ピッカピカの一年生、4月の事件簿
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記事:ともとも(ライティング・ゼミ12月コース)
「うわーーーーん、痛いよーーーー!! かあちゃーーーーん!! うわーーーん!!」
ある4月最初の土曜日の午後、サッカーの練習に行った息子が、泣きながら足をひきずるようにして帰って来た。
「あらあら、どうしたの?」と息子に聞くと。
「友達に足踏まれたーー! うえーーーーん!!」と大泣きしている。
サッカーの練習に行って、足を踏まれて泣いて帰ってくるとは! 私は吹き出しそうになるのをこらえていた。
それは息子がピッカピカの小学校1年生の時のこと。入学早々に始めた地元のサッカースポーツ少年団に入って、めちゃくちゃ張り切っていた。この日も練習があるからと、自分の膝ぐらいまである小学生用のサッカーボール4号球をリュックに入れて、颯爽と家を出て行ったのだった。
その日も春らしい南風が吹いていた。しかし張り切ってサッカーをしにいった息子が、まるで春の嵐のような勢いで号泣しながら家に転がり込んできた。そして足を踏まれたことがかなり痛かったのだろう、いつまでも泣いている。
しかしサッカーで足を踏まれて泣いているからと言って、笑ってはいけない。サッカーシューズのスパイクでまともに足を踏まれると、本当に痛い。プロの選手でも、痛さでフィールドにうずくまるぐらいなのだ。
ところで息子が幼稚園児から小学生になるにあたり、不安に思っていたことがある。それは、親が子供の行動に介在するタイミングである。幼稚園時代は、子供と園の間に親が介在することが多かった。先生の言うことを聞かない子や、理解できない子もいる中で、先生に負担がかかりすぎるため、親も協力するのは当然だと思う。
しかし小学生になると、一気に親が介在する機会が少なくなる。授業時間は最初のうちは4時間授業で終わる程度だが、5月の連休を過ぎたころからは、午後にも授業がある。参観日でもない限り、保護者が教室に行く機会はない。友達とうまくやっているだろうか、先生の言うことを聞いているだろうかと心配は尽きない。
それは勉強だけではない。サッカーでも同じことが言えるのだ。練習時間は監督やコーチの指示に従って練習するので、何かあっても保護者は介在しない。しかし4月はまだ親子ともに幼稚園時代を引きずっている状態だ。子供は何かつらいことがあったら、親に言えば何とかしてもらえると思っているし、親は子供の言動に口を出すのは当然なのかもしれない。
とはいえサッカーはチームスポーツである。試合中などで何かアクシデントがあった場合、フィールド上にいる選手たちで考え、解決しなければならない。監督やコーチからは、保護者に対してこんな言葉があった。
「子供たちへの指示や叱責、アドバイスは僕たちがやります。親御さんは口を出さないでください。その代わり、子供を思い切り褒めてあげて、応援してあげてほしいんです。」
しかし、足を踏まれたと言って泣いている程度の息子に、自分たちだけで解決しろというのは無理である。私はどうしたらいいかと考えて、息子にこのような話をした。
「そうか、かわいそうに。足踏まれて痛かったねぇ。誰に踏まれたの? 踏んだ子をここに連れてきな。母ちゃんが怒ってやるから!」
すると息子はちょっと考え、(おそらく踏んだ子が怒られたらどうなるか、様子が浮かんだのだろう)黙った。そして口をギュッと結び、
「大丈夫、もう痛くなくなった!」
と言ったのだ。それは今思うと、息子が少しだけ大人になった瞬間だった。
それからは、サッカーの練習中に何かあると、監督やコーチ、あるいはチームメイトと話(時にはケンカになることもあるが)をしながら、少しずつ解決していくようになった。
この事件がきっかけで、息子は明らかにサッカーに向き合う姿勢が変わった。
私はサッカーが大好きなので、息子が出る試合は全部見に行っていた。その度に、子供たちみんなに水分補給の飲み物や氷をいれた麦茶、アイスクリームなどを差し入れしたし、大声で応援もした。自分の息子だけではなく、みんなかわいくて仕方がなかった。
やがて中学生になると、チームメイトがバラバラになった。中学校でサッカー部に入った子、クラブチームに入るため別のチームに入った子、またサッカーをやめた子もいる。しかし今思い出しても、小学校時代のサッカーチームは一番楽しかったし、強かった。子供たちが将来どんな選手になるのかと、夢を見させてもらえたのだ。
あれから20年がたち、息子ももうアラサーと言われる年になった。サッカーは高校3年までずっと続けた。結局プロの選手にはなれなかったが、今でも地元のフットサルチームで活動を続けている。そのおかげですっかり体も大きくなり、太ももやお尻なども筋肉でパッツパツ。そして精神的にも強くたくましくなった息子を見ると、本当によく成長してくれたなとしみじみ思う。
もしかしたら、息子の巣立ちが近いのだろうか。ピッカピカの小学1年生だったころの、この4月の事件をよく思い出しては、涙腺がゆるむ母であった。
***
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