メディアグランプリ

「それって時間外労働ですか?」と聞く気で行った飲みでの顛末


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:香月佑水(ライティング・ゼミ2月コース)
 
 
今日は、この2週間ずーっと面倒に思っていた、飲みの約束の日でした。
 
なんであの時イエスしてしまったんだ……2週間前の自分を後悔したのは何度目だったでしょうか。
ため息をつきながら身支度をするのでした。
 
2週間前、知り合いのAさんが数年ぶりに連絡をくれました。
きっかけはここ、天狼院書店のライティング・ゼミに毎週提出していた文章でした。
 
提出した文章が天狼院書店の規程をクリアし、ホームページに掲載していただいたものを、私のFacebookページにも載せました。
4月に退職することを書いたものだったので、Facebookでの挨拶の補足として使うのに丁度良かったのでした。
 
2つ前の会社で先輩だったAさん。
職場が変わって10年以上経つのに、毎年、私の誕生日にメッセージをくれます。
そんなマメさに加えて、笑顔と雰囲気は七福神の恵比寿さまを思わせる不思議な人です。
 
「来月、誕生日だよね。退職のお疲れ会も兼ねて、うまいもん食べに連れてくよ」
Aさんから久しぶりに届いたメールを見て、脇に鯛を抱える恵比寿さまの映像が浮かんできました。
 
私はこれまで塾で働いていたので、夜に誰かとご飯に行くこともめっきり減っていたのですが、今は断る理由がありません。
それに加え、10年も会ってない私の誕生日をまだ覚えていてくれたんだ、という驚きと嬉しさで、お誘いにイエスをしました。
 
問題は、10年振りに会う約束をした後でやってきました。
嬉しさが波のように引き、冷静な自分に戻るにつれ、昔の記憶が蘇ってきたのです。
 
恵比寿さま、もといAさんは、とにかく人と一緒に楽しむことが好きで、楽しくなりすぎるといつも「長い」のです。
お酒と美味しいご飯があるとなおさら、なかなか帰りたがらなくなってしまいます。
 
初めて会った20年前は、私も体力があったので一緒に楽しめました。
最後に会った10年前は、そういえば途中で人が合流したりでそこそこ大変でした。
 
昔の記憶を思い起こしながら、自分の気持ちに変化が現れていることに気がつきました。
寄る年には勝てないということなのか、不安が頭をもたげます。
 
私、今40代なのだけれど……。
お互い歳をとりましたが、私の中にはあの頃のスーパー元気なAさんしかいません。
あの元気なノリは、今の私には大変、いや苦痛にしかならないかもしれないと思い始めました。
ひょっとして面倒なお誘いにOKしてしまったのではないか……一度気になり始めると、悶々とした気持ちが止まりません。
 
私にとって大変なものでしかないことが、相手にとっては良かれと思って楽しみにしていることで、どっちを優先するのか、した方がいいのかと悩みました。
 
自分を大切にするに決まってるだろうと分かっていました。
なのに、やっぱり行くのをやめますと言わなかったのは、Aさんが久しぶりに私と会うのを楽しみにしてくれていたのが、メッセージで伝わっていたからでした。
 
もしあまりにも長くなる様なら、絶対に帰る意思を示そうと思いました。
子供じゃないんだから、自分の気持ちを言うのにそんな硬くならなくてもいいのですが、初めて言うことになるかもしれない、それは私に緊張をもたらすには十分でした。
まるで決死の覚悟のような思いと共に浮かんできたのは、少し前にネットで見た「それって時間外労働ですか?」みたいな言い方で会社の飲み会を断る社員の姿でした。
 
無理せずにちゃんと帰るぞと何度目かのイメトレをし、飲み会離れはきっと若者だけではないのだと思いながら、待ち合わせ場所に向かったのでした。
 
待ち合わせ場所で久しぶりに見たAさんは、少しだけ痩せていたけれど恵比寿さまのままでした。
この10年、接点がなかったのは事実で、しかも決死の覚悟を心に少し構え気味な私。
そんな私を知ってか知らずしてか、Aさんはイチオシだというお店に案内してくれました。
さすが恵比寿さまというお店のチョイスで、お店の人との会話から、Aさんがここの常連なんだということが見えます。
Aさんは飲み物を持ってきてくれた店員さんに、自然に「ありがとう」を伝えました。
そうだ、こういう心遣いができる人だったなと思いながら乾杯します。
広いカウンターの大将の目の前に席が用意されていたのも、Aさんの人柄を私に教えてくれるようでした。
 
ひさし振りにあったのに、私がこの天狼院書店のライティング・ゼミで書いた文章を褒めてくれました。
「上手だよね」と言ってくれて、昔と変わらない心配りを感じるのでした。
美味しい料理とお酒を前に、自然と昔のように話が弾みます。
そうだった、年下の私が気を遣わずにいさせてくれる場所だったと、思い出したのでした。
 
この時間は、私がこの2週間、面倒に思っていたような無駄な時間なのかな、私が飲む量を知っているAさんが注いでくれる日本酒を見ながら、ふと考えました。
 
仕事上の関係では見えないないであろう姿が、ここにあるのは確かです。
でも、それを知ってるか知らないかによって、仕事の結果がどうなるというのも少し違うよね、とも考えました。
 
私はきっと、無駄だ、とまではいかなくても、無駄かもしれないと思うことにお金と時間を使うのが怖かったのでした。
歳をとってだんだん体力も無くなってきた身として、できるだけ必要なことに自分の時間を使いたいと思うようになっていました。
これから年をとっていく度、さまざまな経験が増える度、こうやって頭だけであれこれ考えることが増え、頭が硬くなっていくのかもしれません。
 
「それって時間外労働ですか?」のような言葉を、不安のあまり頭だけで考えて発していたら、覆水が盆に返らないように、取り返しがつかなくなっていたかもしれません。
 
 
「そろそろ電車は大丈夫?」
時計を見ると、終電どころかまだ十分に余裕がある時間でした。
驚く私に、「もうそんな遅くまではしゃぎ過ぎる年じゃないよ」笑いながらいうAさん。
 
無駄か無駄じゃないか、竹をスパッと割ったように白と黒に分けられないのが、人との関係なのだとこの夜に教えてもらったようでした。
頭で考えすぎるだけではなく、行動して経験して知ることを大切にし続けていかなければいけないな、と思うのでした。
 
 
 
 
***
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2024-04-25 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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