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タイトル:知られざる少年達の美しき魂


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:春澤 寛善(ライティング・ゼミ2月コース)
 
 
私には高校生の長女と中学生の長男がいる。
長女は順風満帆に県内有数の私立高校へ進学し、今年は2年生で学園生活を謳歌している。
持ち前の実力を発揮して、自律しながら充実した青春を過ごしてほしいものだ。
今回はもう一人の子供、長男が主人公のお話。
 
昨年春、泣きながら入学した小学校を無事に卒業し、晴れて中学生になった。
中学校の入学式では可愛らしさの欠片が少しはがれ、その分だけ凛々しい表情を見せていた。
親としては嬉しいような寂しいような、複雑であり幸せな気分に浸る瞬間だった。
小学生時代にはサッカースクールに通っていたが、クラブチームでサッカーをするか、中学校のサッカー部で部活動をするか一時期迷ったあげく、結果的に勉学とのバランスを重視して公立中学校の部活動を選んだ。
 
息子が通う中学校は県内でも上位に入るほどのマンモス校で、そのためかサッカー部員数は50名弱在籍している。
サッカーは11人で試合するため、約3割だけがレギュラーになる計算だ。
それなりに競争が激しく、レギュラーになれる生徒はそれなりに小学生の時から腕を鳴らしていた強者で、初めて見た時は想像以上に体型が大きく、高い身体能力と技術に驚いた。
息子は小柄だが、毎年クラスリレー選抜に選ばれるほどの俊足でスピードを活かすタイプだった。
体力面・技術面では劣るのであればクラブチームと同様、レギュラー争いは厳しいものになると覚悟させられた。
 
“これは相当に引き締めてかからないと、試合に出られない選手生活で終わるかもしれない”
 
バランス良い生活を送って欲しいと願って部活動を選択したものの、いきなり壁にぶち当たってしまった。
土日に試合や練習のスケジュールがしっかりと組まれており、
マンモス校であるが故の恵まれた環境なのか、息子が通う中学校でよく試合が開催されている。
この中学校がいつしか私にとっての応援スタジアムになり、休日ゴロゴロしていた不健康で心地よい生活は一蹴された。
 
レギュラーでもない控えの1年生の親が熱心に応援しに来るなぁと周りから思われていたかもしれないが、少しでも早く、一つでも多く成長するヒントを供給することが先決だった。
1軍でもない子の親が、一番グランドの近くまで寄ってビデオ撮影しており、
滑稽でありながら幸せな時間を過ごしている。
 
少しずつその成果が実り始めたのか、
今春2年生になる前に、1軍メンバーとしてユニフォームに袖を通せるようになった。
1年間で顔つきが変わり、逞しさが増した表情を見せている。
 
この息子が成長したのは“親バカのおかげ”と笑いたいところだが、
実はそうとは言えないエピソードがある。
 
ある日の平日練習で思いがけないことがあった。
2人一組でパス練習していた相手の子が、弾んだ拍子に足首を骨折して救急車で運ばれる事態にあった。
グランドまで救急車が入り騒々しくなった。
救急隊と先生が取り囲む場で息子も事情説明を求められ、息子もきっとたどたどしく状況説明をしたのだろう。パスの精度がどうかは全く問題視されることはなかったが、怪我をした仲間を想って罪悪感があったようだ。
 
その姿を先生と主将が見ていたようで、練習後、息子に寄り添いながら一緒に帰宅してくれたのだ。
一度も話したことがない遠い存在であるキャプテンが、優しくたわいもない会話をしながら一緒に歩いてくれたそうだ。自分を責めず明日から切り替えて元気に練習に来るよう言われ、息子はとても心強かった。
また、実はその時に履いていた靴にもエピソードがある。
道中息子が履いていた靴はとある先輩のものだった。
ケガした子の荷物を急いで救急車へ載せる際に、誰かが誤ってウチの息子の靴を混在してしまい、それが練習後に発覚した。不憫に想ってくれた先輩が自宅まで代替となるスニーカーを取りに行き貸してくれたそうだ。
 
その日の夜、仕事から帰宅して妻からその話を聞かされた時に胸が熱くなった。
後日、それぞれお礼を告げたが、照れくさそうに微笑む姿が何とも少年らしく可愛らしかったが、
まっすぐ私の目を見る眼差しの強さが印象的だった。
“強い者こそ優しい“という言葉の原石に触れた気がした。
 
また、こんなエピソードもある。
息子が同じサッカー部の1年生同士で些細な理由から喧嘩があった。
お互い感情任せの衝突だったそうだが、当日のうちに先生の立ち会いのもと喧嘩両成敗で相互謝罪したそうだ。私も先方の父親と電話で相互に謝罪した。
後日談。
ある日、うちの息子が部活練習前にスパイクを忘れたことに気づいた。その日は公式戦の前日であり、練習後にはメンバー発表があるため部員の誰にとっても大事な日だった。
すぐに自宅までスパイクを取りに帰りたいが集合時間に間に合わない。
息子が絶望して打ちひしがれていた時、「俺のスパイクを履け」とその喧嘩相手だった同級生が言ってきた。
「お前はここ最近調子が上がってきている。俺よりもお前の方がチャンスある。これを履け。おれはお腹痛いから今日は見学する」と言い残して、どう見ても丈夫そうだったが先にグランドへ向かったそうだ。
1年生で誰もが“レギュラーになりたい”と切望していたことだろう。
そんな想いを傍らに、同じ志をもつ“仲間の希望”を優先したのだ。
息子は「涙が出そうになるのをグッと堪えていた。このことは一生忘れない」と強く想ったそうだ。
その日、息子は初めて公式戦のメンバー入りを果たした。
積み重ねてきたどんな努力よりも、この“慈悲深いスパイク”が選ばれた要因だろう。
 
「またいつか借りは返せ。そして、他の人にも困った時にはできる限りのことをしてやれ」
父として、男として、息子に最高のアドバイスを贈れたこと、
私もその同級生の子に最大限の感謝を心に抱いている。
 
これらの部活動でのエピソードには感謝してもしきれない。
まさか“慈悲深い人間になる”ことまでも教えてもらえるとは思いもよらなかった。
 
息子は今日も懸命に努力している。
それは技術、体力、勉学、そして“人を思いやる”精神。
「いつかプロになりたい」と幼少期から言っていたため、クラブチームに加入させるべきか親として相当に悩んだ。でも、人間形成をしていくことがその前提であり、夢を追いかけるプロセスを最優先した選択肢は間違いではなかったと今では確信できる。
これからは人口減少が加速し、ますますの高齢化、海外人材との融合、多様性の時代になる。
その時代に一番大切なことは、何よりも「慈愛」であるだろう。
世の中サッカーだけではない。そうした意味では、様々なジャンルでプロを目指せばよいのだ。
 
ただ、まだ諦めて悟っているつもりはない。
現サッカー日本代表キャプテンの遠藤航は、世界最高峰といわれるイングランドのプレミアリーグの強豪チームの要で誰もが認めるスター選手になった。
中学時代ではクラブチームではなく部活動に所属し、当時弱小と言われたチームを率いていたそうだ。
少年期にプロ選手として効果的に育つ要因は強化プログラムだけではなく、
夢に向かって健全な精神を維持し続けることも重要であると証明された。
 
“美しい魂”でチャレンジし続ける少年達から感銘を受けた。
息子がいるサッカー部は昨季20年ぶりに県大会出場を果たし、今年はさらに躍進を狙っている。
私は最後の最後まで、全員を応援している。
 
 
 
 
***
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2024-05-02 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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