メディアグランプリ

10歳年下の憧れの同僚の強さの秘密は、泣きじゃくる2歳の子どもだった!


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記事:紅茶のカヌレ(ライティング・ゼミ2月コース)
 
 
看護師として働く私とMさんとの出会いは、私が精神科病院のA病棟に異動した時だった。
Mさんは私より10歳年下で、3児の母親だ。
精神科病院での経験が長く、精神科に関しては私より先輩だった。
Mさんの見た目は、ほんわかした癒し系で、のんびりとした印象。
 
ある時、私とMさんが精神状態の悪化した高齢の男性患者さんと話をしようとしていた。
私は言葉や身振り手振りを変えて、いろいろ話しかけてみたが、患者さんから完全に無視されていた。
隣で見ていたMさんが、患者さんの前に立ち、突然言い出した。
「じゃんけんをしましょうか? はい、じゃんけんほい!」
あまりの突然のことに、私もびっくりしたが、患者さんも目を丸くしてMさんを見つめていた。
そして、何度かMさんに促されて、患者さんがじゃんけんをはじめたのだ。
すごい!! 精神状態が悪く、意思疎通が困難な患者さんと、こんな関りができるなんて。
私の発想には全くなかった方法で、言葉以外の関りができている。
その後、Mさんと患者さんは笑顔で、じゃんけんを楽しんでいた。
それからも、Mさんと様々な患者さん達との関りは、私の学びになることばかりだった。
どちらかというと、頭でっかちでテキストや論文などの知識に偏りがちな私に、Mさんの看護は新鮮だった。
経験に裏打ちされたコミュニケーションの方法は、Mさんが長年に渡って努力して身に付けたものに違いない。
そういうMさんのことを、私は心の中で密かに憧れていた。
Mさんのマネをして、少しでもMさんに近づけるような看護がしてみたいと思っていた。
 
そして、今から1年ほど前、Mさんに悲劇が訪れた。
Mさんの最愛の夫が突然病死されたのだ。
1ヶ月ほど休んで仕事に復帰したMさんは、痩せていて疲れ切った様子だった。
本人から夫が亡くなったと聞いた時、私はMさんに何と言っていいのか言葉が見つからなかった。
泣きながら必死に話すMさんに、連絡先を交換して、「いつでも困ったことがあったら連絡してね」と言うのが、精一杯だった。
こんなに憔悴したMさんが、仕事と小さい3人の子育てを両立していけるのか心配になった。
しかし、そんな心配をよそに、Mさんは周りの協力を得ながら、今まで通り仕事を続けていた。
 
Mさんの夫の1周忌が近づいた時、Mさんと休憩が一緒になって話しかけた。
「最近疲れてない? あんまり無理したらダメだよ。一番下の子は2歳だったよね。手がかかって大変でしょう? 早く上の小学生の2人みたいに、1人でいろいろできるようになるといいね」
 
Mさんは、笑顔で答えた。
「少し疲れているかもしれません。でも、逆なんです。私は、一番下の子に感謝しているんです」
感謝? 一番手のかかる2歳の子に?
 
Mさんは続けて話した。
「一番下の子は、夫が亡くなったことがわかってないんです。だから、いろいろな場面で泣きじゃくって訴えてくるんです。あの子が泣いているのを見ると、頑張らないといけないって、思えるんです。上の小学生の2人は気を使ってくれるけれど、下の子はそれがない。だから私は頑張れるんです。私がこうしていられるのは、下の子のおかげなんです」
 
そうだったのか。
私は何もわかっていなかった。
見た目で勝手に、一番手のかかる2歳の子が大変だろうって思い込んでいた。
でも違った。
最愛の夫を亡くして、悲しみの中にいたMさんを立ち上がらせたのは、2歳の子どもだった。
Mさんが強くなれた秘密は、2歳の泣きじゃくる子どもだったのか。
なんて深い親の愛情だろう。
自分一人では、決して立ち直れないような悲しい出来事から、愛する子どものために立ち上がることができるなんて。
それに、職場の同僚である私に対して、素直に自分の子どもへの感謝を話せるMさんの心の広さにも感動した。
こんなふうに素直に自分を見つめて語ることができるMさんだから、周りに助けてもらえるのだろう。
そして、そういうMさんだからこそ、患者さんとの関りの中で、他の人とは違うコミュニケーションがとれるのだと思う。
Mさんの患者さんへの関わり方を、上辺だけマネしても、きっとダメだ。
そこにMさんという人がいてこその関りに違いない。
これからは、Mさんのマネをやめて、自分の関り方を見つけようと思った。
こんなことを気づかせてくれるMさんは、やっぱり私の憧れの人だ。
10歳年下だろうが、年齢なんて関係ない。
学びたいと思える尊敬できる人がそばにいて、私は幸せだ。
 
今も私は、憧れのMさんと毎日、一緒に仕事をしている。
私は、これからも同僚としてMさんを支えていきたいと思っているし、Mさんから学び続けていこうと思っている。
そして、いつかMさんに密かに憧れていることを伝えたいと思っている。
 
 
 
 
***
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2024-05-02 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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