イライラの原因は、お月様のせいにしちゃおう。
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか？賞を取れるのか？プロも通うのか？〜
記事：関谷陽子（ライティング・ゼミ2月コース）
満月の日は、犯罪率が増えるらしい。
そう夫に言ったら、鼻で笑われた。
確かに、実際には犯罪率と月の満ち欠けには関連性はない、という研究結果がすでに発表されている。が、それに対して、「満月の日は凶暴な泥酔者が多くなる」と言う警官もいるらしい。
結局のところどちらが正しいのかは、いまだに分かっていない。都市伝説の域を出ない説だとは思う。ただ、月の満ち欠けにより、実は体調に変化がある人が一定数いる。
何を隠そう、私だ。満月の日には、かなりの確率で身体のだるさや頭痛を感じる。眠たくて眠たくてたまらなくなる。逆に、まったく眠れなくなる時もある。
その傾向に気がついたのは、ほんの数年前くらい。ママ友と、子供が赤ちゃんのころの思い出話に花を咲かせていたら、「うちの息子、夜泣きがひどかったんだけどさ。一番ひどいのって、決まって満月の日だったわあ」と言う言葉を聞いた時だ。
そういえば、満月の時って出産が重なるって言うよね、犯罪も増えるって聞いたことある。そんな話で一通り盛り上がった時に、ふと、自分も満月に影響される人間かもしれないと思い、その後しばらく自分の体調と、月の満ち欠けを観察してみたのだ。
数ヶ月たち、なんとなく身体が重たいとか、頭痛がする、寝つきが悪いなどの不調を感じる時は、満月の日が多いと実感した。それどころか、２人の私の息子たちも、同じ傾向があることに気がついた。
特に長男は、精神的に不安定になる日が、満月とほぼ重なっているようだった。
発達障害がある長男は、精神面の発達が人より少しゆっくりだ。高校生になってもなお、癇癪を起こすことがゼロではない。ゆっくり歩調を合わせ、気長に子育てをするしかないのだが、親も人間。癇癪のひどさに、疲れたり、途方にくれることもある。癇癪を起こしやすい日がわかれば、対策を立てやすいと思っていたので、満月の日にはひときわ不安定になる、という仮説は私にとって大発見だった。
できれば、この発見を夫とも共有したい。ただ一つだけ問題がある。
こんなスピリチュアルっぽい話、理系脳で理論が大好きな夫が、受け入れてくれるだろうか、というところだ。
おそらく、単に「満月の日に、不安定になるみたいよ」と、そのまんまを伝えてしまうと、そんな馬鹿なと言われて終わるだろう。だから作戦を考えた。
「満月の日には犯罪が多い」という言葉は、以前にどこかで聞いたことがある。これは、統計学的な視点だと思う。それなら夫の大好きな「理論的」な話だろうから、受け入れられるのではないか？ そこを切り口として、長男が満月の日に不安定になるよ、という話に持って行けばどうだろう。
うん、きっとうまくいく。我ながらいい考え！ 超冴えてる！！
そう思って、得意げに、「ねえねえ、満月の日ってさ、犯罪が増えるって言うやん？」と伝えてみたところ、「は？ なに言ってんの？ そんなわけないやん」と、あっさりと否定されてしまった。鼻で笑われるというおまけつきで。
作戦失敗。でも、私はどうしても夫と共有したかった。長男のメンタルケアのためなのか、鼻で笑われたからムキになっているのか、その時にはもう分からなくなっていたが。
「でも、月も地球も重力があるやん。それって月と地球の間の距離が変わると、多少変わってくるよね。敏感な人は、そのほんのちょっとの重力の差とかで、体調が悪くなることもあるかもしれんやん。実際に、私、満月の日って、体が重たくなったり、頭が痛くなったりするもん。本当に関係あるかどうか分からんけど、なんとなく体調がおかしいから、イライラしやすくなる可能性もあるやん」そう言って、自分の考えをぺらぺらと話してみた。もちろん、本当かどうか分からない。
「まあ、あんたは雨の日に頭痛が起きやすいとは聞いてたし……。もしかしたら、そういうこともあるかもしれんけど……」と、完全に同意はできないけれど、否定しすぎるのも悪いかな、という態度が見え見えの返答で、その場は終わった。
残念。この大発見で、長男のメンタルケアの参考になるかと思っていたのに。
仕方がない、ここは本人に伝えて、日頃の行動を決める参考にしてもらおう。長男はすでに18歳。自分で気をつけることも必要だろう。
そう思い、ほぼ同じことを長男に伝えた。さらに、「満月の日は不安定になりやすいから、レポートの締め切りに追われるとか、そういう負担になることはやめた方がいいよ。満月の日は、できるだけゆっくりしたり、遊びの予定を入れるようにしたらどうかな」と伝えた。
それから、実際に満月の日には、「ほら、いつもよりイライラしてるって思ったら、やっぱり満月やん。今日は仕方がないから、早く寝たら？」などのアドバイスもしてきた。その姿を、夫は少し離れたところから、生暖かい目で見ていた。
が、数ヶ月たつと、私の仮説のように、長男の不安定さと満月の日がかなりの確率で重なることを、夫も実感したらしい。さらに、不登校をしている次男も、その日は中々起きてこなかったり、頭痛を訴えることが多いことにも気がついたようだ。
ある日、「長男がイライラしていると思ったら、明日は満月みたい」というラインが夫からきた時は、思わず心の中でガッツポーズを作ってしまった。
本当かどうか、分からない。でも、なんだか気持ちが不安定だと思う時、理由をお月様に投げてしまうことが、こちらにとってもストレスが低くなることが分かった。「そんなことでイライラせずに、自分でコントロールしろ！」と、長男に声を荒げていた夫が、「今日は満月だから仕方ないな」と言うようになったのだ。
今では、夫から、「今日は満月だから、月の民のみなさんは、しんどい日やねえ」という言葉が出るようになった。時々、そんなに体調が悪いわけでもないけれど、「今日は満月だから、体が重たいわ〜」とつぶやいて、家事をサボる材料にしていることは、夫には内緒だ。
人間って、結局理論よりも、その人がどう感じているか、の方が大事なのかもしれない。
お月様。悪者にしちゃってごめんなさい。あなたのおかげで、今日も我が家は平和です。
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