強さ」だ。その日に初めてお会いする方の話に心から興味を持って、どんな話にも前のめりになって聞かなければならない。その話に自分の心が揺れ動かされたり、自分が共感できるものであれば、原稿はよりスムーズに進むような気がする。
 
忙しさから自分の変化に気付いてあげられなかったが、そんな毎日を過ごすうちに「共感力」が鍛えられてきたのかもしれない。
 
その日の夜、私は近くのスーパーまで買い出しに出かけた。目の前を歩く女の子が、短い腕を必死に伸ばして父親の手を握っている。
 
私はその後ろ姿に尊さを感じながら、「がんばれ、がんばれ」と心の中でエールを送った。
 
 
 
 
***
 
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2024-03-27 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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