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24時間働けないから食べて寝ていてもいいんです

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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:珠海(ライティング・ゼミ4月コース)
 
 
 目の前で、学生服を着た若者たちのグループが、楽し気に話しながらゆっくり歩いていた。先を急ぐ私は、少しイライラしながら追い抜くが、また目の前に別の学生服を着た若者たちが、同じように話しながらゆっくり歩いていた。追い抜こうとすると、今度は前からスーツに身を包んだ男性が大股で勢いよく歩いてきたので、行く道を遮られた。
 急いでいる時に限って、うまく前に進めない。
 だが、私は何をそんなに急いで歩く必要があるのだろう。
 
 ここ数年、ようやく街には人の往来が戻ってきた。世界中で大流行した感染症の影響により、一時期はゴーストタウンのように街には人の往来がなかった。その頃は、周囲の人に合わせることなく、自分のペースで歩くことができた。現在の歩行者通路は、急ぐ人、ゆっくり歩く人、おしゃべりしながら歩く人。目的地が同じだと、自然と人々は横に広がって歩いて行くのだが、反対方向から人が来てすれ違う時は、一時的に横に広がって歩いていた人々が、縦になって譲り合い、またそれぞれの目的地へと向かっていく。前の人のペースに合わせて歩く人もいるが、多くの人が周囲の人の歩く速度に合わせることもなく、自分たちのペースで歩いている。
 
私は人より歩く速度が遅い。人より身長が低いから、歩幅も狭いからだと勝手に解釈をしている。
 身長が低いと足も短い。自然と歩幅も狭くなるので、若い頃はペンギンのような歩き方だと言われていた。歳を重ねてもその歩き方は変わらない。健康のために大股で歩く方が良いとは言われるが、長年積み重ねてきた歩き方の癖というものは、そう簡単に変えることは難しい。
 
 ふと若い頃を思い出した。ペンギン歩きと言われながら、なぜあんなに急いで歩いていたのだろう。
感染症が流行したことを契機に、発熱したら仕事を休むことが当たり前になってきたが、それまでは当日に仕事を休むということは非常識とされていた。学生の頃のアルバイト先の上司は、
「体調不良は前日から徴候があるのだから、当日欠勤はありえない」
と、よく言っていた。社会人となって働き始めてからは、37度台なら働けると言われ、生理痛が辛いなら、痛み止めを使ってでも出勤することが当然、というような風潮が職場にはあった。睡眠時間を削って働くこと、体調不良でも微熱程度なら出勤することに疑問を感じつつも、働けば働くほど高くなる評価のため、無理をして働いていた。
たった24時間しかない1日の大半を仕事に使い、職場と家との往復だったのに、少しでも早く歩けば休む時間が確保できると思っていたのだろか。
いつも何かに追われているような働き方に、気づいていないからだろう。ペンギンのように、短い足をせわしなく動かして歩いていた。
 そんな風に急ぎ足で歩いているのは、私だけではなかった。周りの会社員と思しき人々や学生服の人々も、皆一様に急ぎ足だった。人々の動きが一つの川の流れのようで、その流れにのらないと目的地にたどり着かないかのような錯覚に陥る。言い換えれば、その人々の流れに身を任せれば、目的地までたどり着けるのだ。
 不思議なことに、その川の流れは、自然と行く方向と来る方向へと、互いに交わることなく流れているのだ。その人々の流れにのって歩くことは苦痛ではなく、むしろ楽だった。なにも迷うこともなく、考えることなく、ただ歩けば良いのだ。そこには自分の意思とは関係なく、轢かれたレールの上を走る電車のように、流されてただ歩けば良いのだから。
 だが今の歩行者通路には、そんな人々の流れはほとんどない。
人の往来が戻ってきた今、ゴーストタウンと化した頃の街のように、自分勝手に歩くことはできない。
目的地へ行くために、歩く速度や周囲の人の速度も考えて歩かなければならないこともある。
 
それも悪くはない。
誰かに急かされることもなく、時間に追われることもない。
自分の足で、自分のペースで目的地まで歩けるのだ。
 
 1日は24時間。
誰のためでもなく、自分のための時間を自由に歩くことができる。
時には休むことも必要だ。
 24時間働くことはできないから、たまには食べた後にゴロゴロ寝転んで、何もせずに1日を終えるのも悪くない。
時にはゆっくり歩き、人の流れではなく、雲の流れや、陽が沈む様を眺めるのも悪くない。
 
健康診断の時期になると、事前に記入する問診票を渡される。その項目には、必ず歩く速度についての質問事項がある。
 足は気持ち大きく踏み出し、腕を大きく振って、いつもより少し早く歩くことを心掛けると、代謝もアップし健康にも良いのだとか。今年は歩く速度が速いと記入できるように、大きく前に一歩を踏み出して歩いてみようか。
 周囲の目や歩く速度に合わせず、自分のペースで自分の道を歩いて行こう。
 時には立ち止まり、周りの景色を眺めることを忘れないように。
 
 
 
 
***
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2024-05-02 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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