メディアグランプリ

求人票の書き方は「アットホーム」という言葉が教えてくれた


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記事:カキウチ サチコ(ライティング・ゼミ2月コース)
 
 
世の中で最も真剣に読まれる文章は「求人票」であると思っている。
 
多くの人は、働くことに自身の時間の大部分を費やさなくてはならない。フルタイムの正社員であれば、一般的に1日8時間。土日祝が完全休日の職場の場合、年間の稼働日数は245日。時間外勤務を除いても、年間1960時間は会社に拘束される計算になる。さらには通勤時間が加算されるのだ。働く場所を探している人が真剣になるのは当然だ。
 
求職者は報酬・待遇・制度・会社の安定性についての文言を一言一句漏らさず読み込むだろう。また、業務内容・求める人物像・社風など、会社のリアルが知れるキーワードを、求人票の中から目を皿のようにして探すはずだ。
 
真剣な読み手を前にして、当然ながら書き手側の手腕も試される。自社の実情を真摯に伝え、求職者に魅力的だと思ってもらえるように、工夫や努力をしなければならない。
 
採用担当をしている私自身、勉強のため定期的に他社の求人票を読み込むようにしている。多くの求人票を読んでいると、高い確率で出てくる気になる言い回しがある。
 
「アットホームな職場です」
 
就職活動をしたことのある人なら一度は見かけたことがあるのではないだろうか。手垢のついた表現が、いたるところに登場するのだ。
 
一見ポジティブに見える「アットホーム」という言葉。このキーワードで、企業は求職者に何を伝えようとしているのだろう。ふんわりしていて何も伝えられていない言葉のように感じるため、私は違和感を覚えている。
 
小学館「デジタル大辞泉」によると、アットホームとは「自分の家にいるようにくつろげるさま。家庭的」という意味だ。
 
「自分の家にいるように気を遣わず働ける職場です」というメッセージが近いのかもしれない。もう少し解釈を広げてみると「社内の雰囲気がギスギスしていない、上下関係が厳しくない、社員同士の仲がよい」のような意味も含まれていそうだ。
 
「アットホーム」という言葉を目にした求職者側は、企業にどのような印象を抱くのだろう。「アットホームな職場」とネット検索してみると、次のような言葉が候補ワードで上がってきた。
 
「やばい」「ブラック」「なじめない」「嘘」「危険」……
なんだか不穏である。志望動機が上がるどころか、逆に距離を置きたくなるようなネガティブ言葉のオンパレードだった。結局、読み手は企業の発信する「アットホーム」を信じていないのである。
 
なぜ信じられないのかの理由は2つ考えられる。ひとつは、アットホームという言葉の定義の曖昧さ。読み手がそれぞれに想像するしかない。もうひとつは、アットホームを証明するための具体的な事例がセットになっておらず、納得感がないからである。
 
以上の仮定を踏まえ、私なりに「アットホーム」という言葉を使わずに、当社のアットホームさを伝える文言を考えてみた。以下の通りである。
 
「地方中小企業ならではの“WETさ”と、若手社員が望む“DRYさ”を兼ね備えた会社です」
人間関係が近くて濃密な側面をWET、合理主義・実力主義の側面をDRYと表現してみた。
 
当社は社員数50名ほどの小さな会社だ。社員全員の顔が見える距離感で働いている。社長や役員とも気軽に話ができる関係性だ。「今月は誰々さんの誕生日」「誰々さんは犬を飼っている」など、パーソナルな情報は、噂で社内に伝わりやすい。
 
業務においては、2名から5名体制の小さなチームを組んで仕事をする。社員の行動指針に「利他主義」を掲げており、チームワークや和を大切にする風土がベースにある。これらがWETさの所以だ。
 
一方で、社員は3か月ごとに担当業務の中で個人目標を設定し、達成を目指す。達成率が人事評価にダイレクトに影響する。それに、年齢や社歴に関わらず業績を上げた人が役職を与えられるため、30代のマネージャーが40代50代社員を統率しているチームもある。
 
人間関係は近すぎず遠すぎず、程よいと感じられる。飲み会はときどき行われるが、理由なく欠席しても誰も気にしない。付き合い残業はなく、新入社員から先に帰っていく。自分の仕事を責任持って進められていれば、計画的な有給休暇は取得しやすい。これらがDRYさの所以だ。
 
他にも挙げればキリがないので、これくらいにしておこう。少しは当社の個性をイメージしてもらえただろうか?
 
当社では数年前から、求人票にこのキャッチコピーを活用している。カジュアル面談の際にも、応募者にお渡しする資料に挿入している。すると、数人にひとりは「WETって、DRYって、どういう意味ですか?」と興味を持って質問をしてもらえるようになった。ひっかかりを覚えてくれればこっちのもの。私は意気揚々と社内の事例を並べて説明できる。
 
限られた求人票の文字数の中で、当社についてすべてを説明するのは不可能だ。だから、応募者と企業のコミュニケーションの起点になりうるキーワードを、求人票の中に散りばめておくとよいのだ。
 
求人票の書き方についていろいろ試行錯誤する中、数年前に入社した社員から、入社1か月後の面談時にありがたい言葉をもらったことがある。
 
「入社前に教えていただいた“WETさ”と“DRYさ”について、実は話半分で聞いていたんです。でも、入社して体感してみると社内の実情に近いと感じました。正直な会社だなって思いました」
 
このフィードバックが、非常に嬉しかったのを覚えている。「アットホーム」という言葉の違和感を見逃さなくてよかった。耳あたりのよい言葉を並べるだけではなく、どれだけ会社のリアルを表現した言葉を尽くせるか、そして応募者に引っ掛かりを作り質問してもらえるか。私なりの工夫が身を結んだことを知った瞬間だった。
 
様々な性格の個人がいるように、企業の性格も多種多様だ。求人票という応募者へ向けた手紙の中で自社を的確に表現できれば、運命の人と出逢える確率は上がる。これからも、まだ見ぬ社員に向けたラブレターの準備をしていきたい。
 
 
 
 
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2024-04-25 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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